結局、自分が一番可愛いんだよ
その女の子に手を掴み、俺の部屋に連れ込んだ。俺のこの苦しみが消えるならば人間、一人くらい死んだって構わない。俺が死ぬか、誰かが死ぬか、究極の二択なんだ。だったら俺は、俺が可愛い。
「ねえ、喰っていい?」
「どうぞ」
僕はその白い肌に牙を向けた。プスリとその肌に牙が刺さった瞬間、生唾を呑んだ。赤い血液がツーッと流れる。
「やっぱ、おにぎりが食べたい……」
高層ビルの最上階では足が震える自殺志願者のように、いざという瞬間に俺は怖気付いたのだ。
「おにぎり?」
「白米が食べたい。鮭おにぎりが」
俺はわけもわからず日本語で話していた。
「何を言っているの?」
「人間的な食事がしたい。俺は人間だ」
腕を切っては血を舐めるのも飽きていた。俺の味覚は人間の頃よりも血液が美味しく感じるようになっていたが、元の味覚はあまり変わらなかった。
「……分かった。買ってくるね!」
バタンッと彼女がいなくなる。寂しさに襲われて、また腕にかぶりついた。彼女は言うまでもなく勿論可愛いが、鬱というものは恐ろしいもので、あんなに密着したというのに性欲のせの字も湧いてこない。俺の頭の中は死にたいとかリスカしたいとかそーゆーことでいっぱいだ。
「あ、」
彼女がパンとチキンを買ってきた。けれどもその前に餓死寸前で腕にかぶりついているところを彼女に見られてしまった。
「ふふっ、本当にお腹が空いてるのね!」
彼女は何事でもないようにその行為を流した。
「それ、ちょーだい?」
「はい、召し上がれ!」
かぶりついたチキンは俺の肉よりもジューシーで、柔らかくて、肉肉しくて、とてつもなく美味しかった。
「ううっ……うめぇ……」
「な、泣くほど!??」
「はああ、生き返るううう……」
幸福感が脳内、いや、身体中に満ちている。もっと、もっともっと、もっと食べたい!!!パンくずをも落とさず、骨までしゃぶったチキン。食べる前よりも食べた後のが食欲ってあるようだ。
「なあ、喰っていい?」




