アンチガーリックフレーバー
ガブリッ。
と噛んだフリをして、唇を噛み締める。ギン勃ちしてるのに前戯だけで挿入のないセックスのようだ。煮え切らない思いがドロッドロに煮詰まって、鍋の底が焦げる思いだ。
「冗談だ。さっさとどっか行け……」
そう背中を蹴飛ばして、男を逃がした。そうでもしないと喰ってしまいそうだった。あー、クソ腹減った。食欲、性欲、睡眠欲が人間の三大欲求だとしたら、食欲+性欲が満たされるそれが、ヴァンパイアの最大欲求だ。惰眠を貪るのにはとっくに飽きている。自分を慰めながら肉を喰らう、俺は怪物だ。
サン、起きてる?俺、夢見たんだ。サンと一緒にご飯を食べる夢。ご飯って言っても、人間じゃないぜ?牛とか豚のステーキだ。それを二人で美味しそうに食べる。とっても楽しそうに……。俺は、馬鹿だね。俺達は二人で一つの身体なのに、まだ元の身体が、あの死体が欲しいって思っている。前まではあんな身体、すぐさま捨てたかったのに、不思議だね。
「そういえば、サンってさあ、ニンニクは大丈夫なの?」
「ダメだよ。人間の食糧全般、旨みが感じないんだけど、特にニンニクだけは理解できない。何であんなもん人間達は好き好んで食ってんのか訳わかんねえ。ニンニクが隠し味に入ってるだけで、俺にとってはそれはもうニンニクを丸かじりしているのと一緒なんだ。オマケにクセェし。最悪の食べ物と言っても過言では無い」
「さっすが、ヴァンパイアだね!嫌いなニンニクに対しては味覚過敏なんだあ」
そんな他愛もない会話をしながら、昼下がりのレストランで、ワインとぶどうジュースで乾杯したい。
「ルナ、起きたのか。体調は?」
「ダルすぎて最高。頭ん中、グラグラしてない?」
「ああ、ルナの馬鹿げた妄想ですら俺は分かってるよ」
セレーナを助けたのは、僕ではなく、見知らぬヴァンパイアだった。そもそも、ヴァンパイアが彼女を苦しめたのに、もはやDV彼氏だな。こんなことならば、付き添いの方には喰われていて欲しかった。悪いけど。ヴァンパイアには絶対悪になってもらわなければ、僕の存在意義が無いのである。
───セレーナはヴァンパイアに心臓を喰われた。




