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24. アルフォンスの野望



 ドンディナを発ったカイトたち。

 行きに日が昇って沈むまでの時間を要した道中だったが、帰りはその3分の1の時間で済んだ。


 ネイアがカイトを運んだからである。


 シエラとユリスは「できるだけカイトに負担がかからないように」彼を運んだが、ネイアは「速く着く方がいいでしょ!」と言って、カイトの入った籠を持つなり高速で飛行を始めた。

 その速度は凄まじく、カイトは思わぬ恐怖体験をする事になった。


 彼は「次からは絶対に自分の足で歩こう」と、何度目になるか分からない筋力トレーニングを誓ったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すごいじゃない! アルゴート!! こんな街、見た事がないわ!!」

「は、はひぃ……。気に入って……頂けて……嬉しいです……。ネイア様……」


「あたしの事はネイアで良いわよ! ユリスと違って気さくな天使が売りだから! ちょっとぐるっと一周して来る!!」

「ご、ごゆっくり……」


 もはや遠出をすると半分以上の確率で死にそうになるカイト。

 今回の遠征でその確率がさらにアップした。


 門の前でアンデッドみたいにうな垂れていると、リザが駆け寄って来た。

 その手には傷薬に回復薬。軽食と飲み物。

 こうなる事を予見していたかのような準備に、シエラとユリスも「……さすがリザ」「うむ。さすだなのだよ」と感嘆の息を漏らした。


「だからわたしも行くって言ったのに! ほら、カイト! ゆっくり飲んで! エルフ秘伝の回復薬だって!」

「あ、ありがとう。リザ。まるで俺のお母さんみたいだ」



「そこは恋人って言ってよぉー! もぉ!!」

「ごふっ!? げっほげほ……。ゆっくり飲んでるところに酷いじゃないか……」



 カイトが回復薬でむせてさらに体力を削っていると、ネイアが戻って来た。

 彼女はにんまりと笑って、まず確認をした。


「すごいわね! あの建物とか、そっちの施設とか! ユリスが創ったヤツでしょ!? ねぇ、いくつ壊して良いの!?」

「いや、1つも壊しちゃダメだよ」


 どうにか会話ができるレベルの回復を果たしたカイトは、領主らしく相手が天使でもダメな事はハッキリ「ノー」と言う。


「ええーっ!? なんでよぉ! ユリスの創ったもの壊すのって楽しいのよ! 特別にカイトにも見せてあげるから! いいでしょ!?」

「ダメ。ネイアを呼んだのはアルゴートを滅ぼすためじゃないからね?」


 ユリスが頭を抱える。

 リザが彼女にも回復薬を勧めると「すまないのだよ」とそれを一気に飲み干してから言った。


「ネイアは昔から、ボクの創造するものを壊して回るのだよ。もう、意味が分からないから途中から止めるのを諦めたのは忌まわしい思い出だ。だが、今はカイトくんの言うように、破壊されては困るのだよ。どの施設にも、人間たちが生きていく上で大切な役割があるのだからね」


