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復讐は貴女のすべて  作者: A.M.
プロローグ
2/3

0-2.序章___ある春の日

XXXX年4月25日


 皇女ローデシアはバルコニーの手すりの上に立っていた。


 視界の端にきらめく己のプラチナブロンドは、髪がふわりと舞うたびに世界を輝かせ。眼前に拡がる立派な庭園は太陽の光を浴びて生き生きとし、空はどこまでも青く澄みきっていた。


 足の裏から伝わる大理石の冷たさ、暖かい春の空気。


 なんて素晴らしいんだろう!いったいどうして、わたしは今の今までここから飛び出さないでいられたのかしら。


 感謝とお別れの想いを込めて部屋を振り返ると、よく知った人物と目がかち合った。冷静沈着な彼が、これまでにないほど瞳を揺らして立ち尽くしていた。


「ローデシア」


 わたしの名を呼ぶので、申し訳なさそうに笑いかけると彼は顔を青くした。


「なにをなさっているのですか。降りてください、お怪我でもされたら」


「おい!」


 眼下から焦れた男の声を聞き、わたしは困惑している彼に背を向けた。黙っていてごめんね、だけどあなたきっと止めるもの。


 ふう、と息を整えながら心を落ち着かせる。だいじょうぶ、怖くないわ。失敗しても足が折れるだけだって、あの人も言ったじゃない。


「成功するわ。きっとね」


 ぐっと唇を噛み締め、思い切ってバルコニーの細い手すりを蹴った。一瞬の浮遊感の後、ものすごい速度で落下していく感覚。死の危険に全身が強張った。


が、すぐさま誰かに受け止められた。


「ぐう」


 うめき声にそっと目を開けると、ドキリとするほど美しく神秘的な瞳が、いまいましそうにわたしを見ていた。男は、わたしの下敷きになっていた。慌てて受け止めてくれたからか、フードが脱げていて、隠されていた男の素顔は光を浴びていた。


「窓をつたって降りるって言ったのに、そのまま飛び降りるなんて…」


 ところどころ跳ねた真っ黒な髪。色白の滑らかな肌。女神がキスしたようなベビーピンクの唇。すっと通った鼻筋と、綺麗な二重。


 乙女の夢を詰め込んだ容姿は、運命の王子様そのもの、いかにも駆け落ちロマンスにいそうな印象であった。惜しむらくは、ぶつぶつ文句を言っていることくらい。


「ローデシア!」


 はっと見上げると、バルコニーから彼が身を乗り出していた。


「ローデシア!お怪我は」


 彼の問いかけに答えないよう、男の手がわたしの口を押さえた。


「飛び降りた勇気に乾杯!」


 男はにっこり笑った。夜空の下では金の鱗粉を散らしたような紫だったけれど、本当はびっくりするほど深い青に、新緑を滲ませた瞳だったのね。


 男はわたしを抱えたまま堂々と庭園を駆け抜けていった。そして、門扉の馬車から馬を奪って飛び乗った。ここまで、息は乱れていない。


「ハッ」


 合図のとおりに、馬は意気揚々と脚を上げた。


「つかまれ!」


 どこか興奮している様子の男に頷き、振り落とされないように首にしがみついた。



 このときのわたしは、窮屈な居城を抜け出した、その初めての解放感に心を震わせていた。



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