知らぬが脳内お花畑
ヴァンパイアの飢餓状態はドラッグで錯乱しているのと似ている。が、ドラッグよりも飢えが数倍強い。嗜好品ではなく、本能的に求めるものだからだ。目の前には美味そうな人間二人。簡単に喰えてしまう。ルナが俺の身体を制御してくれていなれけば今頃……。まあ、ルナも失言したけどね!!!
「お嬢様、お下がりください。その男、ヴァンパイアでは無いのか……?」
生唾を飲む。爪を噛み始めた。こういう失言後、精神的にパニックになってしまうのがルナだ。ルナ、俺と同じように言え。
「血液なる食べ物が欲しいです」
「血液、食べ物、欲しいです……」
ダメだ、上手く言えてねぇ。せっかくドラゴンまで倒したのに、あの矛でぶっ刺されて死ぬのがオチか。
「大丈夫よ。ヴァンパイアならばこの日光の下にいれないはずだわ」
「セレーナ様、お言葉ですが、そこは木陰です」
直射日光を浴びれば、流石の俺でも火傷する。ヴァンパイアだってバレないように口元を手で覆わせた。
「けれど、このまま見殺しにはできない。回復薬を」
「これが最後の一つなのですよ?これでもし、セレーナ様の身に何かあったら、もう……」
「大丈夫だから!」
そう自信満々な彼女に回復薬をかけられた。細胞分裂が活性化する。貧血状態は治らないが、体に開いた大きな傷口は塞がった。
「お嬢様、ありがとうございます」
ルナ、やめろ。馬鹿、やっちゃダメだ。サンに引き止められるがカリギュラ効果だった。俺は彼女の唇を奪っていた。
「……えっ!!?」
ルナがそこで眠りについた。こんなところで俺と代わるな。お嬢様、喰っちまいそうだ。
「この無礼者っ!!殺されたいのか!!!」
あー、パンとワインが喋っている。美味そうだ。爪では飽き足らずに指まで噛んで、その味を想像しては唾液が止まらない。
「お嬢さん、お逃げなさい」
チラリと人間よりも発達した犬歯を見せた。彼女は腰を抜かしたように尻もちを付いてから、地面を蹴って後退りをしている。余程、驚いたせいか、家来を置いて一人で逃げてしまった。じゃあ、こいつは俺達の食糧ってことで。
ガブリッ。




