中段『始まり告げる、太陽の国の段』中編1
「ふーっ、疲れたー。」
宿に着いた私達は、宿の二人部屋のベッドで寛いでいた。
「そうだな。」
「俺は今日だけで何回殺されかけたか……。」
今日は過去一忙しい日だった。昼にご主人様と神社に行って、神隠しに遭って、ワールド・Lに来て……。
ご主人様は今何をしてるのだろうか。
一生懸命に私を探しているのだろうか。
それとも、家で私を待ち続けているのだろうか。
答えは当然、分からない。
どっちにしろ、私はご主人様に再会する為に【奥義】を手に入れなければならないのだ。
「アヤメ、そろそろコルリからのミッションが来るんじゃないか?私がワールド・Lに来た時は、初日の夜にコルリからミッションが来たんだ。」
初日の夜、か。
部屋の壁に掛かっている時計の針が指しているのはーーー18時57分。ミッションが来るのは19時だとコルリ様が言っていたから、もう直ぐだ。
「こるり?こるりって何だ?食いもんか?」
一匹、話について行けてない物が。
それはそうか。キラスは会ったことがないっぽいし。
だが流石に食べ物ではない。
「食いもんと言うより、食う側だなアイツは」
「コルリ様って捕食するの!?」
焼くのか!?揚げるのか!?
「わぁ……ツッコミが追いつかん……。
アヤメ、絶対鵜呑みにしてんだろ」
「う…うの……?」
私が首を傾げると何故か、はぁ、とため息を吐いて疲れた表情をしたのはきっと気のせいだ。
「アイツは本当にやばいんだよ。私達“で”遊んでいる。」
「そんなことないもん!」
あの優しいコルリ様が?私達で遊んでいる?
そんな道徳心に反する様な事を、彼女はするのだろうか?
いいや、しない。絶対に有り得ない。
あんなに優しいし。
私にチャンスを与えてくれている。
遊んでいる訳がない。私はそう断言出来る。
……イライラしていても仕方がない。
そうだ、どんなミッションがあるんだろう。
あの優しいコルリ様なのだから、きっと最初は簡単にしてくれそうだ。
「そうだ。サヤ、ミッションって簡単だった?」
しかし、サヤは予想外の反応をした。苦い表情をし、唸っている。
ワールド・Lに来たばかりでミッションを全然クリアしていないからあまり分からないのか。
あるいはーーー難しすぎて言い出しづらいのか。
「……私が受けたミッションは、最初の頃は簡単だった。だが……」
嫌な予感がした。
「段々と難しくなっていく。今まで受けた中には、私一人じゃ手に負えない程難しいミッションまであった。」
豚人族や鳥女を余裕でボコボコにしていたサヤでさえも、苦戦するようなミッション。
つまり、【奥義】はそれだけの価値があるんだろう。
「私でもクリア出来ない時は、信頼出来る奴に手伝ってもらっている。だが、その為にはーーー」
「パーティを組む必要があります。」
鈴の様な透き通る声が耳元に響く。
「っ!?」
慌てて振り向くと、其処には水浅葱の絹糸の様な“何か”が。
途端。パリーンと、自分の居た空間がガラスの様に割れた。
そう、“割れた”のだ。
宿だった筈の場所は、一瞬にして左右も上も果てがない空間へと変貌していた。
ここはーーー。
つい数時間前に見た光景。
ミートゥ・コアだ。
「は!?えちょっと待て此処何処だ!?てか今の何!?」
「あ、あんたはっ……!!」
混乱するキラス、憎しみを込めた目で“何か”を睨むサヤ。
「どうもー。こんばんはー。」
「あっ!コルリ様だー!」
「さっきぶりです、アヤメさん。」
コルリ様はニコッと微笑む。
「ふふっ、サヤさん。私が得体の知れないものなのは重々承知しておりますが、そんなに怖がらなくても良いじゃないですか。」
サヤははぁ、と溜息を一つ。
「怖がってない。お前が気に入らないだけだ。」
眉間に皺を寄せ、心底嫌そうな表情をしている。
「あら、怖い怖い。」
言っている事と表情が合っていない。
全く怖がっていないどころか、微笑んでいるまである。
その行動が気に入らなかったのか、ただでさえ怖いサヤの顔が更に怖くなった。まるで化け物の様。
オーラがメラメラ燃え上がっていそうだ。
「な、なーなー、コイツがさっき言ってたこるり?なのか?」
……あれ?
