乙女座のきがかり

ナイフ trancxileto

　彼女のことが憎（にく）らしい。

　ああ、憎らしい、憎らしい。

　だがわたしが彼女を憎めば憎むほど、彼女はなぜか美しさを増す。

　その美とわたしのありさまとの差に、また憎しみが増していく。――

　彼女はいつもむこうがわにいる。わたしはこちらがわ。

　いま、わたしは鏡を睨（にら）んでいるのだ。鏡面（きょうめん）のむこうの彼女が憎い。

　わたしは、自己陶酔者(じことうすいしゃ)なのか？

　しかし彼女に日々くわわる美が、わたしにも同様にくわわっているとは思えないのだ。

　不公平の積み重なりからくる憎しみをもうおさえきれず、わたしは彼女を殺そうと決めた。

　むこうがわでは彼女が蔑（さげす）むように嗤（わら）い、やはりナイフを手に取った。

Fino