「ふぅーん。あのユリスが随分と人間に寄り添ってるじゃない。そこまで言うなら、まあ見逃してあげる!」

「感謝すれば良いのかね? ああ、ボクは疲れた。ネイアの家を創ったらしばらく寝るから、起こさないでくれたまえよ」


 そう言うと、ユリスは自分の家の方角へと飛んで行った。

 あれだけ「嫌いだ」と公言しているのに、しっかりと衣食住の世話をするらしい。

 仲が良いのか悪いのか分からなくなるカイトであった。


「カイト! それじゃあモンスターがいるところを教えなさいよ! 適当に破壊してくるから! 強いヤツがいいわね!」

「それなら、あっちの方に見える丘が良いと思う。何とかって言う、羽の生えたライオンがいるよ。きっと強いんじゃないかな」


「なにそれ! 面白そう! やっぱ久しぶりだとモンスターの種類も増えてるわねー! じゃあ行って来る! 晩ごはんまでには戻るから!!」


 そう言うと、ネイアは飛び去る。

 彼女の姿はすぐに見えなくなった。


「また、強烈な天使様が増えたね、カイト。でもでも、どうして近くの森とか山を教えてあげないの? そっちの方が近いのに!」

「あそこにはシャイオットが生えてるじゃないか。まかり間違って破壊されたら、大損失だよ」


 気苦労の絶えない領主様の顔に戻ったカイト。

 だが、これで領民の安全と安心をより強固なものにする事は叶った。


 なによりも大事な問題の解決に、彼はひとまず満足そうだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらはヘルメブルク。

 フェルバッハ家では、今日も愚か者たちが悪い事を企んでいた。


「今日のワインは格別に美味いな! ふはははっ! おい、次は帝国暦728年の白ワインを持って来い! クレオも飲め! 貴様の働きも素晴らしかった!」

「はい! では、頂きます! ふふっ、仕事の後の一杯と言うものの良さを僕も理解できるようになってきましたよ」


「こいつ、抜かしおるわ!」

「はははっ!」


 上機嫌なアルフォンス。

 クレオも一仕事終えて満足そうな表情でぶ厚いステーキにかぶりつく。


「まさか、あれほど簡単に大臣を丸め込めるとはな! やはり私の名前、アルフォンス・フェルバッハが効いたか! ふーっはは!!」

「貴族の方々も有力者が何人も賛同してくださいました! 皆様、皇帝陛下に恩を売りたくて仕方のないご様子でしたからね!」


 彼らが着手していた「アルゴートを帝国の敵と貶める」作戦は、忌まわしい事に順調な成果を挙げていた。


 まず、皇帝に近い貴族たちの一部を言葉巧みに扇動して、「アルゴートと言うとんでもない土地がある」と認めさせた。

 これが非常に大きい。


 帝国は専制君主制。

 つまり、皇帝が「あそこは余の敵である」と言えば、その通りになる。


 その皇帝が「臣の意見」として聞き入れるのが貴族たちの考え。

 本来ならば、貴族は多くの民の言葉を受け、民の代弁者としてあるべきなのだが、今の帝国の貴族は腐敗していた。


 皇帝が70歳近い高齢であることから、次期王朝の権力争いレースでいかに先陣を切れるか。

 その1点が帝国貴族の唯一関心のある事柄であり、全てでもある。


 そこに降って湧いた「危険な土地であるアルゴート」の知らせ。

 朝敵の出現は何よりも喜ばしい。

 敵がいなければ功を立てることも敵わないのだから、それがどんなに信憑性が怪しかろうと話に乗る貴族は多かった。


 既に一部の過激派の貴族では、皇帝に対してアルゴート征伐を申し出ているとの噂を聞いたアルフォンスはこの上なく喜んだ。


「もはやアルゴートの味方をする者など、貴族の間では1人もおるまい! ならば、いつ皇帝陛下の命が下るとも知れん! ふっ、ははっ! カイトが自らの無能に気付き、あるべき使命を思い出すのもすぐの事よ!」


「ええ、父上! 兄上の力……いえ、大天使の力を得たフェルバッハ家はもはや敵なし! ゆくゆくは父上が帝国宰相の地位に就かれる事だって夢ではありません!」


「帝国宰相か……! 悪くない! 悪くないぞ!! さあ、クレオ! 飲め! 今宵は朝までフェルバッハ家の輝かしい未来について語り明かそうぞ!!」

「はい、父上! このクレオ・フェルバッハ、父上にどこまでもお供いたします!!」


 カイトがアルゴートの防御を固めたのと時を同じくして、アルフォンスたちの企みも準備が整いつつあった。

 世の中は実に不合理にできていると語らざるを得ない。




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― 新着の感想 ―
[一言]  こいつら、そこまで大天使を評価しているなら、なぜそれに勝てると思っているのか。  そして、一度国として敵対してしまったら、後は滅ぶのみかな。  続きが楽しみです。  
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