キラスもミートゥ・コアに来てたのか。あまりにも影が薄過ぎて気付かなかった。
「キラス、お前いつの間にここに……?」
おっと、サヤも同じ事考えてらっしゃった。
「おいてめっ……!アヤメも『えっ、キラスも此処に来てたんだぁ』みたいな顔すんな泣くぞ!!」
しかもキラスにも筒抜けでした。そんなに分かりやすい顔をしていたのか、私。
「あら、この子アヤメさんの人形ですね?無事に見つかって良かったです。
初めまして、私はコルリですっ。」
優しく微笑みながら、ペコリとお辞儀した。
するとキラスの表情が突然、ピタッと固まった。
……分かったぞ。あれだな?綺麗な大人の女性と話すのに慣れてないんだな?
そんなまだまだ思春期の男の子なキラスくんは、やっとの事で唇を開く。
「っ…“無事に”ではないが……そこの白髪に殺されかけたし、ピンク髪に首絞められたし」
ははは、何の事か判らないよ。
何もない方向に目を泳がせていると。
その行為に、コルリ様は何かを察したよう。
気の毒に、と憐れんでいる。
「……そろそろ本題に入りましょう。アヤメさん、ミッションの連絡ですっ」
「待ってました!」
「ミッション内容はーーー」
ゴクリ、と唾を飲み込む音が重なる。
「神秘の森に住む『騒音蝙蝠』50体の討伐と彼らの嘴を10個収集することです」
「うっわ、面倒くさいやつだ…」
サヤはガクッと膝から落ちた。
まるで、苦虫を潰したかの様な表情を浮かべ、目が虚ろになっている。
そんなに嫌なミッションなのか。
憐れみの目でその背中をポンポンと叩くキラスがこれまたシュールな絵面になっていた。
「その…どの辺が面倒くさいの?」
「……騒音蝙蝠は素早く飛び回るから攻撃が当たりにくい。更に、放った超音波の振動で氷を破壊するから討伐しずらいんだ。」
私がやっと聞き取れるぐらいボソボソした声で呟いている。
「その通りです。ですが、アヤメさんには才能があると見込み、この様な少し難易度の高いミッションをお渡ししました。」
「このちんちくりんに?才能がある?」
おいキラス、後で覚えとけ。
満面の笑みでチョップをしたら「ふぎゃっ」と鳴いた。へっぽこ。
「では、このミッションを受けますか?」
不自然に反響するコルリ様の声。
不安げに見上げるサヤ。
不満そうに頭を押さえるキラス。
そして……
不思議な空間で唸る私。
サヤは難しいと言っていた。つまり、クリアするのは大変なのだろう。
でも、私はご主人様にもう一度会うと決めたんだ。
だから、逃げる訳にはいかないーーー!
「受けるっ!!」
ガックリ膝をついているサヤは、やっぱそうなるよな、と言わんばかりの溜息を吐いた。
「分かりました。頑張ってくださいっ!」
すると、私の掌から突然、一枚の紙が現れた。
端が所々破れて、少し黄ばんでいる。何十年も前に作られたかのようだ。
それを開いてみると、“日本語”で書かれた文字がずらっと並んでいた。読めない事もないが、面倒なのでパス。
「そこの空いてる欄にサインを記入してください。」
“アヤメ”と書くと、紙がジュワッと一瞬で消えた。
何の前触れもなく消えるから、なかなかに驚いた。まあ、慣れればそうでもなくなるか。
「本当に受けるんだな……」
そうです。本当に受けるんです。
「これで手続きは完了です。
討伐区域が神秘の森なので、神である私の干渉が可能です。何か緊急事態が起こった場合は手助けをしますので、安心してくださいっ。」
それはありがたい!
初っ端から躓かなくて済む……!
やっぱりコルリ様は優しい!
「では、行ってらっしゃいませ!どうかご無事で!」
そう言うと同時に、今度はミートゥ・コアがパリーンとガラスの様に割れた。
早速期限ぶっちしたと思ったら投稿日明日やんけ。わろた。
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