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第17話:ほのかな独占欲

 注文を終えて一息ついたが、岳人がくとに対する苛立ちが明日花あすかの胸に渦巻いていた。


「高校から別の学校になって本当にホッとしたよ。私もリッカみたいなパワーあったら、ぶっ飛ばすのに」


 リッカは『オカルト学園はぐれ組』の主人公の同級生で、余り者同士でチームを組んだ三人のうち一人だ。

 ヨーロッパからの留学生で長い金髪のエルフの少女で、188㎝と学年で一番の長身を誇る。

 リッカはエルフとは思えない豊満なボディを持ったパワフルな女の子だ。

 その体格や性格のせいで故郷で爪弾きにされ、今や危険地帯となった日本国にやってきた。

 自分の居場所を求めて――。


(かっこいいよな。リッカちゃん……)

(容姿や性質を責められたのに、相手を見返すためではなく自分らしく生きられるように、と新天地に来た)


「でも、あんなに明るいリッカちゃんが、実は自己肯定感が低く、自分を犠牲にしがちっだったて気づくエピソード良かったよね」

「うん。真護しんごだけが気づいたんだよね」

「さすが主人公って感じでかっこよかったなあ」


 最初はバラバラの個人技チームだった真護、柊一郎しゅういちろう、リッカの一年生三人組が、徐々に本当の仲間になっていくのは見ていて気持ちがいい。


刃也じんやくんはリッカちゃんが苦手っぽいけど……」

「や、そんなことないと思うよ。どっちかって言うと、気さくに話している耀ようの方が、上辺だけ仲良くしている感じじゃない?」


 千珠ちずがいくつかシーンを例に出す。


「さすが、しのことはよく見てるね」


 耀の表情や反応を細部までチェックしている千珠に舌を巻く。


「まだ耀くんの闇の部分は明かされてないからねー。今から楽しみだよ。でもなんか死にそうで怖い……」


 千珠が表情を曇らせた。

 昔から、千珠が好きになるキャラは死んで途中退場になることが多かった。


「大丈夫でしょ! 刃也くんがついてるし。絶対に相棒である耀くんを守る――」


 言いかけて、明日花はハッとした。


「耀くんをかばって刃也くんが死ぬってパターンもありそう……。考えすぎだね! 二人ともメインキャラだし!」


 不吉な想像を慌てて振り払う。


しがいなくなる世界なんて考えたくもない……)


 千珠が思わせぶりにこちらを見てくる。


「そうそう、刃也くんそっくりのお隣さんに興味あるなー。写真ないの?」

「ないよ」


(あ、でも欲しいな写真……)

(相手にけむたがられず、心ゆくまで眺められる……)


「ふうん……。じゃあさ、そのイケメンを紹介してよ!」

「ええっ、やだよ」


 明日花は反射的に断ってしまった。


「なんで? 興味ないって言ってなかった?」


 素朴な千珠の問いに、明日花はぐっと詰まった。


「だって……刃也くんに似てるから……!」


 咄嗟とっさに適当なことを口走る。


(全然理由になってない!)


 だが、なぜか納得したように千珠が頷いた。


「なるほど。同担どうたん拒否って感じ?」


 同担拒否とは、同じキャラを好きな人を忌避することだ。

 理由は独占欲だったり、グッズの協力ができないから、など様々《さまざま》だ。

 本来、明日花は同じ推しを好きな人は『同志』と思うタイプなのだが、キャラの解釈が極端に違う人の話をSNSで見るともやっとするので、一応そういうことにしてある。


「そう、そんな感じ……?」


 自分でもよくわからないが、千珠が納得してくれるならそれでいい。


「あ、でもわかるー。自分でも、ちょっと浮気っぽいって思ったもん。いくらリアルだからって、刃也くんに似ている男性に興味を持つなんて」


 千珠がソーダを飲みながら、うんうんと自分の言葉に頷く。


「私はしは耀くんだからね。刃也くんに似てる人にアプローチするって、よく考えたら抵抗あるなー」


 千珠の言葉に、心底ホッとしていることに明日花は気づいた。


(な、なんでこんな独占欲みたいな……)

(別に私の恋人でもないのに)

(ただの隣人なのに彼を見せたくないって思ってしまった)

(ああーーー、なんて器が小さい女なんだ、私はーーーー!!)


 頭をテーブルに打ち付けたくなったが、運ばれてきたケーキを見て一瞬に暗い気持ちが吹っ飛んだ。


「わああああ、可愛い!」

「素敵! これ金粉きんぷんがかかってる!」


 耀のイメージカラーの華やかなモンブランがテーブルに置かれる。

 対して刃也は銀色なので、チョコレートケーキの生クリームの上に銀色のアラザンが大量に振りかけられている。

 二人はここぞとばかりにケーキの写真を撮りまくった。


「めっちゃ、映える~」

「すごい素敵な空間だね!」


 食後に二人はホットのカフェラテを頼んだ。

 キャラのイラストをラテアートにしれくれるのだ。


「はー、お腹いっぱい! 推しのコースターも出たし、食べた甲斐あったよ」


 千珠が満足げに息を吐く。


「あんたをおとしれた前の会社のクソ野郎はムカツクけどさ、でも結果的に上京してきれくれて嬉しいよ!」

「うん、私も上京してよかったよ!」


 窓の外を見ると、華やかに輝く新宿のビル群が見える。


(ああ、私、本当に東京にいるんだ……)

(そうだよ、もう嫌な思い出のある場所から離れたんだ)

(全部忘れて楽しむんだ……)


 明日花はカフェラテをぐっと飲み干した。

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