表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦地に舞い降りた真の聖女〜偽物と言われて戦場送りされましたが問題ありません、それが望みでしたから〜  作者: 黄舞


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/65

第13話【願い】

日間6位に入りました!

感謝に意を込めて、本日二話目の更新です!!

 ルチル王子の一件があった後、数日経って私は再び王城に呼び出された。

 その間、父が「よく戻ってきた」とか「今からでも遅くない」とかを、毎日のように聞かせてくるので、若干うんざりしてしまった。


「やぁ。よく来てくれたね。座ってよ」

「失礼いたします」


 今回通されたのは、ベリル王子の私室の一つだった。

 ゆったりとしたソファが向かいあわせで置かれていて、奥の方にすでにベリル王子が座っている。


 隣に佇むクリスが私に向かって会釈する。

 私もベリル王子、そしてクリスにそれぞれ一礼してから、向かいあう形で空いているソファに座った。


「なんだい。こっちにも空きがあるんだから、こっちに座ればいいのに。そこじゃあ、遠いだろ?」

「ご冗談を。今日のご用件はなんでしょうか?」


 私の言葉にベリル王子は笑みを強くする。

 どうやら私にはこの人の考えを読むのは難しそうだ。


「ああ。そうだね。他でもない。兄さんのことさ」


 ベリル王子は呪いが解けた後のルチル王子のことについては淡々と述べた。

 その口調や表情からは、そのことを悲しんでいるのか喜んでいるのかは読み取れなかった。


 ルチル王子は案の定、心を壊してしまったようだ。

 身体に異常がないにもかかわらず、反応もいまいちで、一日中どこか遠くを見つめているだけらしい。


「それで、相談なんだけど。兄さんを元に戻すことはできるのかな?」

「分かりかねます。ただ、魔法の力で、ということでしたら、現時点で方法はありません」


「そうか……それは残念だね。本人の口から直接聞きたかったんだけどな」

「なんのことでしょうか?」


 ベリル王子が困った顔でそんなことを言うので、思わず私は聞き返してしまった。


「どうやら、毒を盛られていたみたいなんだ。国王、つまり父がね」

「どういうことです⁉」


「そのまんまの意味さ。しかも困ったことに毒自体は既に解毒したのだけれど、衰弱してしまっていてね。もうそんなに長くないだろう。問題は、誰が毒を盛っていたか、ということなんだけど」

「ルチル王子が犯人だと?」


 私のはっきりとした物言いに、ベリル王子の眉が一瞬跳ねた。


「状況的に一番怪しいのはね。私ですら、父にはそんなに近寄れなかったんだ。誰かを使おうにも、かなり難しいだろうね」

「それを話させるために、ルチル王子の治療が必要だと?」


「いや。それだけの気持ちではもちろんないさ。純粋に良くなって欲しいとは思っている。一応でも私の兄だからね。そうだ。話のついでに、あの女がどうなったか――」

「必要ありません」


 ベリル王子にわざわざ聞かなくても、マリーゴールド、そしてその一族がどうなったかは簡単に想像できる。

 家の使用人からマリーゴールドの家が取り潰しにあったと聞いた。


 事が事なだけに理由は大っぴらにはなっていないが、そういう事なのだろう。

 私は一瞬目を瞑り、マリーゴールドとその一族の安寧を祈った。


「そうか。それで、色々と処理をしないといけないことが多すぎて、君を正式に聖女だと言うことは当分難しそうなんだ。済まないね」

「いえ。構いません。なんでしたら今後も必要ありません」


 元々聖女になどなる気はないのだ。

 それは実際に戦地へ赴き、負傷兵たちの治療に従事して、より強い気持ちになった。


 今さら聖女になりたい気持ちなど一切なかった。

 むしろ王都に繋ぎ止められている今が、どうしようもなく感じられた。


 今こう話している間にも、負傷兵の治癒は行われているだろう。

 デイジーたちは問題なくこなせているだろうか。


「相変わらずだね。ただ、それでは王族としての威厳が保てない。私のできる範囲で、個人的にお礼をしたいと思っている。何か欲しいものはあるかな?」

「どんなことでもいいのでしょうか?」


「私ができる範囲ならね。どんなことでも叶えよう」

「それでは、私を衛生兵として戦場に戻してください。今すぐに」


 私は考えるまでもなく、願いを言った。

 それを聞いたベリル王子は目を見開き驚いた顔をした後、声を出して笑った。


「あっはっは。まさか、あの地獄から帰還して、それでもあそこに行きたいなんて言うとは思っていなかったよ」

「地獄だからこそ行くのです。そうしなければ、いつまでも地獄のままです」


「分かった。私が総司令官だということも知っての願いなのだろう。私から言い出したことだ。約束は守ろう」

「ありがとうございます」


 これでやり残したことを再びできる。

 しかし、ベリル王子から出た言葉は私が想像していない事だった。


「ただし。戻る部隊は別の部隊だ。未来の聖女に、それなりの席を用意しなくては。ちょうど、第二部隊の副隊長に空きが出来たところだったはずだ」


 以前居た第五衛生兵部隊に戻れると思っていたところ、どうやらこれから向かうのは第二衛生兵部隊のようだ。

 しかも、その部隊の副隊長として。


 役に就けば自分のやりたいことも通しやすいだろう。

 慣れ親しんだ彼女たちと一緒に働けないのは残念だけれど。


 そんなことを思いながら、私は自分の信念を実現するために、戦地で自分がやるべきことに思いを馳せていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作異世界恋愛書き始めましたヾ(●´∇`●)ノ

今世は立派な悪女(ワル)になる!〜良い子ではダメだと前世で悟ったので、強かに生きます

【良い子】でいようと頑張ったけれど、不幸な目に遭った女の子が、タイムリープして幸せを掴んでいくお話です。 良かったらこちらもよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
[良い点] アドリーヌの罪の内容を考えたら、国家反逆罪で一族郎党処刑になってもおかしくない。 この手の作品は数多くあるけれど、罪と罰が見合っていない作品が多い中、きちんと罪に対して罰が与えられている作…
[良い点] 誰が毒を盛ったのかが分からず一区切り。 程よくミステリを残し、そこを考えつつも次の部隊に話が移る。 あっさり進んでいるようで、良い意味で気になる作品になってきました。 [気になる点] ひ…
[一言] マルス王子には正常のままで苦しんで欲しかったです。 愛する女性に喉潰されてどんな気分wって誰かにして 貰いたかった…。今はスヤァって感じでしょうか。 しかしルイス王子、主人公の為に戦場に送り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