中段『小鳥囀る、神秘の森の段』中編1
「……ふっ!」
鋭い音が一つ、響く。
薄らと目を開けると、化け物の右腕がなくなっていた。
一体、何が起きたんだ……?
「グオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!」
化け物は痛みなのか、怒りなのか分からぬ咆哮を上げている。
兎に角、今がチャンスな気がする。化け物が混乱している内に逃げよう……!
「動くな。そこで待っていてくれ。」
白い何かから声が聞こえた。どうやら人間様のようだ。少しトーンが高い。女性か?
立っていた私は痛みを堪えつつゆっくりと座ると、彼女は再び化け物の方へと向かっていった。
「グオオオオオオオオオオオ!!!!!」
彼女は、化け物の攻撃を忍者のように素早く避ける。
「こんな大物は久しぶりだっ!【氷線】!」
あれは何だ?
不思議なことに、彼女の掌から氷が出ている。
キラキラと輝く氷の塊が、次々と化け物に切り傷を作っていく。
彼女は、化け物の傷から噴き出す血を浴びているが、物ともせず斬り続けていった。
「グッ……グゥアアアアアアアアアア!!!!!」
「トドメだっ!!」
走り抜け、化け物の頭に飛び移る。
そしてーーー
「【凍結】!!」
一瞬にして氷が化け物の頭全体を覆った。
彼女も纏めて凍らないようにする為か、素早く飛び退いている。
「任務完了……っと、これは任務関係ないか。」
彼女はふぅ、と息を吐き、返り血の付いたボロボロのフードを被りなおす。
しかし、彼女の後ろには化け物が氷を壊そうとしているのか、もがいていた。
「ねえ、まだ化け物生きてるよ……?」
「嗚呼、大丈夫。その内窒息死するから」
さらっと物騒なことを言ってらっしゃる……。
「そんなことより、怪我とかある?治すけど。」
彼女は私に手を差し伸べてきた。
その手を取り立ち上がる。
おお、今度はふらつかずに立てた。
「ううん、大丈夫だよ。助けてくれてありがとう!」
「ん……。」
フードの影で見づらいが、さっきまで真顔だった顔が少しだけ柔らかくなっている気がする。
「ゴグオォォォォォ!!!!!」
「ひぇっ……!やっぱり生きてるんじゃ!?」
「断末魔みたいなもんだ。その豚人族はそろそろ死ぬ。」
そう言った途端、化け物は四方八方に爆散した。血が彼女の服を更に紅に染める。
「う…怖っ……。」
「ストーンはドロップしなかったか……。じゃ、僕はこれで」
そう言って彼女は踵を返す。
……って、このまま置いてかれたら、また今みたいな化け物に食べられちゃうのでは?
「ねえ、待って。私、今さっきこの世界に来たばかりで何も分からないんだ。安全な場所に連れてってほしい!」
彼女は目を見開いている…と思う。どんな顔をしているか分からないから、喋る時はフードを外してほしいところだ。
「この世界に来たばかり……か。もしかして、地球から来た?」
それなら心配いらないか、と呟き、フードを外す。
何が心配なんだろうと思ったが、深く訊いてしまうと日が暮れてしまうだろう。森は暗くなるのが早いし。
「うん。ミートソースだっけ?そこでコルリ様と話した」
「ミートゥ・コアな。いや何だよミートソースって。」
呆れたような表情をしているが、その反面嬉しそうにも見える。気のせいだろうか?
兎に角、彼女は“地球”も“ミートゥ・コア”も知っている。つまり、同じく地球から来たということだ。
「僕……いや、“私”も地球から来たんだ。」