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第56話:蓮の怒り

 更紗さらさがこれみよがしに、ひきちぎったペンダントを揺らせる。


「こんな安物つけちゃって!! いい年してクレーンゲームとか」

「あ……」


 それはれんにとってもらったペンダントだった。


「か、返して!」


 必死で伸ばした明日花あすかの手をさっとかわし、更紗がぷっとふきだす。


「必死ね。こんなゴミに」


 次の瞬間、更紗がこれみよがしにペンダントを高々と高架下へ放り投げた。

 ペンダントは大きく放物線を描き、線路へと落下していく。


「ダメッ!!」


 明日花は思わずダッシュし、陸橋から身を乗り出し手を伸ばした。


「明日花さん、危ない!!」


 陸橋りっきょうから半身を出した明日花を、蓮が背後からガッと抱きかかえる。

 明日花の手はわずかに届かず、ペンダントが真っ暗な線路の上へと落ちていった。


「ああっ!!」

「ダメです! 落ちますよ!」


 更に身を乗り出そうとした明日花の体を抱えるようにして、引き戻す。


「だって、ペンダントが!!」

「新しいのをあげますから!」

「嫌です! 代わりのものなんか……!!」


 だってあれは蓮が取ってくれた思い出のペンダントだ。


(初めて男の人に優しくしてもらって――)

(気になる男性が気に掛けてくれた記念の――)


「とにかく落ち着いて! あとで駅員さんにとってもらいましょう!」


 強い力で引き戻され、明日花はがっくりと肩を落とした。


「ああ……」


 暗い線路の間に落ちたペンダントはもう見えない。


「あんなおもちゃのペンダントに必死になって馬鹿じゃないの。貧乏人――」

「更紗さん」


 明日花をぎゅっと抱きしめたまま、蓮が視線を更紗に向けた。

 思わず更紗が見上げてしまうほど、冷ややかな目だった。


「僕の大事な人に嫌がらせをするのをやめてもらえますか」

「……っ」


 更紗がぎゅっと手を握りしめた。


「大事な人ってそんな――」

「……恩師の娘さんだから警察沙汰にしなかったんですよ」


 押し殺した、だが明確な怒気どきのこもった声は、確かに更紗に届いていた。


「あなたの執拗な犯罪行為の記録や証拠はすべて残してあります。頼めば証言してくれる人もいるでしょう。あなたはおおっぴらにやりたい放題でしたからね」

「蓮……」

「気安く僕の名前を呼ぶのをやめてもらえますか」


 更紗が電気が走ったようにびくりとした。

 それだけの怒りがこめられていた。


「二度と僕の前に現れないでください。もちろん、彼女の前にも」

「そ、そんな女のせいで――」

「謝れ」

「えっ……」

「彼女に、謝れ」


 容赦のない、酷薄な声だった。

 その迫力に、明日花だけでなく更紗も明らかに呑まれていた。


「ちょっとペンダントを投げただけ――」

「謝れないというのなら、今すぐ警察に通報する」


 その語気の強さに、明日花は息を呑んだ。


 本気で怒った蓮は、まるで別人のよう――そう、徹頭徹尾クールな刃也じんやそのままだった。

 こんな時だというのに、明日花は思わず見惚れてしまった。


「ご、ごめんなさい……」


 蓮の圧にたじろいだのか、更紗がしゅんとして大人しく頭を下げた。


「でも、あの子が悪いのよ。あなたと付き合ってるなんて嘘を――」

「別に嘘じゃない」

「えっ……」

「俺と彼女は何度も部屋を行き来している」

「だからって……」

「明日花さんは俺の大事な人だ」

「……っ、認めない……!!」

「あなたの許可はいらない。あなたには関係のないことだ」


 蓮は完全に更紗を突き放していた。


「……っ」


 更紗がバッグから何か取りだそうとした手を、予想していたのか蓮が素早く押さえる。


「今度は何をする気だ? もう油断はしない。あれきりだ」


 明日花はただただ息を呑むばかりだ。

 穏やかで優しい蓮の初めて見せる本気の怒り。

 それは静かに立ちのぼる青い炎のように、凍えるほど冷たく、それでいて熱い――。


 明日花は圧倒され、蓮を見つめた。


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