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44. 新しい大天使


 領主の執務室。

 つまりカイトの家に天使たちが集まっていた。


 同居しているリザも当然同席して、住民の代表はヘルムートが務めている。


「みんなに集まってもらったのは、ええと、何と言えば良いかな。その……」


 いつになく歯切れの悪いカイト。

 リザはそんな彼の思いを咄嗟に察したが、同じく口に出す事ができない。


 大切な家族が関わる事だからである。


「ふむ。ボクが代弁してあげるのだよ。カイトくん。つまり君は、こう言いたいのではないのかね? 天使を相手に想定したアルゴートの防衛計画を立てたいと。ボクたちに遠慮することはないのだよ。誰も気を悪くしたりしないのだからね。天使とは言え千差万別。色々な者がいるのだよ。……当然、君の家族もその辺りは理解していると思うのだがね?」


 カイトはユリスの言葉を聞いて、控えめにシエラの顔を見た。

 そこには、いつもと変わらない表情の家族がいる。


 だが、シエラの表情から感情を読み取るのは、一緒に暮らしているカイトやリザにも難しい。

 そこまで全てを把握した上で、シエラが口を開いた。


「……気遣いは無用。……私はカイトやリザの思いやりをちゃんと感じている。……素直に嬉しい。……私は感情表現が苦手。……申し訳ないと思う」


 カイトが慌てて「いや、謝るのは俺の方だよ!!」と立ち上がる。

 勢いよく立ったため、椅子が倒れてしまった。

 彼は重ねて「ごめん!」と謝った。


「俺、シエラに……。もちろん、ユリス様やネイアもだけど。天使のみんなに天使に対抗する作戦はあるかって、どうしても聞きたくなくて。だって、やっぱり同じ種族じゃないか。だけど、領主としてはこの考えが間違っている事も分かってるんだ……」

「カイト……」


 リザが倒れた椅子を起こして、彼の手を引く。

 「ありがとう」と言ってカイトは椅子に座り直した。


「カイト様ぁ! オレが代わりに言いますぜ! 天使様がた、どうかアルゴートを天使の襲撃から守る知恵を授けてくだせぇ! オレぁ、領主様の悲しい顔が見たくねぇんだ!! オレたち領民にできる事がありゃあ、何だってやりますぜ!!」

「ヘルムートさん……。すみません!」


 カイトは自分の頬をパンと叩いて、気合を入れ直す。

 今は危機に対する策を立てるのが肝要なのだと。


「天使の3人に聞きたいんだ。力の天使みたいな存在がまた攻め込んで来た時に、どうしておけば領民の安全が保たれるだろうか?」


 すぐに「はい!」と元気よく手を挙げたのはネイア。

 破壊を司る彼女が真っ先に提案をするのはその場の全員が不思議だったらしく、しばし沈黙が大気を汚染した。


「アルゴートの周りを毒の沼地で囲むってのはどうかしら!? あたしだったら絶対に近づきたくないわね!!」

「そ、そいつぁ困りますぜ、ネイア様! オレたちが先にくたばっちまう!!」


「えっ? そうなの? 人間ってホントに弱いわねぇ」

「す、すみません。アルゴートにゃ年寄りも多いし、なるべく安全な方向で頼めると助かるんでさぁ」


 少しの間の後、再び「はい!」と手が伸びる。

 回答者の名前は言うまでもないだろう。


「ユリスにずっと高出力の結界を張らせとくのは!? あたし、そんな面倒くさそうなとこには絶対近づかないわ!!」

「冗談じゃないのだよ。今張っている簡易結界ならまだしも、天使を弾くような出力の結界を張り続けるなんて、ボクにも創造できないものはあるのだよ」



「えーっ? 何か創る事しか取り柄のないユリスなのにー!?」

「ぐぬぬっ。本気で失望しているところが腹立たしいのだよ!!」



 その後も会議は続いた。

 リザが提案した「天使の誰かに門番をしてもらうのは!?」という意見が最も建設的だったが、ユリスはそもそも戦闘向きではないのでその任に当たる事ができない。


「あたしは絶対に嫌よ? 門番って、ずーっと同じとこにいなきゃならないんでしょ? 冗談じゃないわ! そんな退屈な仕事はパスでー!!」

「うーっ。いい考えだと思ったのにー! シエラちゃんはダメだよねー」


 リザの言葉にネイアが反応する。


「どうしてシエラだけ特別扱いするのよ! ずるい、ずるい!!」

「だって、シエラちゃんはカイトに使役されてるんだから! いつも一緒にいなくちゃだもん! カイトを守るのがシエラちゃんの役目だよ!」


「……リザ。……ありがとう。……結論から言うと、人間にできる対策は残念だけど無意味。……天使が相手になると労力の無駄としか言えない」

「ボクもシエラの意見に賛成なのだよ。例えば、オーガたちに門番を任せたとしよう。相手が人間や亜人種ならば、それで充分事足りるのだよ。だが、天使は存在の次元が違う。やはり、天使に対抗するには天使の力しかないのだよ。とは言え、適任者がいないのもまた事実。うむむ、困ったのだよ」


 再び沈黙が我が物顔で場に居座る。

 次に口を開いたのは、大天使様だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……大天使の力を借りると言う手がある」


 思いもよらぬシエラの提案に、カイトはすぐさま聞き返した。


「ちょ、ちょっと待って! シエラ以外にも大天使っているの!?」

「……肯定。……記憶がおぼろげで確実な数までは思い出せない。けれど、ここからそう遠くない場所に、かつて大天使がいた都市がある」


 ユリスが首をかしげて確認する。


「シエラ。君を疑うわけではないのだがね。記憶の大半を失っているのに、それは確かなのかね? 現状、アルゴートからシエラが離れるのであれば、確証に近いものがないとリスクの方が大きいと思うのだよ」


 シエラはハッキリとした口調で言う。


「……間違いない。……大天使の気配はハッキリと感じ取れている。……だけど、懸案事項がある。……まず、天使は基本的に人間とは干渉したがらない。……相手が大天使になると、私の言う事も聞かないかもしれない。……カイト次第で結果が変わる」


 確かに、ユリスを目覚めさせた時も、ネイアの時も、カイトの傍には天使がいた。

 するとカイトには別の疑問が湧いてくる。


「それじゃあ、どうしてシエラは俺に初対面で協力してくれたんだい?」


 シエラは少しだけ柔らかい表情をして、端的に答えた。


「……面白そうだと思ったのが2割」

「残りの8割は?」


「……カイトが私を目覚めさせてくれたから。……暗い闇の中は退屈だった。……カイトは恩人。……だから、私はカイトの言う事を聞きたい」

「そっか。……ありがとう、シエラ」


 カイト・フェルバッハの指針は定まった。


 領民を、エルフやオーガ、天使たち。

 そしてリザとシエラ。大切な家族。


 それらを守れるのならば、できる事はなんだってやってみせる。

 カイトは早速旅支度を整えるのであった。



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― 新着の感想 ―
[一言] どの作品も中途半端で終わり 書く気無くなったなら1章で終わらせれば良かったのに 書籍化作者とは思えない投げやり感
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