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ゴブリンの親切心

 このページをクリックしていただきどうもありがとうございます。初めて終始書けた作品です。

 誤字脱字、アドバイス、評価等あるのであれば、コメントしてくれると嬉しいです。

 朝方、太陽は地平線から顔を見せ、今は空を昇り切る出前をじりじりと進んでいる。


 そのような時間帯にゴブリンである俺は片手にこん棒を持ち、真ん中を板で隔ててある背負かごを背負って森を見回しながら歩く。今、歩いている先には青紫色の木の実が生る青々しい低木がある。

 俺はその低木の前まで近づいてこん棒を側に置く。次に玉のような木の実が中で転がる背負かごを下ろしながら、しゃがんだ。そして、自分の緑色の手で木の実が押し潰れないように優しい力でその青紫色の小さな木の実をつみ取る。

 手の中に一度木の実を貯めたあと、かごの板で隔てられた片側だけにコロコロと手を傾けて手のひらから転がして落とす。木の実がかごの中に収まるともう一度、木の実をもぎ、同様にかごの片側に入れる。


 背負かごに入っているのは自分の家族の主な食料となる果実。

 俺の家族はまず自分に弟が二人、母さんという構成だ。父さんは半年前ほどに外出後突然いなくなってしまった。

 いつも、父さんが担当していた食料集めをこのように木の実をつみ取り、十分の量を採取したか、太陽が沈みかけているかで帰路につくという事をしている。


 時間があるからと言って、ここら一帯の木の実を前もって取りきってしまうのは周囲の生き物が可哀想なので最低限の一日分と少しの保存分ほどで止めている。腰から肩まである背負かごの半分ほどの分量だ。このような小さな木の実以外にも木になる両手で包めないようなサイズの果物も採るので、すべての食料がちまちま摘み取った小さな木の実だけではない。


 ちなみにかごを板で中を二つに隔ているのはドライフルーツに向くものとあまり向かないものを分別するためである。

 ドライフルーツに向かないものはその日の夕食、明日の朝食で優先的に消費し、食べ残したドライフルーツに向くものは晴れた日に干し、ドライフルーツにしてもしものときのために一定期間保存しておくのだ。



「よいしょ」



 しゃがんだまま掛け声を言って腕力だけでかごを移動させる。そしたら、また木の実のなる低木ちょくちょく変えてまたマイペースに摘み取っていると。



「パーーン」



 前触れもなく透き通った音が森中に響いている。この音は森の付近にある村から木を取りに来た木こりだとか、父さんが言っていた。なので、自分が直接で知ったことはない。


 伐採の音がした方向には人間の村がある。さっきの伐採された木はきっと、そこの木こりが薪なんかに使用するのだろう。自分たちは落ちている小枝などを拾って薪として使っておりそれだけでも全て使わず余ってらしてしまう。なので人間はどのようなことに大量な薪を要するのか興味がある。それに人間という生き物の行動に興味がある



「パーーン」



 また、あの音が聞こえる。自分らの住処に人が森に置いていった斧があり、父親が真似事をしたことがある。だが、あれほどの音が発生していただろうか。


 俺が人間である木こりを興味本位で姿を見にいかない。わざわざ、歩いていくのが面倒くさいというわけでなく、あんな大きな音を発生させる人間は明らかに自分より力があり、目があってしまい交戦体勢に入ったときどうなるか不安なのだ。


 人間に得体のしれないという恐怖を抱きながら俺は低木ごとで偏りがないように半分ほど摘み取らずに残す。

 これはここら一帯の生き物が困らないようにと勝手に配慮しているのだ。偽善かもしれないがこの行為が善であると信じている。



「よし、次のとこに行こ」



 かごの中はドライフルーツにできる方の室には半分以上ある。ドライフルーツにできないほうの室には唯一木にぶら下がっていた鷲掴みで手にフィットするような大きさと丸さの果物のみ。


 保存食の消費期限は覚えている限りでは大丈夫そうで非常時でもないのに簡単に手を出すわけにはいかない。なので、まだまだ集めないといけない。

 背負かごを背負い、脱力した手でこん棒をぶら下げるように持って、今も鳴り続ける斧を幹にぶつける音のする方向へと向かう。


 音の聞こえ具合から木こりまで距離があるがあわよくばかなりの遠目でも見てみたいのだ。

 もし、向こうにバレてしまえば、何をされるか分からないので生き物に対するアンテナを張っておく。警戒に集中して心労が増すが人間の行動を盗み見れたらその甲斐があると思うからだ。





