かつての少年の闇と冒険
何故やったのかは今でも思い出せない。
子供の頃、真夜中に家を出たすぐの所で暗闇を見ていた。
世界が黒く塗り潰されたその後を。世界から切り離されたような感覚を。何かが潜んでいるような錯覚を。現実味のある嘘までもが目に映っていた。
何の興味で覗いていたのか本当に覚えていない。
当時は、こういう事は他にもしていた。
どこで体得したのか、人形には魂が宿っていると本気で精霊信仰をしていたし、庭の柿の木の葉っぱを食べていた。
奇々怪々、元からそんな子供ではあった。
けれど、そこから始まる人生はあまりにも普遍的。
夏場は暑かろうと人形を冷凍庫にIN、学校は「ちゃんと授業を聞けば勉強要らね」を実践して成績が中の中、家族が勝手に自分の貯金箱を粉砕すること三回、友達と喧嘩別れを二回、見っともない事を数十回、社会人になる頃には単なる盆暗。
ごめん、ちょっと変だった。
それでも結果だけを見れば今ここにいるのはただの人。
やっぱり、ドラマチックには生きられない。
過去にしがみ付いて未来に手が届かなかった絶望も、太陽に手をかざして漏れた光を太陽と呼ぶような繊細さも、避けていたから知らない筈だ。
時間が経つ度に、目が虚ろになっていく様子は鏡越しに分かっていた。自分の顔を思い浮かべることが次第に難しくなってきた。
思えば、闇を怖くなくなったのも何時からだろう。
そう、それで暗闇を見ていた少年はあの後に扉を閉じて布団で寝たんだ。
この物語に何の意味があったのか問われれば、答える事は出来ない。
もう何も思い出せない。