ブサかわ犬
幾度と蹴られ続けても尚、狂ったようにずっと笑っている彼。死んだはずの彼だと確信した。
「シノ、ヴァンパイアになったんだね」
その白髪を撫でた。中身は何も変わってないのに、ブサかわ犬のような愛嬌のある見た目から、愛玩動物に相応しい端正な見た目へと変化していた。シノに腕を引かれる。いつものようにハグを要求してくる彼の要望に応えて、僕は両手を広げた。
───突如、青い瞳が赤く染まる。ガブリッ。
全身の血の気がサーッと引いていく。視界がぼやけていく。じんわりと肩が痛む。あ、噛まれたんだ。
「待ってたんだ。最後にお前が優しくするところ」
悪くなった視界で彼を捉える。その艶めいた唇は、僕の血液で赤くなっていた。
「……誰だ?」
「あ?知ってんだろ??俺はヴァンパイアだ」
シノとは別人の誰かがそこにいた。さっきまでシノだったのに、もうシノじゃないみたいだ。
僕はその場に倒れ込んだ。
目を覚ますと、身ぐるみ一式が剥がされていて、全裸でベッドの上に寝ていた。なんとまあ、見事なまでに、一文無し。
「カルマくん、目を覚ましたのね!」
僕が寝ていたベッドに腰掛けていた彼女と目が合った。彼女が驚き、勢いよく立ち上がる。
「……セ、セレーナ?君も、目を覚ませた??」
あのヴァンパイアから。
「え?いやあ、んーーー、どうなんだろう??」
というぼんやりとした解答しか得られない。
「それよりもさあ、カルマくん。あのヴァンパイア、逃げてったよ?」
僕が倒れた後で、ミレはヴァンパイアと戦ってくれたようだが、簡単に投げ飛ばされてしまったと決まりが悪そうに語った。吸血後のヴァンパイアには、誰も敵わないんだって。
「えーっ!!私がいたら即氷漬けにしたのにぃ。カルマくん、早く追いかけよ?」
ジュリが一目そのヴァンパイアを見てみたいとウズウズしている。僕もシノとそのヴァンパイアを追いかけたい気持ちは山々だが、その前に、
「誰か、服ちょーだい?」