 移動し始めて少し時間がたった。さっきから、木の実を探すが小さいサイズのもので規模が小さかったり、過去の自分か他者によってすでに実の数が少なくなっているものが多かったのでそこからほんの少量だけ摘み取る。そのため、先程からかごの重量はさほど変わっていない。


 そんなほとんど食料調達が散歩のようになっている俺。弟たちは母さんと何かで遊んでいるのだろうか。それとも、可愛らしい魔獣と戯れているのだろうか。後者であるなら、魔獣は弟たちをどうか強く拒絶しないでほしい。



「メキメキ――バフーン」



 遠くから木の折れていくつい顔をしかめてしまいたくなる痛々しい音と、樹冠が遠心力が加わり地面に倒れ込むどこか軽い音が遠くから微かに耳に届いた。



「あっけないなあ」



 自分が斧を使い、身を粉にしたとしても果たしてこれほど早く倒れるほど木を傷つけることができるとは到底思えない。しかし、人間はその行為に苦い顔せずに難なくこなしてしまうのだろうか。



「それはないよな……流石に」



 もし妄想どおりの強力な生物なら、同族でも人間を食料や嫌悪感、人への興味などで襲おうと考えるものが居るけど果たしてまともな戦闘になっているようなことを聞く。

 でも、魔王様が警戒するほどだ。個体差がとても大きい生き物なのかもしれない。だが、全ては自分の勝手な想像。真実を知りたい。



「おっ、果物発見」



 まとまって生っている果物を見つける。意識は人間のことから目の前の果物に向き、足早になる。そして、近づいてこん棒とかごを下ろして摘み取り始める。

 この果物は口を大きく開けて一口で食べるほどのサイズ。これは自分が甘酢っぱくとても美味しいと思っている大好物だ。なのだが、お母さんは理解に苦しむようなことを言っていたのを覚えている。

 その果物は一つが大きいので摘み取った側から背負かごのドライフルーツに不向きな方の室に入れる。ドライフルーツにするのは少し難しいができないというわけでない。ただ、自分がこの実だけはそのままで食べたいのだ。


 上機嫌で摘み取り、かごに入れているとふと背負かごの向こうに視線を向けた。すると、遠くに周囲を不安げに見渡しながらトボトボと人間が歩いてくるのが草木の間から見えた。薄く軽そうな一枚の生地でできた裾はひらひらとしている白い半袖服を着ている。体躯的にまだ大人ではなさそうだ。

 幼い人間は目線が合わない点からこちらの存在に気づいていないようで、心中恐怖を抱いているのか当たりを見回す動作から怯えているのを感じ取れる。すると、その人間は周囲を気にしてたばかりに足が木の根に引っ掛けてずっこけてしまう。しかし、先程の警戒はどこへやら、腕を顔に滑り込ませた状態で地面に突っ伏したままだ。



「何なんだあいつ」



 俺は馬鹿にしてから幼い人間の気持ちが分かった気がする。警戒すればするほど恐怖が大きくなり、この状況から開放されたいと思う中転倒したのでそれを機に現実逃避してのではないか。

 他族であっても可哀想に思えてくる。



「助けてあげるべきなのか」



 安心できる誰かと出会うことでかなり気持ちが楽になるのは容易に想像できる。だが、自分はゴブリンだ。安心できる対象ではない。近づくか見てないふりして立ち去るか……。



(嫌がられたら、いなくなればいいか)



 俺は自分が図太くなるためにわざと短絡的な考えを口にして人の子に近づいていった。

 俺の足音を耳で拾った幼い人間は恐る恐る頭を上げ、こちらに目線を向けてくる。泣いた表情の下から怖がっているのが感じ取れる。種族が違かろうとその顔の美しさに驚く。自虐的になるが自分たちの種族は美しくないほうだと思っている。


 俺は相手がどう思っていようと困っているのを見過ごすのはプライドが許さないし、あとで罪悪感が湧いてきてしまう。俺は孤独感と自分に対しての恐怖など諸々負の感情で泣きそうな表情をする人の子に怯みながらゆっくりと側まで近づく。

