カンパーイっ!!
サンが勤めているバーに俺は最初で最後の出勤だ。体内時計を狂わせて、寝不足気味だけどワクワクが止まらない。可愛い女の子にチヤホヤされる夢見て、現実との差に、何度、涙を拭いたことか。
「よろしくお願いします!」
元気いっぱいにマスターに挨拶。店内清掃という俺でもできる仕事をしながら、今か今かと、その時を待った。カランコロンカラン、バーのドアが開く音。あっ、可愛い女の子が二人組で入ってきた。しかも、一人の子はケモ耳じゃん。やべぇ、超可愛い♡♡
「これと、これ。お願いしますっ!」
注文されただけでこんなに動悸がするって、もはや何かの病気だな。でも、カウンター越しに女の子を見ると、そのダボッとしたTシャツの隙間から、たわわな胸元を支えるアレが……。
「ルナ、仕事しろ!!そのお酒、取って。入れて。あーもう、入れすぎ」
脳内でサンから喝を入れられて、ようやく現実に引き戻された。初仕事、俺の集中力は皆無で何一つマトモにできていない。
「ソルくん、何か考え事してる?」
クソほどミスを連発した俺はとうとうマスターに心配された。精神が二人分あるなんて話をしても、信じてもらえないだろう。しかも、モテない俺の頭の中はそーゆーことでいっぱいだと言ったら、今すぐ首を絞められそうだ。
「いえ、大丈夫です!頑張ります!!」
水でも飲んで、一呼吸して落ち着くかあ。って、グラスに入っていた透明な液体を、グイッと一気に煽った。
「バッカ!!!それウォッカ」
あー、視界がぐらんと歪んでいく。身体がどんどんと火照ってくる。ふらつく、うまく立てない。けど、何かこれ。楽しい楽しい楽しい楽しい。
「お姉さぁん、チューしましょう?」
僕はカウンターに片肘ついて、お姉さんの頬を撫でていた。自分と酒に酔ってないとこんなことできない。けれど、それ以降の記憶は無い。
異世界に来て、二日目。地獄の勉強が始まった。すごい魔術を使える素質はあっても、その魔術の使い方を知らなかったら、結局、使えないからだ。
「ざっくり分けると、炎、水、草に分類できるな。何かゲームみたいだ」
その他に、Giftedというその各個人にしか使えない魔法があるらしいのだが、異世界人の僕は使えるのか微妙なラインだ。
「カルマくん、こんなにもお勉強されたんですか?」
僕の周りに積み上げられた本の量に、セレーナは驚いた表情を見せた。だから、冗談交じりに
「僕、天才なんですよ」
って、驕ってみた。天才は自分では天才って言わないんですよ、とか、あーはいはい、凄いね、とかそういった反応されると思ってたんだけど、
「ふふっ、そうですね!熱心に勉強されていて偉いですっ♡」
と頭を撫でられた。それが子供扱いされているようで歯がゆくもある一方で、成長するにつれて素直に褒められることが無くなっていったため、嬉しくもあった。