バナナはおやつじゃありません
「セレーナ、君はとびきり優しいんだね!」
「んー?そうかなあ??」
でも、優しさは強さじゃない。僕みたいな悪人にとっては、利用価値である。僕の甘言は君を誘うための罠だ。
「そうだよ。普通、食糧の気持ちまで考えないって!」
「あのヴァンパイアさんは、違ったなあ……」
出た。またヴァンパイアの話だ。僕はうんざりして、セレーナとの距離をわざと詰めた。
「今日の夜は、一段と冷えるね」
肩同士がピタッとくっつく。
「カルマくん、」
「ん?」
「私を惚れさせようと、努力しなくていいよ」
彼女は冷ややかな視線を僕に向けた。
「それ、どーゆー意味?」
「言葉通り。お父様から言われてるんでしょ?」
「全然。何のこと?」
「惚けないでよ。まあ、良いわ。結局、貴方と結婚するしかないのだもの」
そう微笑む彼女はちょっぴり悪人に思えた。
「あ、嫌なんだ。僕はセレーナのこと、『結構良いなあ』って思ってたんだけど」
「私よりも可愛い子達を引き連れておいて、何言ってるの?」
と拗ね気味にそっぽを向かれてしまった。
「ふふっ、何言ってるって?……セレーナが一番可愛いよ♡」
彼女の艶めいた黒髪を撫でると、彼女は目を丸くして、頬を赤く染めた。その雰囲気のまま、僕は彼女の頬に手を添えて、唇を徐ろに近付ける。
「ん〜!!バナナはおやつじゃありません。いいえ、リンゴはおやつです」
というジュリの謎の寝言で、僕達はビクついて、お互いに明後日の方向を向いた。この胸のドキドキだけがやけに残るのは、恋という感情のせいだろうか。
ホテル生活五日目。今日も一歩も外に出たくない。何なら一歩もベッドから離れたくない。かといって、ベッドで何をするんだって?何をしないのをするんだよ。人間も吸血鬼も食事をしないと飢餓で死ぬなんて、燃費悪ぃ。冷蔵庫を開ける。……空っぽだった。
「あ〜、何もかも面倒くせぇ……」
まず服脱いで、シャワー浴びて、身体拭いて、服着て、日焼け止め塗って、日傘ささなきゃ、外出できない状況にいるを考えただけで疲れるわ。だったら、ホテル内の人間喰った方が効率が良い。
「ルナって、俺よりもヴァンパイアよりの思考してるよな」
だって、欲を頭でコントロールするなんて、馬鹿げてる。廊下で誰かとすれ違う。見覚えのある顔をした誰かだった。
「あ、やっと会えたね?ヴァンパイアさん♡」