 やっと数歩の距離ほどになると刺激をなるべく抑えるためにおそるおそる優しい口調で慎重に声を掛けた。



「に、人間――」


「えぇぇぇん! えぇぇぇん!」



 「人間、大丈夫か」と一言を言い終える前に泣き出してしまう。引き金になると考えて身構えてはいたので泣かせてしまった罪悪感は幾分か少なくなったと思うのだが気休め程度でしかなく身構えの有無に意味を感じなかった。

 なぜなら、種族が違えどか弱い子供を自分の行為が起因となり、泣いてしまったのだから。



「お、落ち着け落ち着け、取って食おうだなんて思ってないんだ。転んで痛いのか? なら傷を見せてくれたらおまじない掛けてあげるよ。それとも迷子なのか? それなら近くまで送ってあげるから……ねっ」



 最後には苦笑いで返答を促したが、こんなので泣き止むのだったら子育てもっと楽だろうなと不器用ながらもなだめている最中、頭に過る。その通りで人の子は一切泣き止む気配がない。

 そこで自分以外の何かでどうにかならないかと思い、真っ先に思いついてのは自分が住処からここまで行き当たりばったりに歩いて摘み取ってきた木の実だった。



「ちょーと待っててね、いいの持ってくるから」



 俺は人の子に一言言ってから、摘み取った木の実が入っているかごを取りに走る。生き物全般美味しいものをあげれば喜んでくれるもの。

 俺は何度か肩越しに振り返り、その子がどこかに逃げてしまい行方不明にならないか、他の生物に襲われないかと子の様子や周囲に目をやった。

 そして、かごのもとに戻った俺は背負いかごの背負うとき腕に通す紐を一本掴んで担ぐようにして子供のところに駆け足で戻る。そして、背負いかごから木の実を取り出して、顔の前に差し出す。



「ほら、木の実。これ甘酸っぱくて美味しいんだぞ」



 差し出したのは俺が大好きなさっき摘みたての甘酸っぱい木の実。それを見せたのだがまだ、木の実に興味を示しているように見えない。きっと村で待っている両親に助けを求めることに向いているのだろう。



「他に何か」



  考えては見てみるものの湧いてくる様子もない。

 そのため、俺は下手にあやそうとする行為が思惑と裏腹に激しく泣く助長となってしまい、泣き止むまでに時間がかかってしまうかもしれない。

 日は昇りきって沈む方にシフトしてまだ間もない頃。

 俺はいいが、この子とその親を不安にさせる時間が増えてしまうことになる。ここはとりあえず、何も刺激を与えずこの子供が泣き止んで落ち着くまで見守ることに決めた。

 理にかなっていると思える理由をつけて思考を放棄を正当化する自分の不甲斐なさをなんとなく感じれた。






「…………ヒクッ……ヒクッ」



 人の子は正面を向いて自分の腹に風穴でも空いてるのかのように遠い目をしている。涙は止まったが痙攣はまだ続いている。一進一退のように治まったと思えば、また同じ間隔で痙攣が起こる。俺は多少冷静になったと考え、声を掛けてみる。



「どうだ、落ち着いたか?」



 俺の声を聞いた人の子は視線を自分の目に合わせてくる。恐怖が目に宿っているが出会った直後とは弱まっているような気がする。自分の命への執着が消失仕掛けているのか、またもや、俺の怖さに慣れてしまったのか。

 どちらであろうと、俺に対する警戒が減ったことに違いはないはず。



「?」



 しっかり目を合わせて俺はわざとらしく首をかしげて、反応を求める。

 すると、真意を読み取ってくれたのか痙攣で身体が微動するよりも一度大きく頷く。



「ぐぅぅぅぅぅぅ」



 人の子の腹の虫がなった。そこで手の中にある甘酸っぱい果物があることを思い出して差し出す。全力で泣きじゃくっていた先ほどとは違く、その果物に視線を向ける。



「美味しいから食べていいよ」



 促してみると、果物を小さな手の小さな指で掴んで口に入れる前に逡巡している。その後、腹をくくったのかコロンと口に入れる。そして、大きく開いた顎でゆっくり噛んだ。

 その瞬間に顔を歪ませ、咀嚼を止める。ポカンと口を緩ませていた。



「ごめんごめん! 酸っぱかったよな。吐き出していいから。次は、甘いものあげるから」



 酸っぱいものが嫌いだったか。まだ、子供であるから好き嫌いあって、とことん嫌いなものは飲み下せもしないだろう。でも、大人になったときにこれが美味しいと感じれるようになっていたら嬉しく思う。

