第39話:ふたりの距離
明日花は思わぬ反応にのけぞりながら、反射的に冷蔵庫を見た。
「ええっと……あんまり……食べ物……ないかも」
(自分から言い出しといて馬鹿じゃないの!?)
自分で自分にツッコミを入れる。
想像以上に蓮と部屋で二人きりという事態にテンパっている自分がいた。
明日花は冷蔵庫をそっと開けた。
お茶のペットボトルと牛乳、それに調味料があるくらいだ。
「うっ……」
あまりに貧相な冷蔵庫の中身に、暗澹たる気持ちになる。
明日花は無言でそっと冷蔵庫を閉じた。
(ああっ、こういうときモテる女子なら、ささっと夜食的な何かを作るんだろうなあ!)
(あーーー、自分はそういうキャラじゃないのに馬鹿じゃないの)
「ええっと……チョコならあります! チョコ!!」
明日花は棚からチョコ菓子を取り出した。
「よ、よかったら……チョコ……お好きだったらいいんですけど……」
テーブルにざらっと30個ほどのチョコ菓子を置くと、蓮が驚いたように目を見張る。
「いっぱいありますね。同じ種類のものばかり」
「……ちょっと買いだめて……」
嘘だ。
コンビニでコラボをしたときのプレゼント対象商品がチョコ菓子だっただけだ。
(チョコ3個でクリアファイル1枚もらえた……)
(10枚欲しかったから30個買って放置していた……なんて、とても言えない)
「あっ、お茶飲みますか? 紅茶とか……」
ティーバッグの紅茶ならある。
だが、蓮の表情が途端に曇った。
「……いえ、別のものでお願いします」
蓮が落ち着かない素振りで手のひらをさすっている。
(手のひらに傷がある……)
(痛むのかな?)
「あっ、じゃあ、ペットボトルですが緑茶があります」
「それでお願いします。……すみません」
なぜか蓮が落ち込んだように声を落とす。
「いえいえ、すぐにいれますね」
明日花はいそいそとカップにペットボトルのお茶を注いだ。
(お茶も出さずに、いきなりチョコ菓子をテーブルに置くとかもう、本当に粗忽もの!)
(せめてお菓子を器に入れるとかさー)
(全然何もかもダメすぎる……)
カップを運びながら、ちらっと蓮を見つめる。
(やっぱり大きいなあ)
いつも一人で過ごしているせいか、蓮がいるだけで部屋が狭く感じる。
実家で父や兄と暮らしているときは、ついぞ感じたことのない感覚だ。
(男の人が一人暮らしの部屋にいるって、こんな感じなんだ……)
「どうぞ」
ドキドキしながらカップを出すと、蓮がすっと手を伸ばしてきた。
「……っ」
触れそうになるほど接近し、うっすら蓮の体温を感じる。
(生身の男性の存在感って半端ないな!!)
(グッズに囲まれていても圧迫感はないのに!!)
蓮が静かにお茶を飲んでいるだけで、心臓の動悸が止まらない。
(今更ながら、男性を自分の部屋に連れ込むとか!)
(いやいや、これは人助けだから!)
なんとか自分を落ち着かせたいが、方法がわからない。
もちろん気の利いたトークもできず、間が持たなくなった明日花はハッとした。
(そうだ……映画!! 蓮さんはホームシアターを作るくらい映画好き!!)
名案を思いついた明日花は、さっそく勢い込んで提案した。
「映画とかドラマとかお好きなんですよね。気分転換に何か見ますか? 私もサブスクを契約しているので」
ナットフリックスとハマゾンプライムに入っているので、海外ドラマや映画などが見られる。
「あ、じゃあ、ナットフリックスで映画でも……」
「はいっ!」
快く提案が受け入れられ、明日花はホッとしたのも束の間、テレビをつけた瞬間、驚愕の事態に陥った。
「ぐがっ」
明日花が奇声を上げたのも無理はない。
ナットフリックスのホーム画面に、ずらっとアニメのアイコンが並んでいたのだ。




