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22. 破壊の天使・ネイア



 ユリスが紹介しようと言う相手は、天使であった。

 当然と言えば当然である。


 彼女はつい数か月前まで封印されていた身の上であり、しかもアルゴートに引きこもりがちなため、《目覚まし》で起きてから他者と関係を築くとは考えにくい。


「ほわぁー! じゃあ、またアルゴートに天使様が増えるんだ!!」

「助かるなぁ。その天使はユリス様より強いんですか?」


 ユリスは「トータルバランスで言えばボクの圧勝だよ」と前置きしてから言った。


「正直、会いたくはないし話もしたくないのだが、強さだけは太鼓判を押せるのだよ。残念ながら。言っておくけど、ボクの方が天使としての魅力は高いのだよ? ネイアのヤツは気が強くて感情論で喋るから会話が成り立たないし。ああ、それから胸だってボクの方が大きい。ネイアは実に貧相な胸部をしている」


 早口でこれから紹介される天使の悪口を並べ立てるユリス。

 それだけで両者の確執の深刻さは感じ取るに余りあった。


「ええと、ユリス様は良いんですか? その、ネイア? 様をアルゴートに呼んで。あれ!? もしかして、ユリス様が出て行ったりしませんよね!? 困りますよ! もうあなたはこの地に欠かせない存在なんですから!!」


「……カイトくんは実に見どころのある、才能に満ちた若者なのだよ。まあ、我慢するさ。ボクは基本的に関わらないようにするつもりだ。何より、領主様の暗い顔は見ていられないのだよ」


 こうして、ネイアと言う名の天使を例によって起こすため、カイトは遠征に出る事となった。

 今回は随伴者としてネイアの眠る都市・ドンディナの場所を知っているユリスと、「絶対に直接交渉したくない」と言って聞かない創造の天使様に代わってネゴシエーター役にシエラが選ばれた。


 リザは「わたしも行きたい! カイト、わたしも!!」と言って最後まで粘っていたが、カイトに「留守を任せられるのはリザしかいないんだよ」と説得されて、涙を呑んで彼らを見送った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ドンディナはアルゴートから歩いて13日ほどかかる。

 カイトの体力では、道中に4度遭難し、2度ほど命を落としかけ、辿り着く寸前で力尽きる。


 シエラとユリスの共通見解として導き出された答えは、カイト以外の誰が聞いても「確かにその通り」と頷くこと請け合いだった。

 ならば、どうするのか。


「まさか、まさかなのだよ。人間を抱えて飛ぶ日が来ようとは。長生きはするものだね、まったく」

「……ユリス。……そろそろ交代の時間。……籠を受け取る」



 カイトは籠に収納され、シエラとユリスによって空輸されていた。



「あの、ごめんね? さすがに俺もこれはどうかと思うけど、これが手っ取り早いって言われるともう、俺が口出しするのもおこがましいしさ」


 コウノトリに運ばれて来る赤ん坊だろうか。

 カイトは籠の中で申し訳なさそうに頭を下げた。


「……仕方ない。……カイトの体力は極めて低い。……万が一どころではなく、十中八九命の危険がある行為は見過ごせない。……カイトは私の主」

「ボクはカイトくんに使役された覚えはないのだがね」


 2人の天使の翼であれば、1日もかからずにドンディナへ到着するらしい。

 だが、その間の微妙な空気感は言い知れぬものがあった。


 あまりの気まずさにカイトは強引に話題を変えようと試みる。


「ユリス様とネイア様ってどうしてそんなに仲が悪いんですか?」


 地雷を踏んだようだった。


「聞いてくれるかね! まず、ネイアは時間を守らない。あちらから用があると言って呼び出されて2日間も待ちぼうけを食った事がある! それに、何でもかんでも力で解決しようとする! ボクたちは天使だ! 創造と慈愛を旨として生きるべきではないかね!?」


「あ、だいたい分かりました。すみませんでした」

「……ユリスだって怠惰な天使。……大天使の私から見れば、ネイアとそう変わらない」


 シエラ様は炎に燃料を投下する。


「ぼ、ボクとネイアが同レベル!? いくらシエラとは言え、聞き捨てならないのだよ!! ボクのどこがネイアに劣っていると言うのだね!? 知力、魅力、スタイルの良さ、人から愛される要素しかないボクの! ど・こ・が!!」


 結局カイトは、ユリスがいかに優れた天使であるかについて10時間の講義を受けて、3時間の仮眠ののち、続きを聞かされた。

 ドンディナに着いた時には、何もせずに籠に座っていただけなのに凄まじい疲労感に襲われたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ドンディナは荒廃していた。

 ユリスの眠っていたブラウゼンも荒れてはいたが、あちらは寂しい場所だった。


 対して、ドンディナの廃墟は主に遊興施設だった。

 カジノは見て分かるものだけで3つあり、金の看板や金の銅像が転がっている。

 また、筋力を鍛えるためと思われる見た事もない装置の残骸も多数発見された。


「見たまえよ。なんと品のない土地だろう。ネイアが守護していたからこうなったのだよ」

「でも、金がこんなにありますよ。すごいな。持って帰ってもいいのかな」


「……カイト。……よく見て。……それは全部メッキ。……本物だったらとっくに野盗が持ち去っている」

「あっ。本当だ。ちょっと擦ったら塵になったよ」


 ひとまず、カイトたちはネイアの眠る場所を探すことにした。

 その作業はほんの数分で終わる。


 金色の巨大な柱が立っており、そこに「破壊の天使・ネイア、ここに眠るから起こしたら絶対に許さない」と刻まれていた。

 ちなみに、それは本物の金で作られていた。


 ユリスによると「魔力が込められているから普通の人間には1グラムだって削れない」らしい。

 カイトは試してみたかったが、領主としての良識が誘惑に勝ったため、紳士らしく「立派だなぁ」と感想を述べた。


「立派なものか。醜悪なのだよ。そもそも、本当に起こしてほしくなければこんな墓標みたいなものを刻まなければ良いのではないかね? ネイアはかまってちゃんなのだよ」


 カイトはシエラに聞いてみた。


「これ、起こしちゃってもいいのかな?」

「……問題ない、……そのために私がついて来た」


 ならばと、カイトは地面に手をつき《目覚まし》を発現させた。

 通例ならば地響きなどが起きるはずだったのだが、破壊の天使は一味違う。


 ドゴッと音がしたかと思えば、一直線に白い衣服を纏った少女が飛び出して来た。

 まるで火山の噴火のようだとカイトは思った。


 黒い髪に紅い目をした天使は、ショートパンツのような聖衣、ユリスによればキトンと言うらしいが、どうやら彼女が自分でカスタマイズしたらしく、その恰好は異彩を放っていた。


「あー! もぉー! やっと起こしに来た! どんだけ待たせるのよ!!」

「えっ」


「ふぅーん? あんたが起こしたのね? 人間にしてはやるじゃない! んーっ! 退屈だったわー!!」

「……ネイア。……久しぶり」


「あっ! シエラじゃない! なによ、あんたがこの人間に命じたのね!? さっすがー! 大天使は分かってるわね!」

「……違う。……ネイアを起こすように提案したのは、ユリス」



「はっ? げぇーっ! なんであんたがいるのよ、ユリス!!」

「ボクだって別に君に会いたいから来た訳じゃないのだよ!!」



 ネイアの勢いは凄まじく、カイトの入る隙が見当たらない。

 彼はしばらく言い合いを続ける天使たちを眺めていることにした。



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