 酸っぱいものが好きになっている人の子を想像していると、まだ酸っぱいものが嫌いな今の人の子はこちらを見つめたままで吐き出そうとしない。というよりも出そうにも出せないというの方が正しい気がする。そして、俺が何かしてくれるのを待っているような眼差しをしている。深く考え出す前に意味が分かった。



「あっ、ここに出していいよ。うえーって」



 俺は器のようにした自分の片手を差し出した。

 よだれが皮膚に触れて害が出るとは思えないし、あとで草で拭き取ればいい。だから、自分の手に出してもらっても構わないと思ったので吐く場所を手に指定した。

 人の子は手に口を近づけて、舌で一噛みした果物をおもむろに吐き出した。

 その後、口を直してあげようと真っ先に背負かごから両手ほどの果物をきれいであるもう片手で取り出し、差し出す。



「これ食べて。丁度、熟してて今度こそ本当に甘いから」



 この果物は少し甘ったるいという感じはしない絶妙な甘味がし、水分が多く、少しトロトロとしてしている。

 人の子はその果物を受け取って、自分に疑いの目を向けながらしゃぶりつく。すると、子供は想像以上に甘かったのか涙はどこへやら満面な笑みで目を見開く。それを機に、どんどんとしゃぶりついていく。もう口がパンパンだ。



「ゆっくり食べなよ。食べ始めたらすぐ駄目になるわけじゃないんだから」



 その言葉を聞いて、果物から視線を上に外して咀嚼するのに専念している。上を向くのはこの子の癖なのだろうか。

 それを横目で見ながら、手の伸びるギリギリの草の上に吐き出した木の実を落とした。まだ、手に付いたままのよだれは草で大体、拭き取る。



「芯は残してね。硬いから。あと苦いと思うから種も出してね」



 俺の言葉に幸せそうな顔を向けて強く頷いた。そう言えば、しゃっくりはいつからか治まっていた。

 大事そうに両手で包むように果物を持つ子供は忙しなくかぶりついて、口に溜まった果実を咀嚼して、またかぶりつく。

 食べ進んでいると種が姿を表す。すると、指を立てて種を取る。俺は下を使って口の中で種を外へと出すようにしているため、種が表に出てきたときに一々、ほじくり取るのは面倒くさいと思って気分が損なわれてしまうことが想像できる。

 だが、子供はその作業も嫌な顔をせず、その反対で種を見つけた際に一段と笑顔が増す。楽しそうだ。

 見ている自分も小さな口で一口ごと不器用ながらかぶりつく様子、うまく種が取れず苦戦している様子、一生懸命咀嚼する様子が見ていて飽きることがにない。

 だが、出会ったときから一つ聞きたいことがあるのでここで問いておこう。



「ねえ、君はどこから来たの?」


「……」



 こちらに目線を向けてはいるものの返答がない。無視をしているわけではなく、人の子はただ口が果実で埋もれて喋れないだけだ。



「……ゴックン――フロン村!」


「そうなんだ。じゃあ僕がそこまでつれていってあげる」



 飲み込んで元気よく応えてくれた。すると、その側から果物にかぶりついた。

 森の外に村があることは認知してるが村の名前までは知らない。果たして、その自分の唯一知っている村がフロン村というとこなのか分からないが一度行ってみるしかない。

 もし、そうでなかったときはフロン村まで確実に帰れる状況になるまで関わってしまった以上付き合うしかない。





「いいよ。頂戴」


「はい、ごちそうさまでした」



 人の子は食べ残した果物の芯を僕に促されて手渡すと両手のひらを合わせて挨拶をした。

 自分は手で浅く地面を掘り、そこに果物の芯を横たわらせて埋める。なるべく早く栄養となり、この森の糧になってくれると祈って。

 手の土を払いながら僕は人の子の目に視線を戻すと腹が満たされたのか後ろに手をついてお腹を空へと晒す。



「動けなさそうか?」


「お腹いっぱいで動けない」



 分かり切ったことだが確認の意を込めて尋ねてみた。案の定、その通りに返答してきた。

 すると、その返答をした側から徐々に腰の角度が開いていき、ついにはバサッと草の擦れる音とともに一直線になり、体重を支える役割を果たした手を下腹部に添え、目を優しく閉じる。そのような仰向け状態の人の子はまるで幸福感を体現したかのよう。

