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10. 創造の天使ユリス




「カイトー! 村はずれにある沼地に住み着いてたカエルのモンスター倒して来たよー!!」

「ああ、お疲れ様。やっぱり戦闘のできる人間が増えると助かるなぁ」


「……むぅ。……カイト。私だってカエルくらい一瞬で焼き尽くすことができる」

「そうだね。その結果、近くにあるものが全て灰になるよね。適材適所ってヤツだよ。シエラにはシエラにしかできない事がいっぱいあるじゃないか」


「そうだよ、シエラちゃん! いや、シエラ先輩!! 大先輩!!」

「……2人がそう言うなら、私としても振り上げた拳を下ろす準備がある」


 リザがアルゴートにやって来てから2週間。

 この地の浄化作業は順風満帆とまではいかないが、どうにか進行している。


 ヘルムートたち、元からいた領民も頑張ってくれてはいるが無理はさせられない。

 彼らは長年厳しい環境にさらされてきたせいで怪我人や持病を持つ者も多く、また若い者となればさらに限られる。


 しかも、彼らには彼らの生きるために必要な仕事がある。


「カイト様! 今日は水汲みの日なんで! オレと8人ほどちょいと抜けますが、大丈夫ですかい!?」

「ああ、もちろん。道中はくれぐれも気を付けて。水はまた汲みに行けばいいけど、みんなの命は1つだからね。モンスターに遭遇したら何を捨てても逃げるように」


「へへっ。まったくうちの領主様はお優しいぜ! おっしゃあ! 行くぞ、野郎ども!!」

「「「おうっ!!!」」」


 アルゴートにある瘴気を発する場所の浄化作業は進んでいるが、この地にある問題はそれだけに留まらない。

 特に、水問題に関しては優先度が高いとカイトも考えていた。


 この地の井戸は枯れており、水を得る手段がない。

 今は領民の若い者たちが代表して、週に2度ほど15キロ離れた水源に水を汲みに行っている。


 だが、カイトも言ったように、道中は険しい。

 道なき道を行く事になるし、大量の水を担いで移動すると怪我をするかもしれない。

 なにより、アルゴートの近辺ではモンスターが頻繁に発生する。


 水汲み部隊が怪我をして帰って来ることもままあり、どうにかしなければと新領主も頭を悩ませていた。


「お水は大事だよねー。お料理にも使うし、お風呂とかも。あと、飲み水がないと喉が渇いてお仕事どころじゃなくなるよぉー」

「うーん。やっぱり、もう何か所か井戸を掘ってみるかな。可能性はすごく低いけど、やってみる価値はある」


 早速カイトはアルゴートの地図とにらめっこを始めた。

 が、それはすぐに終わる。


 オヤツと言って干し肉をモグモグ食べていた大天使が呟いたからである。


「……カイト。……水が欲しいの?」

「そうなんだよ。あ、ごめん。シエラの『ホーリーシャワー』はダメだよ? あれ、アンデッド系だけじゃなくて、人間もダメージ受けるヤツだから」


「……むぅ。……じゃあもう言わない。……水問題を解決する手立てがあったけど、もう言わない。……創造の天使ユリスがいればきっと水も生み出せるけど、もう言わない」


 シエラはほとんどの情報を開示して、しかし1番重要な部分を伏せると言う高度ないじけ方を見せる。


「待って! ごめん! 俺が悪かった! と言うか、シエラって記憶戻ったの!?」

「……戻ってはいない。……だけど、断片的に覚えている事もある」


「頼むよ、シエラ! 創造の天使ってどこにいるの!?」

「わたしからもお願いしますっ! シエラちゃんの大天使っぷりをカイトに知らしめるチャンスだよ!! きっとオヤツのバリエーションも増えるよ!!」


「……本当に? 干し肉とシチュー以外のものも食べられるようになる?」

「なる! 水さえあれば、もっと多種多様な調理ができるから! シエラの好きな料理もいっぱいあると思うんだよなぁ」


 大天使様は食欲に屈する。

 シエラは創造の天使ユリスがかつて居た場所をカイトに伝えた。


 アルゴートから3日ほど歩く距離だったが、シエラとリザが一緒ならば問題はないだろうと判断したカイト。

 領民のためにもすぐに行動に出る。


 旅支度を整え、翌日には出立。


「ケベルトさん。ヘルムートさん。留守の間をお願いしますね」

「ほっほっほ。領主自らが現場に行くとはのぉ。カイト殿は相変わらず不器用じゃ」

「道中は大天使様と嬢ちゃんを頼ってくだせぇよ! あんたに死なれちゃ、アルゴートは終わりなんだからな!!」


 領民に見送られて、カイトたち3人は目的地へと向かう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ブラウゼンはアルゴートから東に65キロほど行った場所にある。

