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百合に挟まりたくない俺は全力で妹の友だちから距離を取る。え? 好きなのは妹じゃなくて俺?!  作者: 戸津 秋太
一章

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第20話 勉強会

「試験勉強?」


 夕食を済ませてキッチンで食器を洗っていると、リビングのソファの背もたれに座り、足をプラプラとさせている奈々が突然切り出してきた。


 反芻すると、奈々が小さく頷く。


「そっ。今週の土日にうちで泊まりで。ダメ?」


「ダメってことはないが……父さんも今週は帰って来ないしな」


 冷蔵庫に貼ってあるカレンダーを確認しつつ答える。


 しかし泊まりか……。

 もうその段階にまでいったのか。


 妹の成長をしみじみと実感しつつ、何気なく話す。


「じゃあ俺は今週の土日、健介の家にでも泊まるか」


 二人きりの時間を邪魔するわけにもいかない。

 そう思っての発言だったが、なぜか奈々が飛び跳ねるようにソファから降りると、強い語調で言ってきた。


「だ、だめだって! おにぃも家にいないと!」


「え、なんで」


「なんでって……」


 俺の問いに奈々は視線を右往左往させる。

 それから力なく笑った。


「だ、だって、おにぃがいないと家のことなんにもできないし? 折角あーちゃんが泊まりにきて、なんのおもてなしもできないの、いやじゃん?」


「……確かにお前、なんにもできないもんな」


「な、なんにもできないなんてことないでしょ! おにぃのばかぁ!」


「自分で言ったんだろ?!」


 妹の情緒がわからなくて怖い。


 どん引きする俺に、二度三度深く息をして落ち着いた奈々が話を続けてきた。


「それにさ、聞いたよ。あーちゃんと約束したんだって? おにぃのご飯作ってあげるって」


「あー……、まあ話の流れでな」


「折角泊まりに来るんだからさ、その時におにぃが振る舞ってあげればいいじゃん。ね?」


「二人は俺がいてもいいのか?」


「え、どうして?」


「……いや、大丈夫ならいいんだけど」


 まあ確かに、妹に家のことを任せると火事になったりしそうで怖いしな。


 俺は諸々を天秤にかけ、奈々に頷き返したのだった。




 ◆ ◆ ◆




 そうして迎えた土曜日。

 昨日、学校から帰ってきてから家中を掃除し、見えるところはすべてピカピカにした。

 来客用の布団も洗濯し、もてなす準備は完璧。


 俺の張り切りように奈々は引いていた。

 お前のためなのに……。


 そんなこんなで昼下がり。

 昼食を終えてのんびりと過ごしていると、インターフォンが鳴った。


「はいは~い」


 奈々がひょこひょこと玄関へ向かう。

 洗い物をしていた俺は手を拭きながらそれに続いた。


「こ、こんにちは。今日はお世話になります……っ」


「ゆっくりしていってね」


 安城さんは俺を見るとひょこりと頭を下げてきた。

 それにしても彼女はいつにもまして大荷物だった。


 服装は以前のデートで着てきたものと似ていた。

 もしかしてお気に入りのコーデなのだろうか。

 その背に、小柄な彼女には不釣り合いな大きさのリュックが背負われている。


 今日は泊まりだから、色々と荷物があるんだろう。


 そうして体の前に組まれた手には、ケーキバッグが握られていた。


「ぁ、あの、これ、ママからですっ」


 すると、安城さんがおずおずとこちらにケーキバッグを差し出してきた。


「え、そんな、いいのに……」


「え~なになに? なに入ってるの?」


 躊躇いながら受け取る傍らで、奈々がぴょんぴょんと飛び跳ねながら覗き込んでくる。


「ケーキです。何種類かあるから、ご自由に、だそうです」


「やったぁ~、ケーキケーキ!」


 肩にぶら下がったままガクガクと揺れる妹に苦笑いしつつ、安城さんと向き合う。


「なんか悪いな……お母さんにはお礼を言っといてくれ」


「は、はいっ」


「っと、上がって上がって」


 挨拶もそこそこで切り上げつつ安城さんを家に招き入れる。

 しかしケーキか。

 大の甘党である俺は、ケーキは大好物の一つだ。

 妹の手前はしゃぐ真似はしないが、それなりに心躍っていた。


 ケーキの入ったケーキボックスを冷蔵庫にしまっていると、何やら扉の前で二人はごにょごにょと話している。


 不思議に思いながら俺は声をかけた。


「二人とも飲み物はジュースでいいか? 後で部屋に持って行くから先に上がってていいぞ~」


「それなんだけどさー」


「ん?」


「おにぃの部屋で勉強していい?」


「は? 俺の部屋?」


 突拍子もない提案に驚く。

 なんでわざわざ俺の部屋……?


「やー、リビングだとすぐゲームしちゃうじゃん? あたし意思弱いしさ」


「そんな誇らしげに言うな。それならお前の部屋で勉強すればいいだろ?」


「できると思う? あの部屋で」


 悟ったような顔で訊かれる。


 俺は奈々の部屋を脳裏で思い浮かべる。


 壁を隠すように並ぶショーケース。

 ぎっしりと飾られた女の子のフィギュアに、中々きわどいイラストが印刷されたタペストリーやポスターの数々。


「……できないな」


 納得した。


「でしょ?」


「だからなんでそんなに得意げ何だお前は。というか、それならお前普段勉強はどうしてるんだ?」


 生憎、家にいるときに奈々がリビングで勉強しているところを見たことはない。

 俺の指摘に奈々は目を逸らしながら言った。


「……今日頑張んないとね」


「おい」


 突っ込みを入れていると、隣から出てきた安城さんが遠慮がちに話す。


「ご、ご迷惑だったら……」


「いやいや、そんなことないよ。そういうことなら使ってくれていいよ」


「……なんかおにぃ、あーちゃんに甘くない?」


 奈々がジト目で見てくる。

 そんなことない。……たぶん。


「じゃあ俺は下にいるから、何か用があったら呼んでくれ」


「へ、なんで?」


「なんでって、俺がいても邪魔だろ?」


「そ、そんなことないですっ」


「安城さん……?」


 突然安城さんが大きな顔を上げてびっくりした。

 俺が驚いていると、安城さんは「ご、ごめんなさい」と奈々の後ろに隠れてしまった。


 そんな彼女のことを宥めつつ、奈々が言う。


「あーちゃんの言うとおり、おにぃは部屋にいてもらわないと。なんのために泊まり込みで勉強会すると思ってるの」


「なんのためにって、そりゃ……」


 二人で過ごすためだろ、と言いかけたがやめておく。

 なんというか下世話な気がした。


 俺が言い淀んでいると、奈々が続けた。


「先輩であるおにぃに勉強教えてもらうためでしょ。わかんないことがある度におにぃを呼びに行ってたら効率が悪いじゃん」


「……奈々、お前真面目だな」


 なんというか、兄ちゃんお前のこと誤解してたよ。

 そっか、真面目に勉強する気だったんだな。


「そういうことならできる限り協力させてもらおう」

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