表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ナマモノに当たる

作者: 強化めいる

牡蠣に当たるのは人生で3度目だ。



1度目は小学4年生の時。

お菓子より酒のつまみが好きな小学生で、ある日生牡蠣にハマり学校帰りに近所の商店で殻付きの生牡蠣を買って帰るのが楽しみだった。

初めは父親が剥いていたが父親の帰りが遅い日がある為、ステーキ用のナイフで見様見真似で1人で剥けるようになっていた。

そんな僕を「うちの子は変わっている」とどこか嬉しそうに両親は話していたのを覚えている。



年末、少し遠出して市場に食材を買いに行くのが恒例だった。

小学4年生の年、父親がお年玉代わりに生牡蠣を10個買ってくれた。

「1日3個までだよ」と。



4日目、見事大当たり。



熱が出て上から下から滝流れ。



そこで嫌いになっていれば良かったものの、喉元過ぎればなんとやらで結局食べ続けていたのだった。

女ってなんであんなナマモノ好きなの?

数回食事をすると大抵「生牡蠣が食べたい」と言い出す。

そして僕は店を探しのこのこ予約するのだ。

食べない訳にも行かないのでえいっと食べると結局美味い。

多分ポン酢が好きってだけだけど。

個体差があるのもいい。



そして2度目、24歳で地元から離れた土地に引っ越した年だった。

当時のお客さんが予約してくれた海鮮居酒屋で出て来た牡蠣の味がアウトっぽかった。

お客さんの前で吐き出す訳にも行かず、ニコニコしながらビールで流し込んだ。



深夜久しぶりの悪寒。

上か下かを選択させられている気持ちになるが、もう成人した大人なのでなんとか汚さず生き延びる方法を編み出していた。

当時一緒に住んでいた恋人(後に元伴侶A)は出張が多く、1ヶ月丸々居ない時にぶち当たってしまった。

頼れる友人もまだそこまでおらず、1人震えながらたまたまあったポカリスエットを握りしめて眠っていた。



そして30代の今。

近所で食べた牡蠣が人生で3本の指に入るレベルで美味しく、牡蠣欲がまたぶり返したのだ。

友人に「美味しい牡蠣が食べたい(その店に行きたい)」と遠回しに伝えると繁華街にある貝専門店を予約すると言う。

確かにうちの近所は便があまり良くないので仕方が無いのだが、渋々了承した。

流石に30代になると生牡蠣に対する恐怖心もあり、「牡蠣しゃぶにしよう」との提案で牡蠣しゃぶを堪能した。

お互い酒好きなのもあり日本酒を6合飲み2次会もしこたま飲んだ。



二次会の地点で友人は吐いていたらしい。

恐ろしいのは2人ともそれを「酒の飲みすぎである」と思い込んでいた所だ。

それ程に酒を飲み泥酔していた。



そして帰宅後、就寝1時間で胃のムカつきにて起床。

酒飲みあるあるである。

込み上げる胃液。無理やり押し込むというか、腹筋に力を入れ喉を絞める感覚で胃に戻す。

それを2時間繰り返していた。



貧乏性なのである。

嘔吐恐怖症までは行かないが、吐くという行為に嫌悪感が凄い。

牡蠣屋7000円、二次会5000円...等と換算してしまう。

無様に顔中から液体を垂れ流し無に返す訳にはいかない。



2時間耐えたがいよいよ耐え切れず「吐いた方が楽になる」という脳内会議の結果戻す事にした。

「今から12000円をドブに捨てるんだな...」という罪悪感を感じる間もなくオートで出た。

こうなるともう止まらない。

そうこうしてるうちに下半身がノックされている。



嗚呼、生き地獄。



もう二度と酒なんか飲みませんあんな害悪でしかない俗物。

ごめんなさいもうカラオケで一気なんかしません。



30分ありとあらゆる水分を身体から出し切った後に待つ悪寒、発熱、関節の痛み...



何やってんだろう。



何の為に生まれたんだろう。



喉は渇くから水分を取ると、全て腹筋の力で押し戻される。



もう二度と酒なんか見たくない。CMですら見るのも辛い。酒があるから僕の人生は狂ったんだ。家族だってそうだ。酒さえ無ければ...



待てよ



飲酒歴10数年間で数多の二日酔いを経験して来ているが、関節が痛くなる二日酔いは無かった



関節痛が起きるのは熱が出た時だけ



風邪を引いてもなかなか熱が出ないタイプの人間なので、即ピン。



牡蠣ですね。



友人からの連絡。



「当たってない?」と



やっぱりそうかーーーーーー



10年間に1度のペースで牡蠣に当たっている。

だがしかしほとぼりが冷めたらまた食べるであろう。分かってる。酒もそうだ。毎回「二度と飲むもんか」って決めて次の次の日には飲んでいるのだ。

こうして誰よりも自分に甘い自堕落人間として30年以上生きている。



あと何年繰り返すんだろう。



「うちの牡蠣は安心です」は嘘です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