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ハナ Floro
通りがかった崖に美しい花が咲いていた。
わたしはそれを欲しいと思い、家族が止めるのも聞かず崖を登りはじめた。
予想以上の苦労の末、ようやく手が届きそうになったところで花が跳ね、ぴょんぴょんと上の方まで上がってしまった。
ここまで来てあきらめたくはない、わたしはさらに登っていく。
家族の声はもう聞こえない。まわりを見ると、少なからぬ人影が同じく崖を登り、それぞれ花を追っていた。
勇気づけられたが、一方では、崖にしがみつく他人の姿を゙見て、そんな情けないありさまで過ごす人生がひどく惨めに思えてきた。
上へ上へと逃げるあの花を手に取る日は来るのか、そして手に入れたらどうだというのか。心はとても揺らぐのだが、結局わたしは今日も一人で登っていく。
誰も聞かないうめき声を上げながら。
Fino