 遊び疲れて住処に帰った瞬間に寝入ってしまう弟らが脳裏に過る。そのような微笑ましく思える子供の姿を見て僕の心は安らいでいく。



「おーい、寝てしまうのかい?」



 お腹が落ち着いたら、村の方へ歩き始めようと考えていたので心中ほんの少し焦っている。



「う〜んっ」



 寝やすい体勢を探っているのか体を動かしながら唸りととも取れる間延びした返答をした。

 道中、人間にやむなく出くわした時に人の子が起きていれば、この状況を説明して理解を得れるかもしれない。そして、その村の所在などの情報を訊けたときには本来よりも早くに人の子を家に帰せるかもしれないと淡い期待をしてはいたが、無理やり起こしたままにしても、眠気は残ったままで嫌な思いをさせてしまうだろう。



「よし、人の子。お姫様抱っこで村まで連れて行ってやる」



 太陽はこの時にも地平線に向かって動いている。村がある方向の森の出口までは今出れば、辺りが黄昏色に染まる夕方前には着ける。だが、それがフロン村ではない場合、ここまで歩いてきたということは自分が認知している村とそう離れていないと思えるので、人の子を抱っこして出発を決意した。

 横向きに身を丸めている人の子は声に一切の反応を見せなかったところから寝初めてしまったみたいだ。

 僕は木の実が入っている背負かごを肩紐を腕に通して背負う。そして、さっきから存在を忘れていた棍棒を駆けて取ってくる。それを背負かごに木の実をかき分けて棍棒の半分を埋めるようにして入れる。

 自分の身支度が済むと僕は人の子と地面の隙間にゆっくり手を入れて。



「よいしょ」



 独りごちた小さな掛け声とともに優しくゆっくり持ち上げる。背筋を伸ばし、自分の体勢が整うと人の子が腕の中で身じろぐ。僕は寝返りを打つのかとその際に大変焦り、どのように動こうと落とさないよう身構えたがその必要はなかった。






 出発から時間が立ち、森の出口はもう少し。

 道中出会った動物たちは人の子と僕を遠目から不思議そうに見ている。僕もこの子が根に足を引っ掛けてもむくっとなにもなかったように立ち上がり、殺気を放ち出すようなおっかない存在なら、静かにゆっくりとその場を立ち去っていたのに違いない。

 森の動物たちは経験から人の子に対して警戒していたが、僕と同じような状況に立っていれば行動に出ずとも心で心配していただろう。

 腕の中で眠る人の子は途中で一度目が覚めたのだが、抱っこされている状況に拒絶することなく、僕に身を任せて進行方向を見るともなく見ていた。そして、少し時間が立つとまた眠りに入っていた。



(そこの村人でじゃないとしたらどうしようか)



 フロン村に住んでいるという人の子。人間と会話をしたのは実はこの子とが初めてであり、同族との会話でその名の村を訊いたこともない。正直のところ、同族は皆その村の名前について一切興味がなく、知る物はいなかった。存在を認知していることで十分だと思っていたからだ。

 だが、もう村の近くまで来ているのだ。今頃悔いたところで無意味だ。

 それよりも、そこの村がフロン村であるかどうかゴブリンである自分が聞きに行けば、当然、攻撃されてしまい命が危ない。だからといってこの子を送り出して、よそ者だからといじめられたり、避けられたりとひどい対応をされるこの子の姿を想像するとあまりにも可愛そうだ。

 一番は自分の目の前でこの子が人間と接触してくれば、もしもの場合に俺が出動できるがそんな都合のいいことがあるのか。

 どのようにフロン村に帰すか考えを巡らしている俺は森と草原の境界で足を止めていた。だだっ広い草原のには茶色の非自然的なものがある。あれが村なのだろうか。そのように考えると住居のようにも見えたりもするが近づこうとは思えない。

 自分らのテリトリーと認識している森から外界に出ることは今までにしたことがなかった。自分の知らない世界に足を踏み入れるという緊張。それが大部分を占めていた頭で俺は、意味もないのに踏み入れる必要はないことに気付いた。遠目からでも人間に見つけられたらどうなるかわからない。



