イナヅマ Fulmo
稲妻をつかまえては売りさばき、わたしの祖先は財産をたくわえたらしい。
ある日、透きとおる羽を背に生やした翁がひとりやってきて、子どものわたしが見ている前で、わが家に指をむけ空中に文字を記した。
それを翁が扇であおぐと、家屋敷はもちろん、財という財が光る蛇のような姿になり、身をくねらせて空へとのぼっていってしまった。両親も祖父母も、驚きはしたが何も言わなかった。
翁の姿はいつの間にか消えていたが、わたしからくわしい話を聞いて祖父が言った。
――そのかたは雷神で、かつて稲妻であったものを取りかえしに来られたのだよ。
甘やかされて育ったわたしは、自分が空へのぼれなかったことに不満を持ち、たいへん拗ねた。わが家にとって自分は宝であると、その日まで信じていたからである。
だから前夜の宴のために呼んでいた芸人たちにまぜてもらい、ひそかに旅に出た。
しばらくしたら帰るつもりだったが、他郷をめぐるうちに、どこが自分のふるさとなのか忘れてしまった。
老齢になってからは、ある放棄された蔵に留まり、世間で用済みとされた文字をただで蒐めてきては、磨いている。
文字のすべては神々がつくり出した宝だと、旅の日々で知ったのだ。
わたしにはまだ、自分が宝であることを信じる気持ちがある。いずれこの文字たちの価値を思いだして神が取りかえしに来るだろう。そのときこそわたしもいっしょに天空の彼方への旅に連れていってもらうつもりだ。
宝には宝の故郷がある。そこへわたしももどるのである。
ほら、雷鳴が近づいてくる……。
Fino
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