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16. エルフとの宴会



 エルフの国へはカイトとシエラ、そしてリザの遠征トリオが出向くことになった。

 ユリスは「ボクも興味はあるが、移動の時間が退屈過ぎて無理なのだよ」と言って、今回もカイトの留守を預かる。


 ヘルムートが中心になって農場の管理をする手筈も整えて、万全の状態でアルゴートを出発したカイトたち。

 そして、それなりの距離を歩いて4日。


 目的地であるエルフの国。

 正式な名前をルズベリーラと言う、由緒正しい隠れ里へと一行は到着していた。


「カイト! しっかりして! もう着いたってば!!」

「俺、今度こそ体を鍛えるよ……。もう、何て言うかごめんなさい」


 カイト・フェルバッハは体力がない。

 既に周知の事実である。


 今回の旅でも、道中2度ほど進むのを諦めかけて、最終的にはリザに肩を貸してもらってフラフラになりながらどうにか踏破に至る。

 先ほどからカイトが考えている事は「来たって事は、帰りも同じ道を……」と言う絶望である。


 だが、そんな疲れ切った彼の鼻をくすぐる香ばしい匂いがそこら中から垂れ流されていた。

 エルフの国・ルズベリーラは豊食の土地。

 城下町に入ったと思えば、すぐに屋台が軒を連ねる。


 どこを見ても美味しそうな料理が並んでおり、そのうちの半分以上は見た事もない料理だった。

 カイトはユリスが「エルフ族の築いて来た知識は得難い」と言っていた事を思い出す。


 エルフ族は長寿の種であり、長い人生をいかに豊かにするべきかを知っていた。

 生きている以上は何かを食べねばならない。

 ならば、出来る限りその食事を楽しもうと言うのが彼らのモットー。


「シエラ? どうかした?」

「……うん。……思い出していた。……エルフは気難しいけど性格は穏やか。……だから、かつて私も友好な関係を築いていた。……気がする」


「なるほどね。食べる事に妥協なしのシエラがエルフの料理を無視するはずないってことか」

「……むぅ。……私が食いしん坊みたいな言い方はヤメて欲しい」


「せめてそのよだれを拭いてから言って欲しかったな」

「カイトー! シエラちゃーん!! 早く来てよー!! アデルナさんがお城に案内してくれるってー!!」


 先に歩いて行ったリザがカイトたちに向かって手を振る。

 よだれを拭かずに屋台から離れようとしないシエラを連れて行くために、カイトは残った体力の全てを消費したらしい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ルズベリーラ城は、どこに出しても恥ずかしくないほど立派な造りをしていた。

 聞けば、もう数百年もエルフの王族が住んでいるらしい。


「さあ、カイトよ! お付きの二方も! 楽な姿勢でくつろいでくれ! 作法などと言った堅苦しい事は抜きだ! 今、料理長に宴の用意をさせている! それまではフルーツでも摘まんでいてくれ! おお、酒もあるぞ!」


