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月桂妖花絵巻~Laurus nobilisMagic!~  作者: 奈冴あや
第一章
3/16

初段『水滴る、空虚な境界の段』前編

目が醒めると、左右も上も果てがない空間で“二足”で立っていた。足元を見ると、毛一つない滑らかな“脚”がスラリと伸びている。

腕を広げてみたら、これもまた艶やかな肌が姿を見せていた。


……嗚呼。

私、人間になったんだ。


不思議と、驚きや不安は感じない。まるで、人間の姿が当たり前かのようだ。


試しに一歩前へ進もうとする。

が、全身に違和感のような何かが伝い、フラフラと蹌踉めき尻をついた。それと同時に、水の跳ねる音が連なる。

まだこの身体に慣れていないのだろう。


肩を回してみる。うん、問題なく動く。

首を動かす。パキパキと音が鳴ったが、特に違和感はない。


それにしても………


ここはどこだ?


私はさっきまで神社の境内にいたはず。

…………神社。そうだ、ご主人様を探さないと。

頑張って立ち上がってみるも、生まれたての小鹿ように足が震えている。


「ご……ごしゅじんさまぁ……」


私はなんとか絞り出すような声をあげ……声?


「えっ!?

わたし……ごしゅじんさまと同じ言葉が喋れてる………!?」


確か“日本語”だったはず。

やった……!ご主人様と話せるようになったんだ!


「ご主人様!ご主人様ー!」


叫んでみるが、ご主人様どころか、誰からも返事は来ない。


「ご主人様あああーッッ!!!」


大きな声で叫んでも、音は木霊していないことから、この空間には本当に何もないと改めて感じさせられる。


するとーーー


「初めまして、葺草アヤメさん。」


どこからか、柔らかく透き通るような声が響く。

何故私の声は響かないのに、その声は木霊するのだろうかと疑問に思ったが、そんなことはどうでもいい。

この空間に人間様が居るということが確定した今、ご主人様がどこにいるのか訊くのが最優先だ。

しかし、一向に声の主の姿が見当たらない。

どこからそんな声が……と辺りを見渡していると、目の前に輝く霧が現れた。それは一箇所に集まり、人影が薄らと映る。


人影。つまり……


「ご主人様っ!!」


手足の違和感を振り切り、蹌踉めきながらも立ち上がって霧の方へと向かう。


「っ……!」


人影に触れようとした途端、霧が一瞬にして消え去った。


これでやっと、ご主人様に会えるーーー!


しかし、そこには見たことのない女性が立っていた。


「ご…しゅじん……さま………?」


「いいえ。っ……私は貴女のご主人様ではありませんよ。」


「……?……!ご主人様!!」


「だから……っ私はご主人様ではないですって……!」


「ご主人様ご主人様!うああああああ……!」


目から涙が溢れ出てくる。駄目だ、止まらない。


「ご主人様では……。むー……気が済むまで泣いていいですよ。辛かったでしょう。ほら、来てくださいな。」


あまりにまともに歩けないので、飛び込むように抱きついた。


女性はまるで母のように、私を優しく包み込む。


嗚呼……温かい…………。


「……そろそろ気が済みましたか?」


「…うん」


まだ声が震えているが、取り敢えずは落ち着いた。

それにしても、目の前の人がご主人様じゃないなら……一体誰なんだ?

首を傾げていると、


「そうでした。自己紹介をしていませんでしたね。」


彼女は数歩下がり、ぺこりとお辞儀をした。


「私は春と水を象徴とする神。コルリでございます。」


それはそれは、今まで見てきた森羅万象の中で一番美しかった。

絹糸の様にサラサラした水浅葱の髪は両サイドで緩く結えられており、宝石の様に澄んだ紺碧の瞳は私を優しく見つめ、透き通る様な雪白の肌はそれらを引き立てている。顔は整っており、隅々まで手入れがされていた。

匂いは……感じない。普通の女性ならほんのりと甘い香りがするーーーかなり偏見ではあるが、それらしい匂いが一切ないのだ。

それどころか、今も尚歩み寄っている彼女の足音さえまともに聞き取れていない。

彼女が神だからか?まあいいか。


……ちょっと待てよ。神がここに居るってことは………もしかして。


私、死んだ?


