事後報告
セレーナが泣いて帰ってきた。僕はすぐさまセレーナの元へ駆け寄って、その背中を撫でた。
「セレーナ、もう大丈夫だよ。僕がついてるからね」
「カルマ、くん……ヴァンパイアが……ヴァンパイアがあ……」
と僕の胸の中で泣く彼女を、ただひたすら僕は泣き止むまで撫でていた。話を聞くと、近くの森でヴァンパイアが彼女を襲ったらしい。見た目は真っ白な肌に、真っ白な髪。青い瞳が、突然、赤く変わったらしい。
「さぞ、怖かっただろうに」
「鋭い牙があったの、人間のものじゃないほど。どうしよう、私のせいで。付き添いの方が……」
セレーナが自己嫌悪に飲まれてまた泣き出してしまう。僕は正直、どうしたらいいのか分からなくて、お手上げ状態だった。それでも、傍にはいてあげようと思った。
「セレーナのせいじゃないよ。セレーナは悪くない」
「だって、私が回復薬をかけなければ、ヴァンパイアに襲われることなんてなかったのに!!」
あー、それはそうだろうけどさ。セレーナはネガティブで世間知らずのお嬢様。だったら、僕がポジティブでいないと。
「でも僕は、君のそうゆうところ、好きだよ?」
「え?……信じられない!!意味わかんない!!人間を、見殺しにしたんだよ??」
彼女から軽蔑の目を向けられた。
「だけど、ヴァンパイアを見殺しにできなかったからこうなっちゃったんでしょ?本当、誰にでも優しいんだね」
「い、嫌味!??」
嫌味っぽい口調になったのを察された。僕はそれを誤魔化すように頭をポンポンと撫でた。
「褒めてるよ。スーパーヒーローだってさ、悪人を助けてもスーパーヒーローじゃない?」
ダークナイトのバットマンがジョーカーを殺せないように、スーパーヒーローにはヒーローなりの道理があるんだ。世間的に悪人であっても、それはただの世間的な批評であって、世界的な基準での悪ではない。
「私は、そうは思わないけど……」
「僕、『勧善懲悪』嫌いなんだよね〜!」
とわざとらしくバカ笑いした悪人は僕だ。
「セレーナ様!!ご無事でしたか!??」
土埃に塗れたスーツを着た人が突然、セレーナの部屋まで入ってきた。誰だ?
「貴方こそ、ヴァンパイアを倒したのね?!」
あ、セレーナの顔が晴れる。僕の今までの慰めの言葉は何だったんだろう。
「いえ、それが……」




