第49話
今度はデイジーが治療場で何があったのか教えてくれた。
何度かけても私を治癒することができずに、アンバーの言葉に従い衛生兵全員で治癒の魔法をかけ続けたところ、ようやく傷を癒すことができたという。
「そういえば、治る直前、聖女様の胸元が青く輝いて……」
「胸元?」
デイジーが思い出したように私のペンダントの先を指さす。
私が鎖を手繰り寄せ、先端に付いてる宝石を見ると、無数のヒビが入り、色も無色になっていた。
「ベリル王子から贈られた宝石ね……絶対肌身離さず持つように、と手紙に書いてあったのだけれど」
「それのおかげで聖女様を助けることができたんですかね? そうだとしたら、ベリル王子様に感謝のしようもありません」
「そこから先は僕が説明しよう。と言っても、ベリル王子からの又聞きだけどね」
「アンバー隊長。デイジーに指示を出したのはあなたでしたね。何を知っているのか教えてください」
アンバーの使い魔を通して、アンバーと直接やり取りができる。
私も使い魔がいるけれど、せいぜい特定の場所を行き来させるくらいだ。
遠隔の相手と会話ができたり、様子を知ることができるのは、アンバー以外にそう多くないだろう。
と言っても、そんなことができるようになったのは、つい最近のことだと言っていたけれど。
「聖女様は女性の方が男性よりも回復魔法が効きにくいってことを聞いたことはあるかい?」
アンバーの言葉に、私と、そしてデイジーも頷く。
私は文献で、デイジーには以前私から話したことがある。
特にデイジーは実際にそれを体感したのだから、疑う余地もないだろう。
「実はね。男性にもあるんだよ。攻撃魔法は、女性より男性の方が効きづらい。しかも、一般的な兵士よりも、僕なんかみたいな攻撃魔法を習得した兵士の方が耐性が強いんだ」
「それも聞いたことがありますね」
アンバーは以前、複数の呪いをその身に受けていたが、自身の気力と魔力で無理やり押さえ込んでいた。
おそらくアンバーだったからできた荒業で、魔力に乏しい一般兵には無理だったろう。
「うん。誰も好きこのんでその身で攻撃魔法なんて受けたくないからね。きちんと調べられたことはないんだけど、体感的には魔力の扱いが上手かったり、総量が多いほど、より耐性が高い。自慢じゃないけど、万全の時の僕に攻撃魔法でダメージを与えるのはちょっと大変だろうね」
「つまり、効きにくさは魔法を受ける者の魔法を扱う能力に相関すると……? まさか!」
私は使い魔の黒い鳥を凝視する。
もし私の考えが正しいとすると、それは大きな問題を孕んでいるということだ。
話しているのは使い魔を使役しているアンバーだろうけれど、使い魔の黒い鳥自身は、私の視線を気にすることなく、毛繕いをのんきにしている。
「うん。そのまさかさ。デイジーの回復魔法の能力の高さは僕も知っている。その彼女が何をしても聖女様の小さな傷すら回復できなかったんだ。しかも聖女様は意識を失っていたんだから、それに抗うことを意識的にしていたとも考えにくい」
「そんな! だとしたら、衛生兵を戦場に赴かせるのは、大きな危険が‼︎」
私は思わず叫んでいた。
アンバーの言葉を最後まで聞く必要もなく、私は理解したのだ。
聖女と呼ばれる女性が、なぜ今まで王城という籠の鳥にならざるを得なかったのかを。
「ベリル王子は言っていたよ。と言っても、彼も聖女様が戦場への同行を断らないと知ってから、ほとんど休まずに過去の文献を調べて知ったことらしいけどね」
「回復魔法の使い手は……自分よりも優れた使い手によってでなければ、治癒させることができないのですね?」
「そう。ベリル王子は、前聖女から、代々の聖女が【聖女の涙】と呼ばれる宝石を常に携帯するということだけ聞いていたらしい。自分の身にもしもの時があった時のお守りだと言ってね」
私はもう一度ベリル王子の手紙を思い出す。
私の身に何かあった時には、この宝石が助けてくれるはずだと書いてあった。
「調べた結果、あれは安全装置だったはずなんだ。ところが、歴代の聖女が注ぎ込んだ魔力を持ってしても、聖女様を治癒させることはできなかった」
「それで私たちに治癒の魔法を何度もかけさせたんですか?」
今まで黙っていたデイジーが割って入る。
「そうだね。さっきも言ったように、あの宝石は回復魔法を蓄えることができる特別な宝石なんだって。驚くべきは、聖女様を治癒するのに必要な魔力は、第二衛生兵部隊に匹敵するってことだね」
「要点は分かりました。そして、今回私が助かったのはクロムやデイジーたちもそうですが、事前にこの宝石を贈ってくれたベリル王子や、情報を届けてくれたアンバー隊長のおかげです。ありがとうございます」
私は礼を言った後、今後について深く考え込む。
今回はいくつもの幸運の結果助かったけれど、次に私が傷付いてしまえば、再び多くの迷惑をかけてしまうことになる。
少なくとももう一度戦場に赴くということはできない。
ただ、戦場に直接同行しなくても、別の方法で貢献できる可能性がある。
私は難しい顔をしながら話を黙って聞いていたクロムに向かって、先ほどお願いしたことを、正式に頼むことにする。
「クロム。あなたにお願いがあるの。あなたの身体。しばらく私に預けてちょうだい」




