表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/60

第25話:雨の日の失敗

 翌朝、明日花あすかは枕元に置いた小さな刃也のぬいぐるみ――通称『ちびぬい』と友に目覚めた。


「おはよう……。ぬい、最高……」


 何度見てもうっとりしてしまう。


(ああ、これで一緒に写真が撮れる!)


 千珠ちずのように、ちびぬいを持ち歩いて記念写真を撮るのが憧れだった。


(休日にぬいデビューしよう!)

(一番好きな服装と表情のやつなんだよね!!)

(まさか5000円で取れないと思わなかったけど……)


 自分の不器用さに改めて驚く。

まさかのれんの登場に絶望したが、たったの一回でとってくれた。


(クレーンゲームも上手いとか、どんだけ与えられているの……)


 明日花はシリアルに牛乳をかけただけの簡素は朝食を頬張った。


(神様は不公平だな……なんでも持ってる人もいるのに……)


 だが、あのままだったらペンダントと合わせて一万円くらいかかっていたかもしれないので、本当にありがたかった。


(面倒見いい所は刃也じんやくんそっくり。でも、あんなに笑わないんだよなあ……)


 蓮はいつも笑顔を向けてくれる。それに過剰かじょうなほど親切だ。

 だが、警戒心をとくわけにはいかない。


(リアルの男なんだから)

(無神経な言葉で簡単に傷つけてくるんだから)


 身支度をしていると、床に置いていた袋に足をぶつけた。


「痛っ……」


 ザザザっと音がして、袋が横倒しになる。


「あー、グッズの整理しなきゃ」


(大きい百均って渋谷にあったよね)

(ついでにイケアも寄ろう)

(可愛いジップロックを追加したいし)


 ふと蓮の顔が浮かんだ。


(何かお礼に買おうかな……)

(でも、喜ぶものがわからない)


 グダグダしていると、インターホンが鳴った。


「あっ、もうこんな時間!」


 明日花は急いで刃也のペンダントをつけた。

 ペンダントトップの赤い石が可愛い。


(なんかしと一緒にいられるみたいで最高!)


 ペンダントが見えないようにシャツのボタンをとめ、明日花ははずむ足取りで玄関へ向かった。

 朝、迎えにきてくれた蓮に改めてお礼を言う。


「あれくらいいつでも声かけてくださいね。で、今日の帰りはどこかに寄りますか?」

「いえ、今日は渋谷に買い物に行きますので」

「そうですか……」


 蓮が残念そうな顔になるのを明日花は不可解な思いで見つめた。


(なんでこの人、私を送りたがるんだろう)

(そんなに心配?)

(私なんてただの隣人で、巻き込まれただけなのに)


         *


 明日花は仕事帰りに渋谷へ足を伸ばした。日本橋から渋谷までは銀座線一本で行けて便利だ。

 イケアはたまに来ると目移りしていろいろ買ってしまう。

 各階を回り、明日花はすっかり疲れてしまった。

 バッグの肩紐が食い込んで痛い。


(買いすぎた……いつもこうだ)


「ほら、貸して」


 優しい声に振り向くと、後ろにいたカップルの彼氏が荷物を持ってくれている。


(いいなー)


 ドラッグストア帰りに荷物を持ってくれた蓮を思い出す。


(ありがたいんだけど、し活的には邪魔なんだよね……)


 明日花は駅ビルのカフェに入って一休みをすることにした。

 サンドイッチとアイスカフェラテを頼む。


「ふう」


 スマホを取り出そうとしたが、なかなか見つからない。

 大きいバッグで便利なのだが、荷物が多くて目当てのものが見つかりづらいのだ。


「ええっと……あったあった!!」


 ようやくスマホを探し当てると、取り出したぬいぐるみを写真に撮る。


(へへ……初めての撮影だ)


 カップの横にいるぬいぐるみも誇らしげに見える。

 明日花はしばし休憩するとカフェを出た。

 メトロに乗り込み、最寄りの神楽坂駅に着くと、やたら傘を持っている人が目に付く。

 嫌な予感は的中し、外に出ると雨がしっかり降っていた。


「やらかした……」


 日中は晴れていたので、すっかり油断した。

 幸い、マンションまで走れば5分で着く。


「ビニール傘なんてもったいない!!」


 オタ活に散財している自分にそんな余裕はない。

 明日花は思いきって走り出した。


 結構濡れてしまったが、無事マンションに着く。

 明日花は玄関ホールで、ぶるっと体を震わせた。


(早く服を脱いでシャワーを浴びよう……)


 オートロックを解除しようとして、明日花は首を傾げた。


「あれ?」

 バッグをいくら探っても鍵がない。

 明日花は一気に血の気が引くのを感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