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テクノ下半身直結厨VSネカマ

 中学の時は引きこもりだった。高校でも女子に話しかけたことすらなかった。

そして今は理系大学生、周りは汗くさい男ばかりで女なんかほとんどいない。


 だが、俺は彼女が欲しい!


 その一心で俺は暗い自室にこもりネトゲをしていた。


 学校では冴えない俺も、ネトゲの中では数百人のプレイヤーからなる軍団レギオンを仕切る元帥だ。平日は授業をサボって仲間たちのレベル上げのために狩りに出かけ、休日夜のレギオン戦では戦略眼とプレイヤースキルを生かし仲間たちを勝利へと導く偉大な指導者となる。それが俺だ。


 だが俺が本当にやりたいのは戦いではない。恋人が欲しいのだ!


 ネトゲの中にはたくさんの女キャラがいる。清楚なアバターの回復職の女の子たちがきゃっきゃうふふしてたむろっている。この子たちはきっと、家でも清楚でかわいらしい服を着て、レギオン戦で活躍した俺の勇姿に恋をしながらパソコンの前にいるに違いないのだ。


 そう思ってわざわざ俺から声をかけてやっているが、どうも恥ずかしがり屋が多いのか、俺との会話を避けようとする。せっかくどこに住んでいるかとかオフで会わないかとか誘ってやっているのに。


 それでもたまにはノリのいい子もいたので恋人にしてオフで会ってみた。そこで俺はとんでもないものを見た。


 ネカマ!


 男のくせに女キャラを使い、ネトゲの中では女言葉でしゃべるやつら。

 なぜだ、なぜそんなことをする!?ホモでもないくせに。


 俺が口説き落としてリアルで会った女キャラは、皆ネカマだった!

 語尾の「にゃん♪」が俺のツボにハマった猫娘、「猫姫なーこ」はモヤシのようなひょろくて根暗な男だった!

 口説いたとき「うれしいです・・・・・・そういうこと言われたの初めてなので・・・・・・」と頬を赤らめた(ように見えた)清純な「癒しの天使サティ」は青髭の濃いオッサンだった!

 「姫騎士ラビアン」も、「†selenade†」も、「あびーちゃん♪」も、みんなみんなネカマだった!

 なんで俺が捕まえる女はみんなネカマなんだ!

ネトゲ情報サイトによるとこのゲーム、プレイヤーの3割はリアル女のはずなのに!


 なーこに貢いだレアアイテムの値段は俺のバイト給料二ヶ月分だった。あの二ヶ月間の、パチスロ中毒店長と短気なクソ先輩に偉そうに説教され、いびられながら働いていた時間は何だったのかと虚しくなる。


 俺はもうこれ以上、捕まえた女がネカマだったなんてことには耐えられない。

 だから、俺は自分のもう一つの武器を使うことにした。


 それは技術力だ!


 機械学習を用い、ネカマ判定プログラムを自作する!

 俺がリアル女恋人を作るため!


 ネトゲのクライアントソフトにマクロを仕込み、軍団チャットの女キャラの全会話内容を機械学習に入力させる。軍団の中ですでにリアル女だとわかっている奴(ちなみにそいつらは全員すでに彼氏持ちだ、クソ)の会話の特徴を学習させれば、性別を明かしていない奴のリアル性別も当てられるはずだ。


 ネカマ判定プログラムの開発は困難を極めた。当初簡単に実現できそうに見えたが、俺が軍団長の力で集めたネカマなやつらの情報を入れた途端、学習が発散したのだ。


 ネカマは予想以上に巧妙だった!一人称が俺や僕でないことはもちろん、女特有の化粧の話や下着の話まで難なくこなしていたのだ。下手にネカマを排除するように調整すると、化粧っ気のないリアル女とか貧乳のリアル女まで排除されてしまうことがわかった。

 なんなのこのネカマども。どっからそんな知識得るの?


 だが俺がネカマ判定プログラムに改良を重ね続けて半年後、ついに精度良くネカマ判定が出来るようになった。


 俺は判定アルゴリズムを解析して確認してみた。

 最初の入力層は、会話に使った言葉からそのときの気分を推定するものだった。しかしそれだけでは不十分なはずだ。確かにリアル男の言葉はリアル女より乱暴だが、ネカマは言葉使いくらい巧妙に変えている、そんなんで判別できるはずがない。


 しかしそれに続く中間層を解析し、俺は自分の勝利を確信した。

 気分を数ヶ月単位で監視し、浮き沈みの変化から一ヶ月周期成分が見られたらリアル女と判定するようになっていたのだ。


 つまり、生理周期の有無を判別していたのだ。


 いける、いけるぞ!


