12 終焉の光
なあ、君ならどうする?
すべてが崩れかけて、もう何も残らないって思う状況でさ――それでも前に進めるか?
俺?
正直、もう限界だって思ってた。
でも、それでも動くしかなかったんだよな。
模様が放つ光は、さらに強まっていた。
裂け目から漏れ出す魔力が路地全体を覆い尽くし、空気そのものが重くなっていく。
俺はその中心に立ち、右手のルビーのブレスレットを見つめた。
脈動する魔石が、まるで生き物のように鼓動を繰り返している。
「頼む、力を貸してくれ。」
俺がそう呟くと、ブレスレットが眩い光を放った。
その光が俺の全身を包み込み、力が体に溢れ出してくるのを感じた。
「零、何か来るよ!」
ハルが肩の上で叫ぶ。
次の瞬間、裂け目が大きく広がり、そこから現れたのは――。
巨大な魔物、それも異世界で伝説とされる存在だ。
全身を漆黒の鱗で覆い、瞳には赤い炎が宿っている。
「…来たか。」
俺は防御魔法を展開し、魔物と対峙した。
その戦いは、これまでのどれとも違った。
魔物の一撃は、俺の防御魔法をも簡単に打ち砕く。
攻撃を放つたびに、周囲の建物が揺れ、瓦礫が飛び散る。
「零、危ない!」
ハルが警告を発する。
俺はそれを聞いてギリギリのタイミングで回避するが、体力がどんどん削られていく。
君ならどうする?
こんな状況で、戦い続けられるか?
俺?
正直、もう限界だった。
だけど、ここで引けるわけがない。
ブレスレットが再び強い光を放つ。
その光が魔物を包み込み、一瞬動きを鈍らせる。
「今だ…!」
俺は渾身の力を込めて、一撃を放った。
それが魔物の中心を貫き、ついにその巨大な体を崩れさせた。
魔物が消滅すると同時に、模様の輝きも徐々に弱まっていく。
裂け目がゆっくりと閉じ始めたのを見て、俺はようやく息をついた。
「零、やったの?」
ハルが不安そうに尋ねる。
「いや、これで終わりじゃない。」
俺はそう答えながら、模様の消えかけた痕跡を見つめた。
その時、背後から声が聞こえた。
「やるじゃないか、一条零。」
振り返ると、そこには鷹村が立っていた。
相変わらずの無表情で、俺を値踏みするように見ている。
「お前は…!」
「お前がここまでやるとは正直驚いたよ。」
鷹村の言葉には、どこか試すような響きがあった。
「だが、これで終わりじゃない。境界の崩壊は、まだ始まったばかりだ。」
その言葉を聞いた時、俺の中で一つの確信が生まれた。
まだ戦いは終わらない。
そして、この戦いは――俺だけじゃなく、もっと大きなものに繋がっている。
■「元勇者 シリーズ1」 で続く。