《紫色編》22話:サブタイトルは所詮サブタイトルでしかない
「なあ、せい――」
「それじゃ、だーめ!恥ずかしいのはわかるけど、ちゃんと名前で呼んでくれなきゃ、いーやー!」
青夜は頬を膨らませて、知ーらないっ!って感じにそっぽを向いてしまう。
「じゃあ、ゆかり」
「なーに?」
俺が名前で呼ぶとうきうきと陽気な笑顔で返事をしてくれる。
「ここはどこ?」
「私と恵の愛の巣」
「この首輪と手錠は?」
「一つの愛の形」
「今更だけど俺はなんで監禁されているんですか?」
お仕置きだ!と言われ、不覚にも昏倒させられた俺は青夜に監禁されていたのだった。
「だってぇー!恵ったら私以外の女の子といちゃいちゃするんだもん!恵は私だけのものなのに!恵には私だけを見ていてほしいのに、私だけを愛してほしいのにぃ!だ・か・ら!恵と私はここで死んでも一緒にいるの!安心して、恵のお世話は全部私がしてあげちゃうし、生活費だって私が全部稼いじゃうんだから!嬉しい?あ、言わなくても大丈夫。わかってるよ。もちろん嬉しいよね!恵は私のことが一番好きなんだもんね!」
「……」
絶句。まさか、まさかのこんな展開……。これが噂のヤンデレってやつですか?
その前に、こいつ本当に青夜なのか?まったくの別人じゃねーか。
「そもそも、おまえ、そんなキャラでしたっけ?」
「恵ぃ、何言ってるのよー!ゆかりっちは素からこんなんだったじゃなーい!」
「実は双子の姉妹オチ?それとも二重人格ってやつっすか?」
「ゆかりっちは一人っ子だし、二重人格だなんてわけわかんないやつじゃありませーん!とゆーことで!早速、子作りしよっか!」
「そうだな。特にやることもあるわけじゃないみたいだし、ここは一発、子作りでもするか!」
「私ねぇー、今日は危険日なんだ!だから、なかにだされたらきっと子供出来ちゃうよ!たーっぷり中にだしちゃってね♪」
「HAHAHAHA!じゃぁ、今日はパパ頑張っちゃうぞー!俺とゆかりの子だ。きっと女の子で、ありえない程の美少女になって「わたしおとーさんのおよめさんになるー」なんて言ってくれるような娘で、ゆくゆくは本当に俺のお嫁さんになってくれるような、凄い良い子に育つはず!つーか、育てる!俺以外の男には目もくれないような一途で純情可憐なパパ大好きッ娘に育てる!ゆかり!さあ、やろう!今すぐやろう!子供をつくろうじゃないか!」
若林恵の歪んだ欲望が暴走する!俺は今18歳だから、娘が生まれるのが来年だとして、歳の差は19。大丈夫!いける!
「うーん……恵はちょーっと意識改革が必要なようねー」
「ああ?意識改革?わけわかんねーこといってねーで、とっととヤラせろよ!糞女!」
「さあ!お待ちかねのスーパーゆかりっちターイム!あなたを私色に染めちゃうんだからん!主に紫色ね!」
「ごちゃごちゃいってねいぎゃああああああああああああああああ!ちょ!何するんすかっていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!ま、まって!やめて!そんな無理だって!勘弁しうきゃああああああああああああああああぁぁぁ!」
――1週間後……。
青夜の調教な毎日。俺の過去のトラウマが蘇り、年上巨乳嫌いに拍車がかかったのはいわずもがな。
俺は精神面でがっつり窶れていた。7年前に経験した美羽子姉様の調教の時とは違い、今回は俺の心を支えてくれる存在がいなかった。
あの娘がいない。
……ん?……あの娘?
俺は誰のことを考えてるんだ?
「……恵?どうしたんだ?そんな難しい顔をして」
「え?」
不意に青夜が俺の顔を覗き込んだ。
「どこか悪いところでもあるのか?」
どこか不安そうに俺を真っ直ぐに見詰める青夜。
堅苦しい口調からして今は表のようだ。
通常時は堅苦しい口調で、調教時には砕けた口調になる青夜。俺はそれぞれ通常時を表、調教時を裏と呼びわけることにしている。
表と裏では、それぞれ対応の仕方が変わってくるからだ。
「いや、なんでもないですよ」
「そうか?でも、何かあったらすぐに言うだぞ。恵のためなら私はなんでもするから。遠慮せずにどんどん頼ってくれて構わないからな」
「それなら外に出してくれませんか?」
「それは駄目だ!恵、君はわかっているのか!?外は駄目だ!危険がいっぱいなんだぞ!外では何が起こるかわからない。いつ危険に晒されるとも知れない、危険地帯に君をいかせるわけにはいかない!外は危険だ。だけど安心してくれここにいれば安全だ。私が君を命に変えても守る。だから、君はここで私と死ぬまで一緒だ。一緒に幸せになろうな」
青夜は優しげに笑って見せてくれる。普通の男ならその微笑みで一瞬にして骨抜きにされるであろう、破壊的な一撃。
でも、俺はその奥に潜む狂気を知っている。ガクブルはするがメロメローンにはなりはしなかった。
俺は一緒をここで終えてしまうのだろうか?
外に出たいなー。