「ザムエル様。お心遣い、痛み入ります。では、遠慮なく」


 カイトもザムエルと4日ほど一緒に過ごして、少しだけだが彼の人となりを理解していた。

 少々強引なところはあるが、豪快でありながらもカリスマ性を持つエルフの王の事を、カイトも知らず好きになっていたのだ。


 そんな相手が「遠慮は無用」と言うのだから、そこで「いえいえ」と申し出を断る事こそが無作法。

 カイトは見た事のないフルーツを食べながら、宴席の準備を待った。


「カイト様。よろしければ、私にお酌させてくださいませ」

「これはすみません。って、アデルナさんですか!? なんと言うか、雰囲気が変わりましたね。まるでお姫様みたいですよ!」


 正装に着替えたアデルナは「ふふふっ」と笑って、「私、これでもエルフの姫ですよ?」といたずらっぽい表情を見せた。


「そうでしたね。すみません。じゃあ、一杯いただきます」

「はい! どうぞ! エルフ族に伝わる、秘伝のワインです!」


 美しい娘に酒を勧められて嫌な気持ちになる男は極めて少数である。

 そして、カイトは圧倒的多数派に属していた。


「うん、美味い! 俺、酒ってそんなに得意じゃないんですけど、これは水みたいに飲めますよ! アデルナさんのおかげかな? もういっぱごふっ!」

「カイトー? なんか鼻の下が伸びてるよね? わたしと一緒の時には伸びないのにさー。やー。別に良いんだけどねー」


 リザは何やらご機嫌斜めな様子。

 見れば、結構な量のグラスが並んでいた。


「り、リザ? もしかして、酔ってる?」

「べっつにー? エルフのお姫様に酔いしれてるカイトほどじゃないけどぉー?」


 しっかりと酔っていたリザさん。

 カイトは「酒はほどほどにしておこう」と肝に銘じた。


「……はむっ。……はむっ。……やはり、エルフ族の料理は絶品。……特にスパイスの使い方が違う。……肉も魚も美味しいとか、これはもはや事件。……はむっ」


 いつの間にか宴が始まっており、シエラは山のように積まれた料理と幸せそうに格闘していた。

 カイトも少しばかり摘まんでみたが、確かに味は無類のものだったと言う。


「カイト様! 私、カイト様の事をもっと知りたいです! 皆もそう申しております!!」

「おわっ! いつの間に!? まあ俺の話で良ければ。なるほど。違う種族の話って多分面白いんですよね。エルフさんたちは余り外と関わらないみたいですし」


 いつの間にかカイトの周りにはアデルナと彼女の侍女たちが集まっている。

 この豪華な宴席のささやかなお礼として、カイトは求められるままに語った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「まあ! なんて酷い人たちでしょう! それは本当にカイト様の血縁者なのですか!?」


 アデルナがまず食いついたのは、カイトが実家を追放されてアルゴートに流れ着くまでの経緯だった。

 彼女は自分の事のように顔を赤くして憤慨する。


「いや、まあこればかりは運がなかったと諦めています。子は親を選べませんし、人は付与されるスキルを選べませんから」

「それで、アルゴートを大きな都市にするために、料理人を求めていらしたのですね」


「そうなんです。なにせ、力自慢は多い土地なのですが、料理と言えば、精々焼くか煮るかの二択でして。せっかく貴重なキノコが採れると分かったのに、誰も調理できずに困り果てていたんですよ。ですから、アデルナさんたちが来てくれて良かった」


 アデルナは「とんでもないです!」と首を横に振る。


「カイト様がいなければ、お父様は恐らく助かりませんでした。このご恩は、料理法の伝授だけで済むなんて思っておりません! 私はエルフの姫として、カイト様とアルゴートの地を応援させて頂きます! お父様もお気持ちは同じはず! だって、初めて聞きましたもの! お父様が自分から同盟の話をするところを!」


 言われて気付く、「エルフ族との同盟についての話」に関する事の重大さ。

 アルゴートと言う小さな辺境の街を1つの都市として、エルフ族の王と姫が認めてくれている事実は、よく考えるまでもなくとんでもない事だった。


 カイトは誰かの意見を聞きたくて、リザを探す。


「ほんっとーにぃ! カイトはさー! 色々とね、アレなんだよぉー!!」


 酔い潰れていた。

 ならば、大天使様がいるではないかとシエラを見る。


「……はむっ。……はむっ。……はむっ。……はむっ。……はむっ」


 食い倒れていた。

 カイトは「領主って孤独な仕事だな……」と、何やら悟りを開きつつ、それからしばらく宴席を楽しんだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 宴もたけなわ。

 程よく酔いが回り、空腹も満たされ充実したカイト。

 隣には寝息を立てているリザと膨れたお腹を満足そうに叩くシエラ。


「あの、カイト様?」

「はい。なんでしょう?」


「ルズベリーラにお三方の銅像を作ろうと言う話になりまして、まずは絵を描かせて頂けませんか? すぐに済ませますので。そのまま楽にしていてくだされば!」


 銅像まで作られる事になるとは、さすがにカイトの想像を超えていく。

 だが、国王が病から快方された国の祝賀ムードに水を差すのも悪いと考えた彼は、「分かりました。男前にお願いします」と軽く返事をした。


 すぐにアデルナの手配していた画家が10人ほど集まり、様々な角度からカイトとリザ、そしてシエラのデッサンを行った。

 腕利きの画家たちの仕事は速く、あっと言う間に作業は終わり、カイトたちはベッドメイクされた貴賓室へと案内される。


 彼らが去った後、アデルナが首をかしげていた。


「……シエラ様。どこかでお見かけしたような? ずっと昔に。あっ、神話の書物! ……って、そんな、まさか。偶然ですね」


 アデルナの記憶力は称賛に値する。

 神話に語られる大天使が、食い倒れ天使になっていると予測できる者は誰もいないので、その点は恥じる必要などないと付言しておく。



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― 新着の感想 ―
[一言] エルフなら200年ちょっとくらい神話の書物どころか書きたてのころから知ってそう
[気になる点] 剣術を熱心にやってたのに体力がないは違和感あります
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