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33. オーガとの交渉



 カガリは何をするにも慎重を重視する。

 これはカイトも同じような性質を持っており、領地や里の長となる者には自然と身に付く素養なのかもしれない。


「人間の男と、人間の女が1人ずつ! あと、こいつがとんでもねぇんです! 見るからに戦えそうな女が1人!! 敵意はないと言ってますが、どこまで本当やら」

「分かった。私が応対する。ただ、警戒はしないとだね。20人ほど集まって、物陰に隠れておいて! いざとなったら迷わず攻撃! そう考えると、得物は槍がいいかな」


 オーガの歴史は戦いの歴史。

 カガリの両親も里のために遠方まで出かけた際、帝国軍によって殺害されていた。


 オーガだって人を殺す事はある。

 だから、カガリは別に人間を恨んではいなかった。

 だが、逆説的に好んでいると言う訳でもない。


「だけど、人間がどうしてストラゴリ休火山の場所を知ってるのかな? もう何年も人間との交流はないのに」

「それも分かりません。すみません、カガリ様。ワシらお役に立てなくて」


 カガリは「そんなことないよ!」と笑って見せる。


「おじさんたちが毎日元気だから、私たちの世代がしっかり成長できたんだよ! これから年を取って、どんどん私たちに迷惑かけてくれなくちゃ!」

「カガリ様……!」


 見張り番は壮年のオーガたちが持ち回りでこなしている。

 前述の通り、この数年は来客などないため、年を取って戦闘能力の衰えた者がその任にあっているのだ。


「よしっ! 行って来るね!」


 カガリは気合を入れて、客人の待つ里の入口へと歩き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あっ! もしかして、あなたが族長代理の方ですか!? 突然押しかけてしまってすみません!」

「は、はぁ……はぁ……。俺はアルゴーごふぅ! し、失礼しました。アルゴートの……ああ……」


 警戒態勢でやって来たカガリは拍子抜けした。

 お客は礼儀正しい女の冒険者と、今にも倒れそうな人間の男だった。


「もぉ! カイトは黙ってて! あんまり喋るとまた倒れちゃうでしょ!」

「えっと……あはは……。辛そうですし、とりあえず里の中にどうぞ」


 カイトの貧弱さが役に立った瞬間である。


 人が弱った小動物を見ると救いの手を差し伸べたくなるのと同じで、オーガ族のカガリにとって今のカイトは助けてあげないとすぐに死んでしまいそうな存在。

 心根の優しい彼女は、迷わず助ける道を選んだ。


 里の東の端には寄合所があり、そこは普段はオーガたちが酒を飲みながら雑談をするスペースだった。

 とりあえずカイトを横にならせて、リザは持参した回復薬を彼に飲ませる。


「それで、どういったご用ですか? お連れの人、ものすごく辛そうですけど。そうまでして私たちの里に来た理由を知りたいです」

「あ、えっと、わたしたちアルゴートから来たんです! ご存じですか?」


 カガリは人間の都市について詳しい訳ではないが、アルゴートは知っていた。

 昔は交流があったドワーフ族の里に向かう途中にある、荒れ果てた土地だと彼女は確認する。


「あ、そうです! でも、今は見違えるほど綺麗になってるんですよ! それで、そのアルゴートの領主がこの人! カイトです!」

「どうも、すみません。横になったままで失礼します。カイト・フェルバッハと申します。アルゴートの領主をしております」



 カイトは威厳も何もない、ただの虚弱体質持ちの男にしか見えなかったと言う。



 と、ここでネイアが口を開いた。


「んがー! もう良いでしょ!? あたし、これ以上黙ってるのは限界だわ!」

「ええー……。ネイア、堪え性なさ過ぎだよぉ……」


 ネイアは羽を広げて、上空へ舞い上がりストラゴリ休火山の周りを旋回する。


「あの、あちらの人は? と言うか、人ではないですよね?」

「ええ。あれは天使です。俺の領地開拓を手伝ってもらっています」


 ネイアが急降下して来て、美しい着地を決めたのち名乗る。


「そう! あたしこそ、破壊の天使! その名もネイアさん!! この辺り、昔と全然変わってないわねぇー。暑くてむさ苦しくて、だがそれが良い!!」


 物陰に潜んでいた者の中で、年配のオーガ数人が驚いて立ち上がる。


「ね、ネイア様とおっしゃったか!? オーガの歴史書に残っておる、あの破壊の天使様か!?」

「おお! そう言われると絵に描かれている天使様に似ておられる!!」


「その方は間違いなく、破壊の天使様じゃろうて」

「おじいちゃん! 寝てなくて良いの!?」


 族長のゴッスは高齢の上、持病の腰痛を拗らせてこの1ヶ月ほどまともに動けなかった。

 だが、彼の持つ知識を里の者たちに伝えるのは今。


「ネイア様、ワシの先代の族長から聞いております。あなた様が休火山に巣食うドラゴンを退治して下さった事を。数百年前のことでしょうか。我らはまだ、ご恩を忘れてはおりませぬ。うぐっ、腰が……!! 失礼……」


 ゴッスも横になった。

 アルゴートとオーガの隠れ里の長が、2人そろって要介護者に。


「カガリ。まずはお三方を歓迎するのじゃ。ワシらはネイア様に受けた恩をまったく返せていない。その機会が訪れただけでも僥倖であるぞ」

「分かりました! みんな、聞いてたでしょ!? 宴の準備よ!!」


 ネイアのおかげで実にスムーズな形のファーストコンタクトを果たしたカイト。

 30分ほど横になっていたら体力も回復したので、宴の席へと招かれる事となった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「別に、そんなにかしこまらなくていいわよ。あたし、強いドラゴンがいるって聞いて、暇潰しで倒しただけなのよ?」

「ネイア……。そんな馬鹿正直に言わなくても良いじゃないか……」


 交渉材料が自分から価値を下げていく。


 だが、宴の会場には料理と酒がたんまりと用意されており、好意的な歓迎ムードである事は変わらない。


「それでは、今はカイト殿がネイア様を使役しておるのじゃな?」


 ゴッスも腰痛を堪えながら宴に参加。

 この2人の長には「なんか体が弱い」と言う共通項があり、それはシンパシーを生み出していた。


「いえいえ。使役なんてとんでもない! ネイアが力を貸してくれているだけですよ! 俺がお願いしてるんです!」

「ふふーんっ! カイトがネイアさんにどうしてもって言うから、仕方なくアルゴートに居着いてあげてるのよ!」


 その状態を使役と呼ぶのではないかとオーガたちは息をのんだ。


「して、ご用件を聞きそびれておりましたな」

「そうでした。不躾なのですが、お願い事があって参りました」


 交渉になればカイトの出番。

 上手くオーガと同盟関係を築けるだろうか。




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