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28. アルゴートの用心棒



 カイトは現在、ルズベリーラの道中にあった。

 出発してから現在3日目。


 途中で2度死にそうになったが、今回はエルフの料理人数人が同行してくれているため、滋養強壮を考えた食事と回復薬でどうにか彼は歩いている。

 もう半日も歩けば到着する予定である。


 気がかりなのは、アデルナが手紙でカイトを呼び寄せた事だった。

 彼女の性格を考えると、何か用があればアデルナがアルゴートまでやって来るだろう。

 かつては実際にそうしたのだから、カイトの疑問はさらに深まる。


 何かのっぴきならない事情があるのは確かであり、念のために今回はシエラとネイアを連れて来た。

 帝国軍の襲撃からほとんど日が経っていないためアルゴートから主戦力の2人を連れ出すのにはカイトもかなり悩んだが、リザとユリスが「大丈夫」と言って、ヘルムートたち守衛隊も「オレらに任せてくだせぇ!」と胸を叩いて、領主の背中を押した。


 そのため、今回の旅は早足で進んでいる。

 通常であれば4日かかる道程を3日で踏破したカイト。


 ならば、道中死にかけるのも頷ける。

 体力に不安のある領主様は頑張っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「お待ちしておりました、カイト様! お呼び立てしてしまい申し訳ございません」


 アデルナが正装で出迎えてくれた。

 王女様に待ちぼうけを食わせてしまったと気付いたカイトはまず頭を下げる。


「こちらこそ! すみません、アデルナさんをお待たせして! そのご様子ですと、ずっと待っていてくださったんですよね!?」

「ふふっ。カイト様の事を思っておりましたので、退屈ではありませんでしたよ?」


「これは……。参ったなぁ」

「……リザを連れて来なかったのは正解。……カイトはちょいちょい女心の地雷を踏む。……主がモテるのは嬉しい。……けど、無自覚なのはちょっと問題」


 ぶつぶつとカイトに対する苦言を呈していたシエラにもアデルナは頭を下げた。


「シエラ様も、よくおいでくださいました。城の中にお食事を用意しております」

「……じゅるり。……カイト、私はすぐに城の安全を確かめて来る。……これは緊急事態。……先に行く」


 大天使が食い倒れ天使になるために、凄まじいスピードで飛び去って行った。


「なんか賑やかだけど、破壊するものはあんまりないところね」

「カイト様? こちらの御方は?」


「ネイアと言います。安心してください、アルゴートの用心棒みたいなものです」

「まあ! では、とてもお強いのですね!」


 ネイアは「あら、見る目あるじゃない」と満足げに笑う。

 さすがは王女だとカイトは頷く。

 たった一言でネイアの心を掴むとは、アデルナも相当なやり手である。


「早速ですが、何事ですか!? 俺がお役に立てるといいのですが」

「まずはお城へお越しください。詳しいお話はそちらで」


 カイトは「分かりました」と応じる。

 「あたしはその辺を見て来るわね!」と言ったネイアに破壊行為の禁止を厳重に申し付けてから、彼はアデルナと共に城へ向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まずはエルフの国王であるザムエルに挨拶をするのが筋であり、領主としての務め。


「お久しぶりでございます、ザムエル様」

「うむ! カイトも壮健なようでなにより! 今回の1件はアデルナに任せておるゆえ、余は大天使と酒でも飲んでおる。ゆるりとして参れ」


 体調もすっかり良くなったザムエルを見て、まずはホッと一息。

 それからアデルナに案内されて会議室へとカイトは異動した。


「まずはこれをご覧ください。この辺りの地図です。エルフの文字で書かれているので読めないと思いますが」

「ああ、いえ。地図なら俺も頭の中に入っているので、文字が分からずとも大丈夫ですよ」


 アデルナは「さすがです、カイト様」と微笑んで、地図に紅い筆で丸をつけた。


「ここがルズベリーラです」

「なるほど。こういう言い方は適切ではないかもしれませんが、エルフが隠れるにはもってこいの立地なんですね」


 ルズベリーラの周りはぐるりと森で囲まれており、その周りは渓谷も複数あり訪れる者を阻んでいた。


「実は、最近ルズベリーラ周辺で人の目撃情報が多発しているのです。もちろん、時には人が迷い込んで来ることはありますが。今回は、その、何て言うか、一般の人ではないようなのです。皆さま同じような恰好をされていて」


 カイトはアデルナが自分を呼んだ理由を察した。


「目撃場所を教えて頂けますか?」

「はい。丸をつけますね」


 ルズベリーラの北西と南東の2ヶ所に赤い印が付いた。

 カイトの懸案は当たっていた。


 どちらにも、数十キロ先まで線を伸ばすと帝国軍の駐屯基地がある。

 どう考えてもそこが発生源だろう。


「実はですね、アルゴートでも先日——」


 カイトは帝国軍から襲撃を受けた旨をアデルナに伝えた。

 彼女は「まあ! そちらでもですか!?」と驚いた様子を見せる。


「やはりお呼びして正解でした。実は、アルゴートに派遣している料理人たちが申すのです。近頃人間に狙われる事がある、と。ですから、お父様とも話し合って、同盟としてできる事はないかと考えたのです」


 アデルナは「協力しましょう!」と言った。

 カイトも異存はないため、すぐに実務的な話に移る。


「では、ルズベリーラに緊急を要する事態が起きれば早馬を出してください。シエラかネイアのどちらかを速やかに派遣します」

「とても心強いです! 私たちからは、今後しばらく料理人だけではなく、エルフの戦士たちをアルゴートに派遣したいと思います」


「そこまでして頂くわけには! ルズベリーラの守りもあるでしょう!?」

「お父様が言っておられました。同盟を結んだ相手は家族も同じだと。私もそう思っております。いいえ! それ以上に思っております! お父様を救って下さったカイト様は、今でも私の英雄なのですから!!」


 それから何度か押し問答をしたが、結局カイトが折れた。

 アデルナは義理堅く、彼女を翻意させるのは難しかったのはもちろんだが、なによりその心遣いが彼にとっては嬉しかったのだ。


 それに、エルフの戦士は屈強だとユリスがかつて語っていた。

 きな臭い空気が漂っている現状、領地を守る手段はいくつあっても困る事はない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 宴席の場にカイトとアデルナがやって来ると、シエラとネイアは既に楽しんでいた。


「……カイト。……遅い。……でも良かった。……まだ料理はたくさんある」

「くぅーっ! エルフのワインって美味しいわね! おじさん、おかわりよろしく!!」



「ちょ、ネイア! その人はエルフの王様だよ!? も、もも、申し訳ありません、ザムエル様!!」

「良い、良い! おじさんと呼ばれるのも新鮮である! ささ、ネイア殿。いくらでも飲まれよ!」



 すっかり打ち解けている2人を見て、「この様子ならば有事の際も安心かな」と考えるカイトは、アデルナにワインを勧められてしばらく歓談した。


 夜も更けて来た時分。

 満足そうにお腹を膨らませたシエラにカイトは聞いてみた。


「シエラ。聞きたいんだけどさ。エルフの国も守ってもらう事ってできる?」


 シエラは表情を変えずに即答した。


「……無論。……カイトが望むのなら。……私にできない事はない」

「そっか。頼もしいな」


 不穏な気配を感じて気疲れしていたのか、シエラの力強い言葉を聞いたカイトは更に考える。

 常に思考を働かせる事が彼の長所であった。




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