こんなん聞いてねえ
「あー、あちぃ。異常気象だろ。もうこの世は人間が住む場所じゃねーわ」
家の鍵よりも忘れない刃物で身を汚して、存在価値を失った俺は、通学路でトラックに轢かれるような非日常を欲している。たまーに目を瞑って、ふらふらと歩いたところで、車通りの少ない田舎道ではどうってことない。はずだった。
劈くようなクラクションの音。鈍い俺は痛みすら感じなかった。
「……ごめん、なさい」
俺が最後に発した言葉はそれだった。血が流れ出ていく。血が欲しい、血が、血が、真っ赤な血が……。炎天下の中、身体が凍ってしまったように異常に寒かったのを覚えている。走馬灯などクソすぎて記憶にないや。俺の人生、これにて終幕。最悪だ。
パッと目を覚ます。真っ暗な部屋。だけど目が慣れていて無問題。鏡前。真っ白な髪の毛に真っ白な肌。その端正な顔立ちに目が眩む。
「俺、じゃない」
「おはよう」
脳内で誰かの声がした。そいつによると、魔術で俺の精神がこいつの中に入り込んだみたいだ。俺はそれを聞いて、自らすすんで多重人格になりたがる変人というファーストインプレッションを抱いた。
同級生が交通事故で死んだ。クラスメイトはお悔やみモードで虚偽の涙を流しててウザかった。別に関係ないだろ。どーでもいいんだろ?僕は涙が枯れてしまったように一滴たりとも流れ出てこなかった。僕に唯一あるとすれば、愛用の玩具が壊れたような喪失感だけだった。
「血が、一滴も流れ出ていない」
その死体は傷付いてはいるものの、ただ眠っているようだった。僕が殺したわけじゃないのに、胸が苦しくなってくる。何故、彼は人形なってしまったんだろう?警察の規制をかいくぐり、直接、その髪の毛を撫でた瞬間、僕はこの世からいなくなった。
「……ん?」
僕は王宮のようなところで国王陛下みたいな奴に片膝ついていた。
「さすがは国王陛下っ!万歳!!」
と家臣達がすすんで万歳三唱を始める気持ち悪い場所に、僕は来てしまったようだ。帰りたい。
「異世界人よ。貴様に西のヴァンパイア討伐を命ずる」
……は?無理なんですけど。