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第35話:初恋じゃねえの

「初恋っておまえ……」


 晴哉はるやに不似合いな言葉に、れんはぷはっとふきだしてしまった。

 目の前のチンピラ風長身アラサー男の口から出たとは思えない。

 つられたように晴哉もふきだした。


「まあね、がらじゃねえのはわかってるけどさ」


 ひとしきり二人は笑いあった。

 こんなに無邪気に爆笑するのは久しぶりで、蓮は目尻の涙をぬぐった。


(あー、やっぱりこいつに会いに来てよかった)


「で、初恋って何?」

「だから、そのスクリーム2号さん」

「明日花さん、な。いや、初恋って……俺恋人いたけど。知ってるだろ?」

「知ってる知ってる。中学時代から肉食系女子にバンバン食われてたな」

「人聞き悪いこと言うなよ。ちょっとデートしたくらいだろ」

「ぎゃっ! やめて!」


 皿からラム肉を取り上げると、晴哉が情けない声を上げた。


「ちっ、もう一皿頼むか……。おまえさー、自分から告白したことないだろ? いつも女の方から……って、言っててむかついてきたけど」

「自分で言ったくせにムカつくなよ」


 クスクス笑いながら、晴哉の肉を平らげる。


「おまえ、いっぱしの恋愛経験あるみたいに思っているかもしれんけど、全部受け身だっただろ」

「そんなことないよ」

「ある! なんとなーく付き合って、なんとなーく別れてきただろ」

「……」


 これまでの歴代彼女の話を全部知っている晴哉に言い訳は通じない。

 蓮はぐっと詰まった。


「……ちゃんと好きだったよ」

「言い淀んだな! 『ちゃんと』なんて言ってるあたり、恋じゃねえんだよ!」

「……っ」

「恋はするものじゃなくて、『落ちる』もんなの! 気づいたときにはもう、途方もなく深い穴の底にいて呆然とするもんだ。初めての経験なら、これが初恋だろ」


 これみよがしに晴哉が指差してくる。


「大げさだな。会ったばっかりで気になるくらいで」


 蓮は明日花のくるくる変わる表情を思い出した。

 驚いた顔、情けなさそうな顔、満面の笑み――いろんな表情の明日花が浮かんでは消える。


「ほら、思い出し笑いしてる。そんなおまえ初めて見た」

「いや、それは――」

「そもそも、そんなに楽しそうに女の話をしたことないだろ」

「……」

「それに、あれほど女に対して拒否感でいっぱいだったのに、自分から誘ったり、助けたり、あとをつけたり……」


 話しながら晴哉が突如ふき出した。


「なんだよ」

「でかい図体してストーキングしているおまえを想像したら笑える……」

「そういうおまえはどうなんだよ!!」

「あ? 俺?」

「全然恋愛話聞かないけど」

「俺はおまえと違って一途だからさ」

「えっ、好きな人いるの? 誰? 俺の知ってる人?」

「ゲームが恋人!」


 蓮は勢いこんだが、やはりはぐらかされる。

 学生時代からごんな調子で、晴哉は自分の恋愛についてまったく話してくれない。

 恋愛に興味がないわけではなく、なんとなく好きな相手がいるのだろうとは感じる。

 教えてくれないのは蓮を信用していないというわけではなく、おそらく何か障壁のある秘密の相手なのだろう。


 見た目は派手だが、中身は実直なのが晴哉だ。

 口は悪いけれど基本的に優しいし、喧嘩はするが弱い者を苛めたりしない。

 長身でイケメンなのでモテないはずはないが、学生時代からなぜか浮いた噂は一切なかった。


(誰かと付き合ったって話を聞いたことがない)

(ずっと片思いをしている人がいるとか……?)


 だが、無理矢理聞き出すようなことはしたくない。

 晴哉が話したくなったら話すだろう。


「な、もう一回写真見せてよ」


 自分のことは話さないくせに興味津々のようで、晴哉がねだってくる。

 蓮は苦笑してスマホを渡した。


「雰囲気のいいカフェじゃん。この手に持ってるマスコットって『オカはぐ』の刃也?」

「知ってるのか!?」


 驚くことに、晴哉はデフォルメされたキャラ名をすぐ言い当てた。


「当たり前だろ。アニメ化されてるんだし。俺、一応ゲーム業界にいるんだけど?」


 晴哉は昔から小説や漫画が好きで、今はIT系の会社でアプリゲームの仕事についている。


「今度、俺の部署が『オカはぐ』のアプリゲームをやるんだよ」

「えっ!」


 思いがけない繋がりに蓮は声を上げた。


「アプリゲーム?」

「そ。ロールプレイングバトルもの。もうすぐ事前登録始まるぞ。おまえもやれ」

「あっ、うん。全然知らなかった……」

「そりゃそうだろ。おまえアプリゲームなんか興味ないだろうし、わざわざ言わねえよ」

「じゃあ、晴哉は『オカはぐ』読んだことあるの?」

「当たり前だろ! コラボ相手だぞ!? ノベライズやキャラブックも全部読み込んでるっつーの」

「そっか……」


 自信満々に言い切るところを見ると、かなり読み込んでいるらしい。

 

 明日花さんと話が合いそうだな――と思って少しもやっとした。


(俺も全部読もう……)

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