 早速俺はこれでリアル女と判定された中から、手頃でオフ会を断らなさそうでキャラの外見が俺好み(重要!)の女キャラを探し、ターゲットを絞った。


 そして決めた標的は「全自動肉入り神経ボットちゃん4号」。


 なんだよこの萎える名前。ボットかよ。

でもリアル女判定でてるしなー。


 青髪ゴスロリドレスは萌えるが、無口で無愛想だ。

まあでもリアル女判定でてるしなー。


 と、言うわけで早速この4号ちゃんとオフ会をすることにした。


 ********************


 梅雨の合間の蒸し暑い日。都心にほど近い、文教地区の閑静な住宅街。歴史のあるらしい石畳の道を辿っていくと、待ち合わせ場所である喫茶店の煉瓦の壁が見えてきた。


 歴史には興味ないからよく知らないが、何でも明治くらいの昔、偉い文豪が偉そうな小説の舞台にしたとかなんとかいう偉そうな曰く付きの喫茶店だ。ちなみにこの場所を今回のオフ会の場所に指定したのは俺ではない。


 カラコロン、という音を鳴らしながら喫茶店のドアを開けると、薄暗い店内の奥に見知った顔を見つけた。ひょろ長い背丈の優男が優男的な笑顔でこっちに向けて手を振る。こいつが俺が今回のセッティングを頼んだ、「怪人ウサギ男」。わが軍団レギオンのロリショタうさ耳キャラの旅団長だ。


 初めてこいつをネトゲで見たときは、なんだ、中身はショタコン女か?と思ったが、リアルで会ってみたらそうではなかった。アバターはショタ、リアルはひょろひょろという違いはあるが、中性的でロリショタな顔は共通。まるでネトゲからアバターが抜け出してきたかと思ってしまった。


 こんな優男なのだからさぞリアル女にもモテるだろうと思ったのだが、特に恋人はいないようだ。それにこいつはネトゲの中では男キャラだけの固定パーティーを組んでいる。実はゲイか?まあいい、とにかくこいつが、俺がレギオン戦でもっとも頼りにしている旅団長の一人であることは確かだ。いわゆる右腕、というやつだ。


 そしてこのウサギ男、今回のセッティングをお願いした相手でもある。どうやら四号とはリアル友達だったらしい。何かしゃくに障るが、こいつはあっさりセッティングをOKしたのでまあ俺が持って行っても問題ないよな。


「元帥、ひさしぶり~」


ウサギ男がロリショタフェイスでゆるい挨拶をしてくる。ちなみに元帥とは俺のことだ。


「おう。悪いな、今日は」


そう言って俺はウサギ男の向かいの席に腰を下ろし、背負っていたリュックを右に置く。荷物が右隣でノートPCに向かっている坊主頭の男の腕に触れてしまい、坊主頭がちらりとこっちを見るが、すぐにまたノートPCに向かう。


「いいよいいよ~。

 で?今日はリアル四号ちゃんに会いたいんだって?」


「お、おう、そうそう」


実は会ってどうするかはまだウサギ男には話していない。が、周りを見ても女がいないので、まだ本人が来ていないうちに早めに根回ししておくことにする。


「まあ、実はその、なんだ、四号を狙うことにしてな。

 そういうわけだから、俺を立ててくれ」


「え??

 狙うって?」


ウサギ男が首をかしげながら聞き返す。

鈍い奴だな。気付け。


「つまり、四号はリアルで俺のモノにするつもりだから、・・・・・・」


「俺のモノにって、

 ・・・・・・

 あ~、わかったよ元帥、そういうことね」


ウサギ男はあきれた顔をしてこっちをみる。

理解したことはいいが、その表情でこっちを見るのはやめろ。


「・・・・・・元帥、それじゃあ紹介するよ。

 リアル四号ちゃんです」


ウサギ男はあきれた顔のままそう言って、ひらを上に向けた手で俺の右方向を指す。


・・・・・・えっ?


俺が右を向くと、さっきの坊主頭の男が眉間にしわを寄せながらこちらを見ていた。


「うっす。リアル四号です」


野太い声が俺の耳に、いや心臓に響く。

俺の視界が揺れる。


あれ?

俺はもしかして、また、ネカマを捕まえてしまったのか??


「俺はこの通り男なんスけどね。

 確かに女キャラ使ってて一人称私にしてまスけど、

 あとは割と普通に地でしゃべってただけなんで。

 まさか俺のことリアル女と思う人が出てくるとは思わなかったス」


野太い声が、俺の揺れる視界をぐるぐると回し始めた。


「そ、そんな、ネカマなんてはずは・・・・・・

 生理周期まで確かめたのに・・・・・・」


俺がつぶやく。


「え??マジすか?

