11 境界の崩壊
「これ以上どうしようもない」って状況で、何をする?
諦めるか、それとも最後の力を振り絞るか――。
俺?
正直、諦めた方が楽だって思うこともある。
でも、俺にはもう後戻りできる道なんて残ってなかったんだよな。
路地裏に刻まれた呪印術の模様。
それが輝きを増し、まるで生きているように動き始めた。
空間が揺れ、裂け目が徐々に広がっていく。
「零、これ、どうするの!?」
ハルが肩の上で慌てた声を上げる。
「わかってる!」
俺は右手のブレスレットを見た。
ルビーの魔石が、不規則な脈動を繰り返していた。
まるで何かを訴えかけるように、光を放つ。
その光が俺の体を包み込むと同時に、冷静さが戻ってくる感覚があった。
「ありがとうな。」
俺はそう呟いて、模様の中心に向かって一歩を踏み出した。
模様から放たれる魔力が強烈で、まるで体に杭を打ち込まれるような痛みが走る。
だけど、ここで止まるわけにはいかない。
俺は防御魔法を展開しながら、模様に手をかざした。
「零、空間がどんどん裂けていく!」
ハルが叫ぶ。
その言葉通り、裂け目の中から無数の魔物が姿を現し始めていた。
一匹や二匹じゃない。
次から次へと――まるで終わりの見えない洪水みたいに。
君ならどうする?
こんな状況で、立ち向かえるか?
俺は、足が震えそうになるのを必死で堪えながら、全力で立ち向かった。
魔物たちの群れに向かって次々と魔法を放つ。
ルビーのブレスレットが光るたびに、俺の力が引き出されるのを感じる。
だけど、数が多すぎる。
「くそっ、キリがない…!」
俺は一瞬息を切らしながら、魔物たちの間を駆け抜ける。
その時だった。
模様の中心が再び強い光を放ち、空間全体が一瞬凍りついたように静まり返る。
そして――現れた。
これまでの魔物とは比較にならない、圧倒的な存在感を持つ一体が。
「零、あれ…!」
ハルの声が震える。
俺も一瞬、息を飲んだ。
巨大な翼を広げ、全身を漆黒の炎で包んだ魔物――いや、異世界の支配者級の存在だ。
その姿を見るだけで、体が拒否反応を起こしそうになる。
「…ここで終わりってわけにはいかねえだろ。」
俺は右手のブレスレットに力を込め、魔法を練り上げた。
戦いは、今まで以上に激烈を極めた。
その一撃一撃が、路地全体を破壊しかねないほどの威力だ。
俺は防御魔法でなんとか耐えながら、隙を見つけて反撃を繰り返す。
ルビーの魔石が再び光を放ち、力が体に流れ込む。
「行くぞ!」
俺は全力の一撃を放ち、ついにその魔物を打ち倒した。
だが――それで終わりじゃなかった。
模様はまだ消えない。
裂け目も、完全には閉じていない。
「零、これ…次があるよね。」
ハルが肩の上で囁く。
「ああ、終わりはまだ先だ。」
俺は荒い息を整えながら、模様の中心をじっと見つめた。
夜空を見上げると、月が完全に雲に隠れていた。
その暗闇の中で、俺は自分の決意をさらに強くした。
ここで止まるわけにはいかない――絶対に。