「はぁ〜〜、村着いたの〜?」



 寝起きにあくびをした人の子が力なく項垂れていた頭を上げてとろ〜んとした目で見つめて訊いてくる。

耳下まで伸びた髪の毛が後ろに流れる。



「あともう少しなんだけどちょっと問題があってだな」


「どんな問題?」


「そこの村がフロン村なのかどうやって確認するかだな」


「?」




 自分の伝える気が無い返答に理解できていないのかぽか〜んとしているがどうにか分かったようで口を開いた。



「フロン村じゃないの?」


「多分そうだし、多分そうじゃない」



 腕の中で人の子が草原の方向を見据える。



「あれ、フロン村だよ? 見えないの?」


「……そうなのか。実は本物を見たことなかったからわからなかったんだよね」



 そう言えば、人の子の不安を払拭するために自分はフロン村を知っている風に装ったのだった。それを思い出し、嘘とバレバレな言い訳をするが気づいていないのか言及はないようだ。


(ほんとよかった)


 俺は心の中で安堵する。これで人の子は家に帰れるし、もう、もしもの場合など考える必要もない。この子は走って家に帰っていくのだろう。

 自分にお姫様抱っこされている人の子を見て微笑む。



「人の子、地面降りるか」



 俺に抱え込まれていたら、帰ろうにも帰れない。人の子の意思を汲み取って降ろしてあげようと体勢を下げる。人の子は軽く勢いをつけてヒョイッと地面に降り立つ。すると、人の子はまるで本能で動いているかのように自然と草原の方へと歩き出している。人の子はその場で立ち尽くす俺を不思議な目で見てから、



「来てー」



 こちらを振り返り草原へと誘ってくる。

 踏み出してみよう。俺は人の子に吸い寄せられるように片足が前へ出た。カサカサと乾燥した草のこすれる音が自分の足元から発せられている。

 草原は日光を反射して輝いている。自分の身体がどんどん光の世界へ包まれていく。

 森の中にも日光が差す木々の樹冠が捌けた箇所はあった。しかし、太陽が一番高くなる時間の前後ぐらいしか日が照りつけず日向ぼっこもできなかった。だが、ここは日が出てからずっと日に当てられてきたぬくもりがそこにある。太陽の下でのんびり寝ることなど容易に思えてくる。

 人の子は駆け出す。肩越しに後ろをみて「ついてきて」と仕草からわかる。その時、



「ぐっ!!」



 どこからともなく、横腹に鋭利なものが突き刺さる。不意打ちを食らった自分の身体は力が入らず、横腹に刺さったものを見る前に倒れてしまう。



「っ……!」



 さっきまで人の子は俺の腹部あたりを見て青ざめている。

 それに釣られてように自分の横腹を見るとそこには矢が刺さっていた。そこからは赤い鮮血が溢れ出ている。無意識にそこを出血を抑えるように両手で傷口を押さえていると、



「カラーーーン‼」



 人の子を目掛けて片手に弓を持ち、腰に矢を入れるえびらをつけた体躯のある大人の人が全力で駆け寄ってくる。そして、力強く抱き寄せた。



「昼なのに帰ってこないから心配したんだぞ! あのゴブリンに何かされてないか?!」



 大人の人はひどく憎んだ目で睨みつけてくる。激痛に苦しむ俺にたいしての同情の欠片もない。その大人の人は人の子の父親なのだろう、憎しみの目から人の子へのそれ程の愛情が伝わってくるからだ。そのような人に出会えたことは人の子への心配は無用だと分かる。

 あの村がフロン村で間違いなさそうだ。



「パパ……どうして」



 心配を通り越した恐怖の目線を向けている。小さな子には刺激が強かったかもしれない。



「カランが心配だったからに決まっているだろう!」



 人の子の父親は娘の反応を誤った解釈で接している。敵としか考えたことのない者と娘が仲良くしているだなんて考えることは難しいのかと思えるからしょうがないのかもしれないが。



(まあ、親元に帰せれてとにかくよかった)



 俺はどうにかして帰宅でき、長期間休んでいれば治ってくれるだろう。

 俺は痛みに耐えながらゆっくりと腕で身体を起こしてどうにか立ち上がる。立っているだけでも身体は微かにふらつき、そのふらつきで腹の中から痛みが走る。悪循環だ。

 その様子を人の子の父親の目からは敵意が伺える。こちらには初めから戦意など持っていないのにも関わらず。まるで正当防衛だと言いたいような視線だ。


 俺は人の子に「じゃあな」と痛みでしかめるので力の入った表情筋でぎこちなく微笑んだ。それに父親の方の負の感情が一層高まる。その一方、人の子は反応がない放心状態にも思える。



(とにかく、帰るか)



