魔獣こわい
落語の世界には、饅頭こわいという噺がある。饅頭の細雪、幸せな笑い噺だ。ここの世界では、魔獣こわいという話である。魔獣の雨霰、不幸せな笑い話だ。
「クッソ不味い!!!」
倒した魔獣の血液を飲み干す俺は、とっくに吸血鬼らしくなってきた。食料も飲料もないので、死に血を啜るしかねぇんだと。
「虫達に集られる前に捌くぞ」
毛皮をはいで、溢れ出した血液を舐める。そして、豪快にナイフで切り取った肉を、大量の塩を入れたジップロックで保存する。この作業でも一苦労。こんなにするくらいだったら食わねぇ方がマシだ。なんて思いながらも、食わなかったらもっと動けねぇ。と、その悪循環にはハマらないように自分を鼓舞した。
「うんめぇ!!!」
馬のようで牛のような魔獣の肉はとびきり美味かった。今まで、スライムのようなドロッドロしたものを食べていたからちゃんとした肉は久しぶりだった。軽く目がチカチカッと、美味すぎてヤバい感じがした。これが違法ドラッグだろうが関係ねぇ、と食べ進めた。だが、その匂いに惹かれたのは俺だけじゃなかった。
「Switch」
パチン。精神を入れ替えられる瞬間。俺の意識は遠のいていく。まるで眠りにつくかのように、だけど現実のあの夢を見ていたくて、俺は眠りを拒んだ。
「あははっ!!うめぇうめぇ!!!」
ドドンッ、ドドンッ、近付いてくる地響きと足音。肉を両手に頬張った俺はソイツを目の前にした瞬間、為す術がなかった。……ドラゴン様のお出ましかよ。
ご褒美に、おっぱい。その単語が脳内に突き刺さったまま抜けないでいるが、その妄想で抜いている。そんなこと、あって良いのだろうか、いいや良くない。同意の上?下心はない?とゆーか、下心なしでおっぱいを触ったところで、その楽しみを存分に享受できないのではないか?じゃあ、下心ありきの同意の上?上下がグルグル定まらないで酔いそうだ。
「セレーナ……」
考えすぎで頭が沸騰してきた僕は、寝込みのセレーナを襲ってしまった。まあ、襲ったっていっても、ただセレーナのベッドに入って添い寝しただけだ。だけど、僕の恋情を確かめるには十分すぎる実験だった。ああ、胸が苦しくなってきた。セレーナ、こっちを向いて。と願い、頬を撫でる。彼女は寝惚け眼でこちらを一瞥すると
「か、カルマ、くん……?」
と少し目を凝らしてから、あ、やっと見開いた。
「お願い。今夜は一緒にいてくれない?」
バックハグしたセレーナの腰に手を滑らせる。下心がないなんて嘘だ。下心が僕の行動力の根源だ。
「……良いよ、カルマくんならば」