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《紫色編》24話:――


6月の第1日曜日。


既に春の気配はなく、今日は冬に向けての準備とばかりに肌寒い日になった。来月には雪でも降ってきそうだ。


「ここに帰ってくるのも一ヶ月ぶりか」


ぽつりと呟く。


目の前にそびえ立つのは愛しき我が家。高層マンション。メゾンドへヴン。


俺は帰ってきた。


マンション中へ入りエレベーターで最上階を目差す。


……赤子――。


不意に赤子の姿が脳裏を過ぎる。


ここに戻ってきて、まず始めに考えたのは一応幼なじみの末継赤子のことだった。


赤子は今どうしてるのか、どうなっているのか、想像してみるが、明確なイメージは思い浮かばない。


突然、いなくなった俺を心配してくれているのだろうか?


まあ、あってみればわかるか。


部屋に戻る前にあいつの部屋に寄ってみよう。


そんなことを考える間にエレベーターは最上階に到着していた。


エレベーターから降りて、通路を通り俺の部屋の隣の部屋へ。


標識には簡単に末継赤子とだけ書いてあった。


俺はチャイムなし、ノックなしで、その部屋の扉を開ける。案の定、鍵はかかってない。


相変わらずの女子高生とは思えない質素な部屋。明かりはついておらず、カーテンも閉まっているので、真昼間だっていうのに部屋の中は薄暗い。


留守かとも思ったが、部屋には確かな人の気配がある。ベットを見ると、布団が人の形に膨らんでいた。


「寝てんのか?」


聞こえるか、聞こえないかの微妙な声量で呼びかけるが、反応なし。顔を覗き込んでみると、予想通り赤子は眠っていた。


ぐっすりと眠っているようで全く身じろぎせずに、静かに眠っている。かわいらしい寝顔だ。


起こすのも悪いと思って俺は赤子の顔に落書きだけして退室した。


後で、また来よう。


赤子の部屋を出て隣、今度は自分の部屋に入る。


愛しき我が家も相変わらずで、なにもない。部屋の隅に布団がちょこんと畳まれてるだけだった。


でも、なんだろうか。


凄く安心できる。心が安らいだ。


俺はフローリングに仰向けに寝転んで上を見上げる。病室のような白い天井だけが目に映った。


改めて、考える。


俺がこれからしなければならないことを。



――約束……。



それは俺が志す誓いであり、俺を縛る呪いだ。


思い出さなくてはならない。誰との約束だったのかを。


どうやったら思い出せるんだろうか?


わからなかった。まったく。


だけど、わからないからと言って諦めるなんて論外。何がなんでも俺は思い出す。


それに、手掛かりはなくもない。


時たまにあった、記憶の綻びだ。よく、思い出せ。


引っ掛かりを感じ始めたのはいつからだ?俺は何処で引っ掛かりを感じた?


思い浮かんだのは一つの言葉。



――紫の鏡……。



あれは確か1ヶ月前ぐらい。青夜と二人っきりになる一週間ぐらい前のことだ。


前触れなく俺の記憶の中に埋め込まれた言葉。何を意味しているのかさっばりわからない意味不明の言葉。


なんでも、その言葉を覚えていると死ぬとかなんとか。


明確な違和感だったから一ヶ月たっても覚えてる。唐突に、なんの前触れなく俺の記憶の中に現れたんだ、そうそう、忘れられない。


「……?」



――前触れなく……?



本当に何の前触れもなかったのか?


一般的に記憶を思い出すために必要なことは、その記憶に関係あるものに触れて行くことが主流だ。


だが、俺の場合は失ったものが漠然としすぎているから、その失った記憶と関係あるものが何なのかわからない。


ならばどうするか。


面倒臭いが失った記憶に関係あるものを捜すことから始めるしかない。


それが、手掛かり。


記憶を失った原因は何か?


おそらく、俺が記憶を失ったのは『紫の鏡』この言葉が記憶に現れた時だ。


違うかも知れないが、これはイコールで結んでしまっていい気がする。とりあえず今のところはそうしておこう。違うんだったら改めて考え直せばいい。


失った記憶の変わりに、この言葉が現れたのか?


それとも、この言葉のせいで、記憶を失った?


いや、何かまったく別の二つの要因がたまたま重なった可能性も考えられなくはない。


「……ふう」


ダメだな。考えがまとまらない。考えなければいけないことが多過ぎる。


考えれば考えるほど、わからなくなる。


「うみゃああかあかかあああああああああああうあおいあああああああああ!」


とりあえず、奇声をあげてみた。溜まったら発散させないと。気分転換、気分転換。


「うっさいッ!なに、奇声あげてんのよ!?近所迷惑でしょッ!」


途端、扉をぶっこわさんばかりの勢いで、赤子が部屋に飛び込んできた。


「おお、赤子。久しぶり」


「まったく!あんたは毎回、何考えてんのよ!うっさくて寝てらんないじゃない!奇声をあげるにしても時間帯を考えなさいよね!今何時だと思ってんのよ!?」


「もう午後の2時で、お日様ピカピカのいい天気だ」


「なーに、言ってんのよ!絶賛深夜じゃない!」


さて、これは寝ぼけてるのか、本気で言ってるのか微妙なとこだな。


「意外と元気そうだな。おまえ」


「元気もなにも。生まれてこのかた病気になんてなったことないわよ」


「嘘つくな。初めて会った時、おもいっきり風邪ひいてただろ」


「あれは物語り展開上の都合であって、ホントは風邪なんかひいてなかったのよ。私はいったって健康!健全!」


また、身も蓋も無いこと言ってるなぁー。


「まあ、元気でなにより。安心した。てっきり、俺の失踪で、淋しさのあまり、げっそりしてるんじゃないかと思ったのにな」


ちょっと、複雑な気分。


「馬鹿じゃないの?恵と私は幼なじみって言っても、まだ、一ヶ月前に出会ったばかりで、2、3日しか一緒に過ごしてないのよ?そんな、付き合いの浅い相手がいなくなったからって私の日常にはたいした問題にはならないわよ」


普通に考えれば、それもそうだな。


でも、


でも、こいつは変に意地張るところがあるから。


ほおっておくと穴が空くだろう。。


少し、空気を抜いてやらなくちゃダメだな。


「なあ、赤子」


「なによ」


「俺はここにいるから」


「だから?」


「ちょっと、顔洗ってこい」


「な、なんでよ!?」


俺の一言に赤子はあからさまに動揺してみせる。


「はっはー。それは鏡を見てからのお楽しみだ」


「べ、べつに大丈夫よ!顔なんか洗わなくても問題ない!ましてや、鏡を見る必要なんかない!」


「俺がさっき、寝てるおまえの顔にペンで落書きをしたって言ってもか?」


きっと、今の俺は気持ち悪いほどニヤニヤ笑ってるだろうな。


「な!?」


途端に赤子はだっしゅで俺の部屋から飛び出していく。


しばらくして。


隣の部屋から赤子の馬鹿みたいにでかい笑い声が聞こえてきた。


紫色編も灰色編に負けず劣らずのわけのわかんない展開になってきました!自覚してるなら起動修正しやがれって話しですが、もう、突っ走ります!なんかテンションが変な方向にハイに!今後、《本編》は読者様の望む展開にはならない気がしますが、それでも、よろしければお付き合いくださると嬉しいです。

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