 かつては水の都として栄え、その豊富な湧き水を求めて多くの旅人が押し寄せたと言う。


 かつては、の話である。


 3日かけてやって来たカイトたちを出迎えたのは、アルゴートにも負けないほどの荒れた土地だった。

 石造りの家はすべからく崩れ去っており、どう見ても人が住んでいるようには見えない。


「ええと。シエラ? 確認するけど、都市の名前はブラウゼンで間違いない?」

「……うん。……水の都ブラウゼン。……私の記憶にはそう残っている」

「あ、あははー。ちょっと水の都って感じではないねー」


 カイトは持参した地図に目を落とす。

 そもそも、地図にブラウゼンと言う地名がない事に疑問を持つべきだった。

 加えて、シエラが一体何年前、もっと言えば何百年前に封じられたのか分からない点も考慮するべきだった。


 そもそも、今の帝国領に天使が存在すると言う話を聞いたことがないのだ。


 創造の天使がいるとなれば、カイトのこれまでの人生で1度はそんな話を聞く機会もあっただろう。

 これは若さゆえの勇み足と言ってもよい失態だった。


「なんてこった。無駄足だったかぁ……」


 シエラとリザは「ちょっと色々と見て来る」と言って、ブラウゼンを探索しに奥地へと進んで行ったが、カイトにはそんな体力も気力も残っていない。

 旅の道中、少しずつ惜しみながら飲んで来た水を少量口に含む。


 この程度では癒せない程、彼の心は乾いていた。


「カイト、カイトー! なんか石碑があったよ! こっち来てー!!」

「分かった。すぐに行くよ」


 せめて、廃墟の観光くらいしなければ損である。

 いつまでも座り込んでいても仕方がないと、カイトは立ち上がりリザの声のする方へと向かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ほら、これ! なにか書いてあるんだけど、わたしには読めなくてさー。カイト読める?」

「古代文字だね。一応座学で習った事はあるけど……。断片的になら読み取れるな」


「ホント!? さすがカイト! じゃあ、読めるとこだけでもお願い!!」

「ええと。帝国暦525年……。ここからしばらくは読めないな。次は、ブラウゼンの歴史はここに途絶えた。最後の民、この碑にその足跡を記す。だってさ。……ん? 帝国暦ごひゃ、525年!? 200年以上前じゃないか!!」


 現在は、帝国暦751年。

 この石碑に書かれている事を全て真実だと仮定すると、200年以上前にブラウゼンは滅んだことになる。


 そう考えると、今ではあまり見かけない石造りの廃墟も歴史の証人のように思えて来る。


「そっかぁー。だからこんなに荒れ果ててるんだね。だって、モンスターすらいないもん!」

「確かに。アルゴートには毒の沼地とかがあって、アンデッドが住み着いているけど、ここには毒すら遺ってないなぁ」


 2人で在りし日のブラウゼンに想いを馳せていると、シエラがやって来た。

 彼女は控えめに手招きをする。


「……カイト。……興味深いものを発見した。……リザと一緒に見に来て欲しい」


 大天使の導きに従って、瓦礫の山を越えた先には異質な場所があった。

 その区画だけ妙に綺麗であり、廃材や岩のひとつも転がっていなかった。


「これは……花? こんな荒れ地で、水の一滴もないのに!?」

「すごいねー! なんだかクリスタルでコーティングされてるみたい!」


「……リザの見解はなかなか正しい。……これは恐らく、創造魔法の一種。……私が見たところ、数百年前に創られたものに見える。……数百年もの間、創造したものを風化させずに留めておける魔法は、人間などに使えない」


 そこまで説明されて、カイトとリザもやっと納得するに至る。


「この花が、つまり墓標代わりってことか」

「お墓かどうかは分からないけど、この下に創造の天使さんがいる可能性はあるよね!」

「……そう。……つまり、カイトの出番」


 《目覚まし》を使ってみたら良いと、3人の見解は一致した。


「じゃあ、やってみようか! ……はあっ!!」


 カイトが魔力を右手に込めて、そのまま地面に触れた。

 次の瞬間には、大地が揺れ始める。

 続けて地割れが発生し、カイトはリザに助けてもらわなければ口を開けた地面に呑み込まれていただろう。


 シエラを目覚めさせた時の事をもっとよく思い出せばよかったと、九死に一生を得たカイトは猛省するのだった。



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