カンドウノサイカイ
「何故、カルマくんのことを?」
お付きのケモ耳の彼女。あ、バーであったお姉さんだ!世間って、めちゃくちゃ狭ーい。
「え?だって、俺は」
そっか、ヴァンパイアなんだ。
「……シノ?」
え、?この名前で呼ばれるの、ものすごい久しぶり。俺のこと、気付いてくれたんだあ。って、無条件に喜んだ。
「うん!そうだよ!」
と彼に抱きつこうとすると、思いっきり腹部を蹴られる。アレの再開だ。
「もしお前がシノだったら、僕にどんなに蹴られても笑っていられるよなあ?」
サディスティックな笑顔で何度も何度もサンドバッグのように蹴られる。ああ、その痛みすら心地良い。彼の自尊心を俺が補完しているのだから。
「ふふっ、ごめん。嬉しすぎて泣いちゃった!」
「あはっ、愛変わらず気持ち悪ぃね!」
と一蹴された。
俺達の関係がこうも歪んだ発端は、一年前の保健室で。俺が腕を切っているところに、ちょうど寝に来たカルマくんが居合わせたのがきっかけだ。
「違う、これは……違うの!!」
咄嗟に俺はマトモに話したこともない彼に、必死の意味が分からない弁解をした。溢れる血液は止められない。対して、彼は玩具を見つけたようなキラキラした笑顔を見せて、
「何が?、痛がりたいの??」
と聞いてきた。俺がぎこちなくコクンと頷くと、彼はさらに口角を上げる。それを不思議に思って、
「何で笑ってるの?」
って、指摘した。彼は一驚して口を噤んでから、
「僕、人間を蹴ってみたいんだよね」
と耳打ちされた。真面目で人望があって優等生な彼の隠された一面。脳内で点と点が線になった。
「それって、俺を蹴りたいってこと?」
その後、空き教室でそれを実行した。彼の最初の一蹴りは、遠慮気味で全然痛くなかったから、俺は気が抜けて笑ってしまった。
「何で笑ってんの?」
「こんな俺にも存在価値があるんだと思ってさあ。もっと強く蹴っていいよ」
と彼の全てを受け入れたように、俺は両手を広げると、
「キショい」
って、ストレスとキモさの相乗効果でみぞおちにいい蹴りをくらった。初めて、暴力の味を知った。悪くない味だった。
「カルマ、くん……」
ぼんやりとした脳で彼の名前を呼んだ。足が見える。彼にまた蹴られると身構えたら、何故か彼のその腕に包み込まれていた。
「ごめんシノ。痛かったよね?でも、おかげで救われたよ」
彼のその一言で、俺の死んだ心が蘇った。俺は彼に身も心もすっかり惚れ込んでしまったのだ。