 俺は百八十度回転して、森へとびっこを引いた足取りで歩く。自分の背中に人の子の父親からの鋭い視線が刺さってきている。森に少しと入ったところでそれは止んだ。



「リーリン爺さーーん! カラン見つかりましたーー!」



 大声で他の人間に娘が見つかったことを報告している。すると、斧を担いだ年寄りが歩いてくる。



「それは良かった。カランちゃんに怪我はなさそうかい?」



 声からも優しさがにじみ出ている老人が人の子の父親にそう訊く。きっと今日午前中森で木を伐採していた木こりだったのかもしれない。



「ゴブリンに知らず知らずつけられてたみたいだが特には。でも、怯えてて――」



 あの父親は思い込みが過ぎる。

 あの老人が人の子の父親ならまずは牽制なんかで様子を見てくれたかもしれないのに。

 こんな事をしてると母や弟らが帰ってこない俺を心配するだろう。

 叶いもない願望をよそに俺は住処を目指して必死に足を進めた。






 俺は数十分歩き続けた。

 その時間で腹の中で鏃が動く痛みを一々反応せず我慢できる程度に慣れていた。内蔵を痛める重い痛みが不快であるには変わりないが。

 本当なら手っ取り早く矢を引き抜いてしまえばいいと思うのだが、いつか母にものが刺さった時には抜かないで置いたほうがいいと聞いた覚えがあった。そのため、矢は刺さったままだ。

 どんどんと日が沈んでいき影が伸びていく。すでに夕方だ。



(まだまだ、住処は遠いのに)



 このペースでは月が天辺まで昇った頃に着けるかどうかというほどだ。

 食料に関してはドライフルーツを保管してあるから大丈夫だろうが、自分を探して夜行性の魔物がうろつく夜中に捜索をしているかもしれない。

 俺は痛みが増加しない程度のほんの少しだけ足を早める。すると、ほぼ進行方向から数体の生き物の足音が聞こえる。そして、微かだが話し声も。



「ねえねえ、太陽がかなり傾いているけど本当に村に着けるの?」


「しっっっかりと、地図を見てその方向に進み続けてるんだ。いずれは着くさ」


「いずれはって……最短距離で日没前には計算上着けるとか言ってたのを信じた私が馬鹿だった」


「まだ馬鹿と決まったわけじゃない。でももしそうだったら、しばけばいいだけだ」


「たく、なんで俺は信頼がないんだよ」



 四種の話し声から森を突っ切って目的地の村へと向かっているようだ。この人間らはあの人の子が住むフロン村を目指しているのなら日没したあと少しした頃に着けるだろう。そうでなければ、一人は森から出たあの草原でしばかれるしかない。

 そう、人間らのことを気にする俺は出くわしたときには今度こそ殺されてしまうかもしれないため、大きく膨らもんで進もうと進路を正面から横に変えて進む。書き初めが真横であるほどの大きな半円を描くイメージの迂回ルート。これでお互い嫌な思いをしなくて住むだろう。


 なのだがその時、四人の内、一人の足音が速い。こちらへと向かってきているのだ。

 突如なぜそんな奇行を。

 俺は逃げるのを止め、茂みの中に隠れた。今の身体ではもう距離を取れなく、息を潜めるしかない。



「うっ」



 しゃがんだ際にやじりが動き、激痛が走った。

 だが。今はそれよりも見つけられない方が大事。

 


「やあ、ゴブリン」



 突然、声のした上の方向を咄嗟に顔を上げている中、視界の上には足を閉じた格好で中を飛んでいる若い男の人の姿があった。そして、興奮して狂気じみた顔の若い男とその男がこちらに向ける剣の刃。

 その刃が口元に近づいてきて、勢いそのまま刺してきた。口、喉、首元、胸、そして腹へと否応なく刺さり、その後一気に引き抜いた。引き抜かれた剣の半分以上はべっとり赤い血が纏わりついている。

 気持ちの悪い鈍さも混ざった鋭い痛みとそれに見舞われることによる苦しさ、男に対する恐怖すぐさま感じ取れた死への絶望感、どれもがとても形容し難いもの。

 それをほんの一瞬でやってのけた若い男は慣性の法則に従ったまま、視界の外へと去っていった。

 俺は様々な肉体的、精神的な容赦のない苦痛を喰らい続ける。絶望感からか、肉体的に厳しいのか身体には力が入らなく、背骨の曲がり具合で上半身は立っていられているが段々と視界に映るものが等しく傾いている。