 そんなんやってたんスか、うわあ・・・・・・

 そいつはやっちまったスね~。

 確かに俺はちょっと、

 四号のRPロールプレイするときこいつで遊んでましたスからね~」


そういって坊主頭は、ごっつい指でつかんだ自分のスマホ画面を見せてくる。

そこにはパステル調で彩られた「ルナリズム」というアプリのタイトル画面が。


坊主頭はスマホを指で操作し、次の画面を見せてくる。


『今はPMS期。感情に振り回されてトラブルを起こさないよう注意して!(泣)』


「つー訳で、ここ数日は四号ちゃんの発言をちょっと辛めにしてたんスよ。

 四号、PMS期だから」


その生理周期は確かに、俺がプログラムで解析した四号の周期と一致していた。

あのゴスロリドレスの女の子は、リアルの女の子ではなかった!

現実にはただ、この坊主頭のスマホにわずかにその生理周期を残すだけの架空の存在だったのだ!

っていうかなんなのこの坊主頭。

なんでそんな意味わかんないことして俺の恋人づくりを邪魔するの??


俺の頭の中ではそんな考えがぐるぐるしていたが、なかなか言葉にはならず、

ただうわごとのようにつぶやき続けた。


「なんで・・・・・・

 なんで・・・・・・」


「いや、何でっていうなら、あんたこそなんなんスか。

 たいして女らしくもない俺のキャラに入れ込むなんて。

 そのうえリアルで手を出そうとするなんて。

 あんた四号のなにに惚れたんすか。

 生理周期ッスか?

 それ以外に惚れる要素無いはずッスけどね」


野太い坊主頭の声が頭に響く。


もう、・・・・・・俺は限界だった。

こみ上げる吐き気が抑えきれない。


俺は、喫茶店のトイレに駆け込み、そして盛大に吐いた。

その後のことはよく覚えていない。


 ********************


「・・・・・・元帥、行っちゃった。

 アレはトイレで吐いたかもね~」


「はあ~。吐いちゃうもんスか」


「まあ吐くんじゃない?

 リアル女だと思っていろいろと夢見ちゃってた相手が男だったら」


「そんなもんスか。

 まあ俺も人を騙そうと思ってやったわけじゃないんスけどね。

 ゴスロリ服キャラにしたのは、まあ、俺の趣味ッスけど。

 にしてもまさか生理周期をチェックしてアタックしてくるとは、

 キモいっすね~。あれが変態って奴ッスね」


「いやいやリアル四号ちゃん。

 君も人のこと言えないから。

 なんで生理周期RPなんてしたの?」


「ん~、暇だったからッスね」


「・・・・・・そっか~。

 まあ、暇だったならしょうがない」


「一体どうやって生理周期確認したんスかね。

 一ヶ月以上ストーキングされて発言チェックされてたとかだったら怖いんスけど」


「あ~、どうだろう。

 リアル元帥って確か、大学院生で機械学習とか研究してたから、

 なんかそれっぽい自動マクロ作って仕込んでたのかもね~」


「へ~、あの人変態なのにそんなこと出来るんスね~。

 変態に技術を与えた結果、ってやつッスね」


「まあね~。

 まあそういうわけで四号ちゃん、今日は変な用事で呼んじゃってごめんね~。

 元帥が下半身直結厨なのは知ってたけど、まさか四号ちゃんにまで夢見ちゃうとは思わなかったよ」


「・・・・・・下半身直結厨スか。

 いやー、リアルで狙われるとキモいもんッスね~。

 俺がもしリアル女だったらと思うとゾッとするッスね」


「そうね。

 元帥はレギオン戦の指揮能力は確かだけど、アレが欠点なんだよな~。

 僕もなるべく被害者ださないように、うちの軍団所属で元帥の性癖に刺さっちゃいそうな女キャラがリアル女っぽかったら、自衛のために男キャラに作り直すよう指導してたんだよね。

 そのおかげか今んとこリアル女性の被害者は無いみたいだけど」


「へ~、そんなことしてたんスね。

 変な上司持つと大変スね、旅団長は。

 でもそうするとうちの旅団、実はネナベ多いんスか?」


「うん、まあね。

 僕の固定パーティーのメンバーなんて、僕以外全員ネナベだし」


「うわ~、ネナベハーレムっすか、旅団長のパーティーは。

 でも旅団長は別に誰とも付き合ってないんスよね?」


「うん、僕はネトゲで出会った相手と恋愛する気は、無いかな。

 でも僕はそうでもなかなか相手はそう思ってくれないんだよね」


「・・・・・・というと?」


「実はパーティーメンバーから言い寄られたのが今月だけで3件。

 好いてくれるのは嬉しいけど、みんないい子だから特定の相手とか決めたくないんだよね。困るよ~」


「ふーん・・・・・・

 モテる男はつらいんスね・・・・・・」

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