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燃え狂いの四阿

  

 メティスが教壇に立ってから1ヶ月ほど経った。


 この頃になるとメティスは時間いっぱい詠唱のように魔導歴史学Ⅱを諳んじるだけで、板書すらもしなくなっていた。

 教室が静かなのはローゼンフィニアとその取り巻き達が授業をボイコットして不在だからである。

 ほかの学生達は、ある者は他の講義の課題に専念し、またある者はメティスが言い間違わないかと、必死に魔導歴史学Ⅱの教本を目で追った。

 

 今日も最後列中央に腰を下ろすリスティはどちらかと言うと前者で、魔導歴史学Ⅱの教本を開きながら、まったく別のことを考えていた。それはもう入学して以来ずっと考え続けていることなのであるが・・・


「あのっ!!よろしいでしょうかっ!」


リスティの思考がまた堂々巡り3週目に突入したところで、そんな鋭い声が先頭列付近で上がった。


「なに」


 メティスが言葉を止めると。


 先頭列から3列目中央からやや左寄りの学生が勢いよく立ち上がった。


 端正な顔立ちと、特注品と一目でわかる細縁の魔造眼鏡、ブルーマリンの長髪の上に鹿の銀細工を施したヘアバンドをした彼女の名前は現在クラスの主席であり、このセントローズリーフ魔導学院理事長の孫にあたるローズリーフ・K・エリティンピヨーテであった。


「先生、教本を諳んじるだけではなくて、ちゃんと講義をしてください!」


 メティスはそんな彼女の抗議ともとれる発言をまるで意に介さずといった様子で、再び教本を諳んじはじめた。


「あの、私のこと無視しないでください!!」


 語気を強めるエリティンピヨーテのそれは、ローゼンフィニアのそれとはまるで違っていたが、とりあえず教室内に緊張感が走ったことは走った。


「私の講義の邪魔をしないで」


 またしても意に介さずとメティスは涼しげな顔で冷ややかに告げる。


「これのどこが講義なんですか。ただ教本を音読してるだけじゃないですか!確かに、先生の記憶力のすごさはわかります。ですけど、歴史の講義なのだからその出来事の時代背景や裏側など、教本に記されていない部分を教養として教えてくださるのが…その…本来の講義の在り方ではないでしょうか…と私は思います…」


 メティスの冷ややか眼差しにエリティンピヨーテは声を次第に小さくしながらも、言いたいことは言い切った。


 そして、このエリティンピヨーテの言い分に関して、メティスもその通りだと納得したので、正直なところぐうの音もでなかったのである。


「・・・これが私のやり方よ。興味があるのなら自分で調べることね」


 教員とは?そんなそもそもな疑問を教室全員の学生に抱かせるメティスの発言に、エリティンピヨーテは力なく机に突っ伏すとしくしくと鳴き声を漏らした。


 我ながら理不尽なことを言ったとメティスは思った。胸が痛んだが、これもこれとて専任研究員に戻るための布石なのだと自分に言い聞かせ、暗唱を再開した。


 メティスは連日考えた。


 メティスが想像していた以上にあの全裸なにがしの復帰が遅く、1ヶ月経ってなおその目途もたっていない。そろそろ研究に専念したい。かと言って、自分で蒔いた種であるから、自分から辞するわけにもいかない。

 となれば、第三者から辞職を勧告される必要がある。


 つまりはクビである。


 元々、教員ではないメティスが教職員不適格者としてクビにされたところで、メティス本人はどうと言うことはない。

 

 そして自分の受け持つ教室には学院理事長の孫であるエリティンピヨーテが在籍している。

 

 そこでメティスが考え出したのが、学院長の孫であるエリティンピヨーテから直接学院理事長へ不満を通すことであった。


 なんて不器用な方法だろうか。




 

 


 


 

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