いやいやいや、そんなことはない……はず。

一先ずその仮説は置いておこう。

深呼吸、深呼吸。

そんなことより、ご主人様はどうなったのだろうか。死んでいないと良いのだが……。


「ねえ、ご主人様は生きてる?」


「はい。アヤメさんのご主人、“葺草五郎”さんでしたっけ。ちゃんと生きてますよ。」


ご主人様、逃げ切れたんだ!

良かった……!

もし死んじゃってたら、私も追いかけていくところだった。

ご主人様の無事も確認出来たし、今自分が置かれている状況を整理しなくては。

と言っても、神社の森の奥に行ったら、いつの間にかここに居ただけなんだが。

それにしてもーーー。


「……ここどこ?何でここに私がいるの?」


「ここは『ミートゥ・コア』と呼ばれている空間です。ミートゥ・コアとは、アヤメさん達がいた世界や、別世界との狭間の事です。」


別世界?

私が居た世界とはまた違う世界があるのか?

それは気になる。


「別世界については後程説明致しますね。

そして、アヤメさんは……神隠しに遭いました。」


「『かみかくし』?」


初めて聞く単語だ。

きっと、頭上に疑問符が浮かんでいるだろう。


「はい。神隠しとは、神の手によって、地球からその存在を切り離すことです。

神、つまり私がアヤメさんをここに呼び寄せました。」


「へぇー……うん、あんまり分かんない」


「でしょうね」


コルリ様はふふっ、と苦笑する。

取り敢えず、死んだとかじゃないんだね。良かった。


「じゃあ、何で私を呼び寄せたの?」


「そのことについてはまだ……いえ、やはりお伝えした方が良いでしょう。」


ふぅ…と一拍置き、


「アヤメさんを、五郎さんに会わせるためです。」


え……マジで?


「神!青龍様マジ神!!」


「ふふっ。神ですよ」


「そうだった!」


ふふふ……またご主人様に会えるなんて、嬉しすぎる!!

でも、さっきからご主人様の姿が見えない。


「ねえねえ、ここにはご主人様が居ないみたいだけど……。」


「はい。私がアヤメさんのご主人様を呼び出してアヤメさんに会わせるのではありません。

アヤメさんがこれから行く別世界ーー『ワールド・L』で10個の【奥義】を入手します。それらを使用し、アヤメさん自身の力でアヤメさんのご主人様と再会するのです。

ワールド・Lに行く為には、一旦アヤメさんをミートゥ・コア(ここ)に呼び出す必要がありますから。」


つまり、コルリ様がご主人様を連れてくるんじゃなくて、私が迎えに行く感じかな?

かなり回りくどいが、神が直接生き物達に手を加えてはいけないだとか、そんな事情があるのだろうか。

それにしても、【奥義】ってなんだ?

入手して自分の力で再会する……つまり、後天的に手に入れるものなのか。

だが……。


「うーん……【奥義】ってなに?どうやって手に入れるの?」


「それはですね……」


コルリ様の話はこうだ。

2週間に一度、19時に青龍様からミッションが送られる。ミッションは、敵を倒したり、探し物を見つけたり等、様々だ。

それらを2週間以内にクリアすると、【奥義】又は高難度のミッションがクリアし易くなる、魔法や唯一無二の装備品が与えられる。

【奥義】は選ばれた者にしか与えられない、超人的な能力のこと。に適性がある能力だから、実際に与えられてみないと分からないんだとか。

魔法が使えるようになると、『掌から炎を出す』等の攻撃手段を増やせる。

装備品は剣や防具、アクセサリー等のことを指す。身に付けると、防御が上がったり、特殊効果が付与されるとのこと。

しかし、ミッションで行き詰まったり、受けてから2週間以上経過してしまうと強制終了。失敗という扱いになり、ペナルティーとして3日間呪いがかかる。因みに、どんな呪いがあるのか訊いてみたが、はぐらかされてしまい、何も教えてくれなかった。


兎に角、犬の頭でも分かる簡単な仕様で助かった。


「大体分かった!」


「あ、良かった……。

(わたくし)、説明するのが苦手でして。理解されたようで安心しました。」


ほっと胸を撫で下ろす青龍様。


「以上で説明は終わりますが、他に質問はありますか?」


「ううん、今のところは特にないよー!」


「分かりました。それではアヤメさん、ワールド・Lに行きますか?」


そんなの、決まってる。

ご主人様にもう一度会う為ならーーー!


「行く!!」

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