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憎しみのかなたに  作者: 此道一歩
第2章 陽のあたる場所
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麗奈の思い

 翌日の土曜日、麗奈から呼び出された智也は、彼女から譲ってもらったボロボロ軽四で出かけた。

 麗奈は見るたびに車がきれいになることに驚いたが、

「ねえー、そろそろ車を変えたら……?」

「ええっー、お金もないし、それに、気に入ってるんだけど……」

「このシートだって、新しくなったけど、いくらかかったの?」

「えっ、500円」

「はあーっ? このシート500円なの?」

「うん、廃車になっている車で細工ができそうなのを買ってきて……」

「へえー、それで自分で取り付けたの?」

「うん……」

「あんたさー、中古車商売やったら?」

「いやー、実は、斎藤自動車ってあったでしょ」

「ああ、初めて待ち合わせた所ね」

「うん、俺は子どもの頃からあそこの親父さんに色々教えてもらっていたんです」

「へえー、そうだったの?」

「大きくなったら、あそこで働いて、中古車販売もやりたいって思っていたんです。親父さんも賛成してくれていたんですけど……」

「どうしたの?」

「実は、あそこ…… 昔は吉岡不動産の車を専属で診ていたんです。その頃は、吉岡の社員の人もたくさん来てくれて……」

「ええっー、全然知らなかったよ、どうして、国友に変わったのかしら……」

「ある時、君の親父さんから緊急の呼び出しがあったんだけど、その日は斎藤の親父さんの奥さんの葬式の日で、親父さんは行けなかったんだ」

「そ、そうなの…… それで切られたの?」

「うん、次の日に大野っていう人が来て『緊急時に対応できないのでは困る』って言って」

「でも、それって…… 親父の奴、許せない」麗奈が唇をかみしめて眉間にしわを寄せたが

「いや、だけど、今回の話を聞いていて、君の親父さんがどこまで知っていたのかは分からないって思ったよ」智也の言葉に

「えっ、親父をかばってくれるの?」麗奈は少しうれしくなった。

「今までは腹も立ったけど、でも、今回みたいなことがあると……」

「でも、親父に確認してみるよ」


 麗奈は席をはずと、すぐに父親に電話を入れた。


 しばらくして帰ってた彼女が

「さっきの斎藤自動車のことなんだけどね、親父は、齋藤の社長が女と一緒にいたから、来れなかったんだって聞いていたらしい」事情を説明すると

「ええっー、そんな……」今更ながらに智也は驚いた。

「今回の大野の不正のことも話したら、任せるよって言っていた」

「……」

「あいつもさー、ママが亡くなってからは女遊びばかりしてさー」

「ええっー、そうなの?」

「でも、久しぶりに声聞いて、寂しかったんだなーって思ったよ」

「お母さんて、いつ亡くなったの?」

「中二の時かな……」

「寂しかったね……」

「今だから話すけどね、あの小学校3年生の時の、父の会社が工務店を差押えして、その一家が心中しようとした……」

「うん……」

「あの時にね、皆からリスられたのに、あんただけは、普通に接してくれたでしょ」

「そりゃ、君とは関係ないって思ったから……」

「ありがとう、とてもうれしかったよ」

「え、こうなったのは恩返しのつもりなの?」智也は驚いたが

「そんなんじゃないのよ、あの時にママに貴方のことを話してね、援助してあげて欲しいってお願いしたのよ」麗奈は話を続けた。

「……」

「そしたら、ママがね、君の人生は大変だけど、君の糧になるかどうかは君次第だって…… そんなことしてあげたって、同情されてみじめになるだけよって……」

「そうか…… ありがとう」

「だけどね、ママが亡くなる前の日に、君はどうしてるかって、突然聞いてきたのよ」

「えっ」

「それで、26歳を過ぎたら、私は君と関わることになるかもしれないって……」

「お母さんて、霊感でもあったの?」

「ううーうん、易をやっていたのよ」

「えきって何なの?」

「うーん、当たるも八卦、当たらずも八卦」

「ええっー、何なの?」

「四柱推命って知っている?」

「うん、聞いたことはある」

「あれはね、生まれた年月日と時間、4つの柱によって人間は生まれながらにして星を持っているっていう考え方なのよ」

「難しいね」

「だけど、ママがやっていたのは、生まれた年月日だけでその人の星を見ていたのよ。それがよく当たるのよ」

「だけどさー、星がわかっても、どうしようもないでしょ。悪い星をもって生まれた人はいつまでも不幸なんでしょ。それだったら知らない方がいいよ」

「それは違うのよ、無数に技があるのよ」

「技?」

「そう、自分の星を変えることだってできるのよ」

「えっ、俺のこと、その宗教に勧誘しようとしているの?」

「ばかなこと言わないでよ。私は上っ面しか知らないんだよ。でもママから聞いたことだけは信じているの。それに宗教じゃないから」

「でも……」

「まっ、聞いてよ」

「うん……」

「それでね、ママはいろんな人とお付き合いしてみなさいって言ったのよ。そしたら大事なものがよくわかるからって……」

「そう……」

「ママの最期の言葉だったのよ……」

「それで何かわかったの? もう27歳過ぎたでしょ」

「大学時代から、いろんな男と付き合ってみたけど、屑ばかりよ。寝ることしか考えていない奴、お金が目当ての奴、その日その日が楽しければいいって思っている奴…… そんな時、ガソリンスタンドであなたを見て、ママの言葉を思い出したのよ」

「へえー、そこまではわかったけど…… 」


 しばらく沈黙があった。

「奈々さんがね、流れるように流れてみたらって……」

「それって、自然に任せるって言うこと?」

「うーん、てか、思ったようにやってみる? いや、思いついたまま?」

「はあー?」

「うーん、よくわかんないけど……」

「まっ、とにかく腐れ男と別れた後、あなたに会って、ママの言葉を思い出して、ずっーと1ヶ月くらいあんたを見ていた」

「1ヶ月も……?」智也は驚いた。

「そのまま流れにのってみたら、こんなことになったのよ」

「フーン……」

「だけど考えてみたら、あの総務課長の大野だって、あんたがいるから何とかなりそうな気がしていたし、おそらく何とかなるよ」

「少しは役に立っているのかなー」智也がふっと遠くを見つめた。

「そりゃそうよ、そろそろ私を彼女にしてみる?」

「えっ?」

「冗談よ、なに驚いてんのよ」

「い、いや、別に……」彼は俯いてしまった。


 少しだけ沈黙があった。


「でもさ、なんかスーツ姿がしっくりくるようになったね、よく似合ってるよ」

 沈黙を何とかしたいと思った麗奈が微笑んだ。


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