二律背反
「シノ!!?、シノ……?」
直射日光が彼を焦がす。僕は急いで上着をかけたが、返事がない。研究員の男は骨の髄まで燃え尽きた。奴は、ヴァンパイアよりも太陽に弱い怪物になっていた。
「ふふっ……カルマ、くん……やったね」
彼の弱々しくも嬉しそうな声。
「良くないよ!!君がこんな死にそうなのに、僕は……」
シノに直射日光が当たるリスクがありながらも、研究所の天井を破壊した。全て彼の命令だった。
「ううん、良いの。最期に、カルマくんの顔が見たかったから……」
彼は僕がかけた上着を退けて、僕の頬を撫でようとした、その指先が日光に当たり、焦げてなくなっていく。
「シノ、嫌だよ。僕の血液を飲んで?」
「致命傷なの、分かるでしょ?」
血液を飲んだところで治らない傷だって、そんなこと、僕でさえ、分かってるよ。でも、飲んで欲しいから言ってるんじゃん。分かってよ!!
「……シノがいない世界で生きるのは苦痛だよ。お願いだから、死ぬのは僕を殺してからにして」
左手首を目一杯に切った。
「ふふふっ、カルマくんは俺を笑わすのが得意だね!」
最期に見たのは、君の笑顔だった。
「シノ!」
真っ白な部屋で、彼が笑顔で駆け寄ってきてくれる。
「ルナ」
もう一方の彼は、笑顔も見せずに冷淡に俺の名を呼び、こっちに来いと手招きする。俺は左右を交互に見て、悩みに悩んでその場にうずくまってしまった。
「こんなのは、俺の妄想だ」
そう、夢を見ずに最悪な結論付けをした。
部屋が真っ暗に変わっていく。
「ん?何緊張してんの??」
俺の目の前には上裸のカルマくん。いつの間にか俺はベッドに横たわっていた。初夜のような、ぎこちない雰囲気だ。
「いっ……痛い、痛いよぉ……」
次の瞬間、俺は擦られて笑い泣きしていた。
「なあ、そこは演技でも気持ち良いって言えよ。萎えるんだけど」
そう言って、頸動脈を押さえられて、無茶苦茶にイカされる。謝っている途中だった。変態、って蔑まされるのも、ちょっぴりゾクゾクした。
「ルナ、また酷い悪夢だったね……え?あれが現実??……じゃあ、悪魔だよアイツ」
「だからあ、悪く言わないで」
「……ふふっ、意味わかんねぇお前」
って、俺のことバカにしたと思えば、脳内では俺が傷付いてないか心配してるんだから、意味わかんねぇのはそっちだ、といつも思っている。
「死んで、良かったのかなあ?」
「さあね、でもルナをいじめるやつはもういないよ」
だけどその言葉に、ちょっぴり安心もしたんだ。