 身体の中から傷に血液が勢いよくにじみ出て、あまりの量にそれらは傷口になった喉の一部からから湧き出る。

 呼吸系の器官が傷を負ったために呼吸困難の中の俺は意識が遠き、何も感じなくなる。






「あーあ、きったねー」



 俺はフォル。冒険者である。今は姉の嫁いだフロン村という村にパーティーメンバーとともに他の村から森を突っ切る最短距離で向かっていた。ほとんど低級魔物だけが住まうその森の道中、ゴブリンやオーク、敵意むき出しの魔獣を討伐しながら進んでいて、今も俺らの気配を感じたのか逃げ始めたゴブリンを討伐した。

 剣を勢いよく横に振り、ゴブリンの血を払った。ペチッの音とともに地面に途切れ途切れの赤い線ができる。



「走る必要あったかよ」



 走ってきた方向からからぶっきらぼうなうちのヒーラー担当ロイックの声が聞こえた。その声の方向におもむろに振り向くがそこにロイックの姿は見えない。勝手に走り出した俺にまだ追いついていないようだ。だが、その距離は会話をできないほどではない



「逃げてるのを一々進行方向からずれてまで追うのはなんか面倒くさいんだよ」


「私、それはどうでもいいけど、草原すら見えてこないのはどうしてかな?」



 語気を強まった苛立ちと呆れの含まれた槍使いルーシャの問いかけが聞こえる。地図から夕方には余裕を持って村に到着できると思えたのだがまだ視界が開ける雰囲気がしない。正直、なんともいえない。だが、方位だけは合っていることは確かだ。しかし、それは現時点での話でずっとその方位に進んでいたかは定かでない。



「そんなに責めないであげてください」



 思いやりのある発言をする魔法使いルルの声がしたあと、一人駆け足で俺の方へと近寄ってきた。



「……もっときれいに殺してあげてください。可哀想だと思います」



 その女は息絶えたゴブリンを見て、顔をしかめている。



「でも、よく見ろ、矢が刺さってるんだ。人を襲おうとしたには違いないだろ。それにお前だって魔法で……」


「関係ない」



 女は俺を叱るように目くじらを立てているが迫力が足りず、罪悪感があまり湧いてこない。裏腹にいつも穏やかな顔をする女の怒らしてしまったことに対して反省をする。



「でも、よかったですね。手負いのゴブリンがいるってことは人も近くにいると考えれるのでは?」


「確かにそうだな!」



 目的地の村ではなくとも人間の生活域に近づいていることへの確証を得れたことに心の中で安堵する。

 それをいざ知らず、目の前で魔法を使い、ゆっくりと空中に氷を生成している。生成された氷からは目に見えるほどの冷気が地面へゆっくりと流れている。歩いていて暑いと感じたのだろうか。



「はい、これ持ってください」



 意図を理解する前に言われるがまま両手で氷塊を持つ。



「お、おう……冷たっ!」



 冷気の流れ出ている様子からそのことは想像できたが身体が反射的に氷塊から手を離そうとしたが、自分の意思で阻止する。



「何に使うんだこの氷」


「それ私の魔力がこもってて溶けるまでその氷塊の位置がわかります。なので、それを持って村探してきてください」



 そう言う女はニヒルな笑みが浮かんでいる。ほんのたまに見せるその彼女の笑みに俺は恐怖した。



「あと、割れたり、溶け切ったりしたら駄目ですから。そのときはの命と引き換えにどんな魔法でも使える禁断の魔術で空中飛行でも使おうと考えてまーす」



 人型の小悪魔が怖いを言う。



「では、私達は早く村に着きたいので私達も止まらず進んでます。なので、村を見つけたときは探してください」


「まじかよ」



 小悪魔に対して感嘆を漏らすと二人が追いついてきた。



「「行って来い」」



 そして、その二人にも催促され、村が先にあると祈って全力疾走した。討伐したゴブリンなど忘れて。

 この作品を書こうと考えた発端は単純に人間に対し、非好戦的な魔物(今回でいうゴブリン)が好戦的な同族の影響で討伐されるのは可哀想に思ったことにあります。そこから転じて、自分は無意味な殺生は止めましょうということでもあると思います。長編はまだ書けそうに思えないので次も短編を書きたいと考えています。どうか次回作も読んでいただけたら嬉しいです。皆さんの少しの時間を自分の作品に使って頂きありがとうございました。

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