第24話:助っ人登場!
「偶然ですね!」
びくうっ!!
明日花は想像どおりの飛び上がるようなリアクションをしてきた。
「はっ、あわっ……」
申し訳なくなるほど、明日花は狼狽してしまった。
手にした長財布をお守りのようにぎゅううううっと握りしめている。
(さりげなく、気を遣わせずに手伝おう……)
「クレーンゲームですか? 懐かしいなあ。高校生の頃、よく友達をやってました」
蓮はにこりと笑顔を浮かべた。
「よかったら俺がやってもいいですか? お目当ては?」
明日花が逡巡しているのが手に取るようにわかる。
蓮に立ち去ってほしい、という気持ちと、もしかしたら景品がゲットできるかもしれないという期待が鬩ぎ合ってるが見てとれた。
(ほんと、この人顔に出るなあ……)
ふき出すのを必死でこらえ、葛藤している明日花を見つめる。
「どれですか?」
(あっ……これ、例のアニメのやつだ)
(オカルト学園はぐれ組……)
筐体の背面にポスターが貼ってある。
見慣れた登場人物が五人、制服姿でポーズを取っている。
(へえ、ぬいぐるみ……)
景品はキャラを模した2頭身の小さなぬいぐるみだ。
「どれを取ればいいですか?」
ダメ押しすると、明日花がふるふると指を差した。
「あの……銀色の髪の毛の……」
(おっ、やっぱり彼か……)
明日花が落とした箱に描かれていた銀髪のクールな感じの少年だ。
「了解です」
明日花の気が変わらないうちにと、さっと小銭をいれる。
(この角度なら、持ち上げるより、端っこに当てて落とす方がいいな)
(たぶん、アームの力が弱いから持ち上げるのは無理)
一気に昔の記憶が蘇る。
蓮は慎重にボタンを押してアームを動かした。
傍らで明日花が固唾を呑んで見守っているのを感じる。
(なるべく数回で取らないと、明日花さんの負担になる)
「よっと……」
アームに押され、ころりと呆気なくぬいぐるみが落ちた。
(おっ、ラッキー!)
「わああああああ!!」
突然の叫び声に、蓮はびくりとした。
明日花が歓喜に満ちた表情で飛び跳ねている。
全身で喜びを表す明日花に、思わず蓮も微笑んでしまった。
蓮はぬいぐるみを取り出すと、明日花に渡した。
「あ、ありがとうございます!!」
ぬいぐるみを手にした嬉しさからか、アーモンド型の猫目がキラキラ輝いている。
凄まじいばかりの感謝のオーラに、蓮はたじろぎそうになった。
(こんなに喜んでくれるとは)
(強盗から助けたときの百倍くらいの謝意を感じる……)
(本当に表情がくるくる変わるなあ……)
(さっきまで数学の難問を解いているような険しい表情だったのに)
ふっとまた猫のスクリームを思い出す。
蓮は全然近づいてくれないスクリームに、とうとう最終兵器を投入した。
そう、猫が大好きなおやつだ。
蓮を見るなり逃げかけたスクリームが足をぴたりと止め、恐る恐る近づいてきて――。
そして初めてスクリームの目が喜びに輝くのを間近で見られた。
(嬉しかったなあ……)
スクリームと同じように全身で喜びを体現している明日花は、今や警戒心が解かれている。
(もう一歩……近づいていいかな)
おやつを一心に舐めているスクリームにそっと手を伸ばし、初めてその柔らかい毛に触れたあのときのように。
「それ、アニメのやつですよね」
声をかけた瞬間、明日花がハッとしたように顔を強張らせる。
「……アニメっていうか、原作は漫画で……」
「ああ、そうでしたね。確か、週刊ハイタッチの……」
「そうです!!」
食いつき気味に明日花が頷く。
「あの漫画、お好きなんですか?」
たわいもない質問だったのだが、明日花は露骨にたじろいだ。
目が泳いだかと思うと、斜め下を見つめる。
「あのっ、甥っ子が好きで……それで彼にあげようと……」
「甥御さんがいるんですか」
「あっ、はい、兄の……」
「お兄さん?」
意外だった。
(兄がいる女性は甘え上手な印象が強かったけど)
明日花が目をそらせてそわそわしている。
「あのっ、お金払いますね! あっ、小銭がない! 両替を……」
「いいですよ、これくらい」
「ダメです!!」
両替に行こうとする明日花を留めるように、蓮は口にした。
「あ、じゃあ、今度お茶でもおごってください」
「あうっ……」
明日花が酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせている。
返答に困っているのが丸わかりだ。
蓮は笑いを堪えるのに必死だった。
「冗談ですよ。本当に気にしないでください」
「あ、はい……」
明日花はあからまさにホッとしている。
(詐欺とかに簡単に引っかかりそうだな)
(目が離せないというか……芙美さんも心配だろうな)
「じゃあ、帰りますか?」
「いえっ、あのっ……」
明日花が財布から千円札を出してくる。
「よかったら、その、もう一つとってもらえませんか? お金は払いますので!」
「いいですよ、どれですか?」
「あっちの小さいクレーンゲームなんですけど……」
請われるまま、蓮は次のクレーンゲームに挑戦した。
次は赤い石のついたペンダントだった。
こちらも難なく3回目であっさり取れた。
「す、すごい! 蓮さん、めちゃめちゃ上手ですね……!!」
誇張のない心からの賞賛に、蓮は照れくさくなった。
「そのペンダントも刃也のアイテムなんですか?」
「はい! 刃也くんがいつもつけているペンダントのレプリカで。この石から魔剣が――いえっ、なんでもないですありがとうございます!」
明日花がペンダントを大事そうにポーチにしまう。
「本当にありがとうございました! 二つとも取れるなんて!」
率直に感謝を表す明日花に蓮は思わず見とれてしまった。
(楽しい……)
(思い切って出しゃばってよかったな)
戦利品を手にした二人は帰路についた。
蓮は明日花が萎縮しないよう、近所の美味しい店の話など気楽な話題を振る。
明日花はまだ興奮気味で、いつもより饒舌だったこともあり、あっとういう間に部屋の前についてしまった。
「じゃあ、おやすみなさい」
「あのっ……」
明日花が思いきったように顔を上げてくる。
「ありがとうございました!」
それはあまりにも混じりけのない純粋な感謝の笑顔だった。
「いえ、大したことじゃないので」
蓮はさらっと答えると部屋に入った。
(うわっ……やば……)
一人になった瞬間、蓮は思わず口を手で覆った。
心臓が激しく打っている。
(俺、今彼女を部屋に連れて帰りたいと思った……)
(部屋でお茶でもどうですか、なんて言わなくてよかった……)
(絶対、警戒される)
全身の気を逆立ててこちらに向かって唸るスクリームの姿が浮かぶ。
「ふう……」
リビングに入ると、静けさが思ったよりも堪えた。
当たり前だが、ひとりぼっちだ。
先程までの高揚感や楽しさからの反動が大きい。
(ライブハウスからいきなり無音の部屋に移動してきたみたいだ……)
思いのほか、寂寥感が募り、蓮は戸惑った。
(やば……もう明日花さんに会いたいと思ってる……)
(なんでだ?)
(余計なことを考えずに楽しく過ごせたから……?)




