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35. 伝えられていくもの



 カイトたち3人がアルゴートに帰還した。

 オーガの兵士30人を率いて。

 責任者としてカガリも同行していた。


 ヘルムートたちがカイトを出迎え、体力回復を図る。

 アルゴートの領民にとっては見慣れた風景であり、「今日もうちの領主様は弱々しいのに頑張ってくれてるな!」と目を細めている。


「……ああ。もう大丈夫。ありがとう、みんな」

「カイト、すごいよ! 最近は瀕死の状態から回復するまでの時間が短くなってる! 成長してるんだねぇ! えらい、えらい!!」


 遠征の度に瀕死になるのが問題なのだが、その点には誰も触れない。

 彼らは領主に恵まれたが、カイトも領民に恵まれていた。


「こちらはオーガ族の皆さん。今日からアルゴートに住んで、主に警備を担当してもらうことになった。隊長はこの角が立派なリキドさん。豪快だけど気持ちのいい人たちだから、みんな仲良くして、困っていたら率先してお手伝いしてあげてください」


 オーガたちはアルゴートに戸惑いながらも興味津々であった。

 人とエルフが共存している。

 建物や施設も見た事がないものばかりである。


「カイト殿。到着して早々にこんな事を言うのは恥ずかしいのだが。……街を見学したい!!」

「もちろんどうぞ! これから住んで頂くわけですから! ヘルムートさん、リキドさんたちをご案内してもらえます?」


「承知しやした! オーガの旦那方、こちらでさぁ! まずは腹ごしらえといきましょうや! エルフの料理は絶品ですぜ!」

「おお! 感謝する、カイト殿! お前ら、行くぞ! あまりはしゃぐなよ!」


「リキドさんがウッキウキじゃないか」

「どの口が言うんだか。しかし、美しい都市だ」


 オーガ一行はアルゴート見物へと出発した。

 カイトも自分の家に戻り、溜まっている仕事をこなす。

 リザも「手伝うよっ!」と言って、カイトと一緒に居住区へと去って行った。


「じゃあ、私は帰りますね。みんなを見届けましたし」


 そう言ってお辞儀するカガリを、ネイアが引き留めた。


「そんなに急がなくてもいいじゃない。あたしが案内してあげるわよ、アルゴート。気になってるんでしょ?」

「い、いいのですか!? はい! 幼い頃に見た廃墟同然だった土地が、まさかこんなに発展しているなんて思わなくって!!」


 ネイアは「ふふんっ!」と笑って、カガリの手を引く。

 「その発展の8割はあたしの力なのよね!」と言いながら、破壊の天使の観光案内が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ええーっ!? 開拓を始めてまだ半年なんですか!?」

「らしいわよ。あたしが来たのは1カ月半くらい前だけど。……あっ。あれよ? 1カ月半で急速に発展したの!」


 破壊の天使に嘘をつかせるのは難しい。

 だが、相手がカガリだと難易度はグッと下がる。


 彼女は目をキラキラさせて「さすがです!!」と尊敬のまなざしをネイアに向けた。

 カガリにとって、アルゴートの施設は初めて見るものが多い。


 噴水や整備された用水路すら、休火山に住む彼女にとってはアトラクション。

 澄んだ水の上を流れていく木の葉を眺めているだけで、30分は時間が潰せる。


「……おや。帰っていたのかね。てっきりどこかに遊びに出掛けているのかと思ったのだよ」

「あら、ユリスじゃない。暇そうね」


「暇なものか。これからカイトくんと一緒にオーガたちの住居を創るのだよ。君こそ、実に暇そうではないかね。……と、失礼。お客も一緒だったのか」

「カガリ。一応紹介しとくわね。これは創造の天使のユリス。ユリスにも紹介しとくわ。この子はカガリ。あたしの弟子!」


「で、弟子……! 光栄です!! あっ、ユリス様ですね。はじめまして」


 カガリは深々と頭を下げた。

 まさかこの短期間に何人もの天使と出会うことになろうとは。


「ネイアの随行者にしておくのはもったいない礼儀正しさではないかね。ボクはユリス。オーガのお嬢さん、よろしく頼むのだよ。その角、実に素晴らしい。生まれつきかね? 美しい曲線が芸術的だ。インテリジェンスを感じる」

「あ、ありがとうございます! 私も創造の天使様の事は知っています!」


 ユリスは少しだけ驚いた顔をする。

 彼女はこれまで、オーガ族と関わった事がない。


 そこで論理的に考えた。

 「ボクの有能さはオーガたちにも伝わっているのだな」と。



「かつて破壊の天使様が遺してくださった文献によると、創造の天使様は根暗で性格が悪くて、胸が大きい事くらいしか取り柄のないダメ天使だとか!」

「……分かった。だいたい全部分かったのだよ。ネイア」



 ユリスの手が伸びたかと思うと、次の瞬間にはネイアの耳が引っ張られる。

 戦闘能力はネイアの方がはるかに優れているはずなのに。


「いたっ! 痛い、痛いじゃない! ちょ、そんなマジで怒らなくてもよくない? ほら、ちょっとした茶目っ気よ! あたしだって、まさか文献になって残ってるとは……」

「話はあっちでゆっくり聞かせてもらうのだよ。なに、ちょうど良い事に、新しい薬の実験者が欲しかったところだ。喉は乾いているだろう?」


「ふぎゃぁぁぁぁぁぁっ!! ごめんってばぁ! ちょ、許して! ユリスー!!」

「ボクは別に怒っていないのだよ。ふふふっ」


 ユリスがネイアを引きずって去って行ったのと同じタイミングでカイトがやって来た。


「ああ、カガリさん。すみません、ユリス様見かけませんでした? あの、何と言うかスタイルが良くて、学者みたいな喋り方をする天使なんですけど」

「ええと、たった今、ネイア様を引っ張って行かれました……」


 カイトはおおよその事情を把握した。

 なにがどうなったのかは分からないが、ユリスがネイアに対して教育的指導をするのだろう。


 終着駅さえ分かれば、この場合そこに至る過程は軽視しても良い。

 「仕方がない。出直すか」とカイトは来た道を引き返す。

 彼は去り際、カガリに声をかけた。


「そこの道をもう少し行くと、露天風呂がありますから、良かったら浸かってみてください。足湯もあるので。薬湯で疲れが取れますよ! では、俺は失礼します!」

「あ、はーい。お仕事頑張ってくださいね!」


 カガリはやる事もないので、カイトの勧めに従ってみることにした。

 露天風呂は賑わっており、足湯場にはエルフの女性たちが温浴を楽しんでいた。


 カガリは「失礼します」と頭を下げて、恐る恐る人生はじめての足湯に挑戦する。


「ほわぁぁぁっ! 気持ちいい……!」


 思わず口をついて出た心の声に、少し恥ずかしそうにするカガリ。

 その後、エルフの女性たちと世間話をして、天使たちもこの露天風呂によく入るらしいと聞いたカガリは、里に帰ったら絶対に足湯場を作ろうと決意したと言う。




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