3話:委員超は委員超であって委員長ではないなんてことはない?
一時期、ゲームのタイトル画面に出て来る横文字で書かれた、プッシュスタートをプリーズスタートだと勘違いしていたことがあった。
あれ?逆だっけ?
そんなわけで横文字に極端に弱い俺は大変なピンチに陥った。
5、6時間目は2時間続けて英語と気違いと言いますか気違いと言いますか……地獄以外のなにものでもなかった。
まあ、丸ボタン又は右クリックを一回ポチッと押すだけでたちどころに放課後へと場面が変わるわけなんですけどね。
便利な世の中になったもんだぜ。
ギャノレゲー最高!
そんな訳で放課後。
一日が終わったという開放感に俺は席に着いたまま暫く放心していた。
なんてゆうか、この一瞬、一瞬が幸せです。
「ワカメ」
「あぁん?」
席を立った肱岡は俺の席までやって来て話しかけてきた。
「どうかしたんですか?肱岡さん」
「どうかしたって……ワカメ、昼休みに放課後、話があるっていったでしょ」
「過去の話ですね。俺は今を生きてるんです。過去のことなど、これっぽっちも覚えてませんね」
「昨日はお昼ゴハン奢ってくれてありがとう」
「何いってるんですか。あれは奢ったわけじゃないでしょ。借金になってますよ借金に。きっちり525円返して下さい」
「過去の話ね。私は今を生きてるの。過去のことなどこれっぽっちも覚えてないわ」
「それで話って何ですか?借金は払えないから身体で返すって話ですか?」
「あら。それでいいの?私は全然それで構わないわよ。まあ、初めてだけどワカメならいいわよ」
なんて悪戯っぽく笑いながら肱岡は言った。
「なっ!?え、あ、ちょ……!」
「あっ、間違えたわ。ワカメ『なら』いいじゃなくて、ワカメ『が』いいだったわ。それじゃあ、今夜ワカメの家に行くから身体洗って待ってなさい」
「……えーと、なんてゆうか……お、おまえは525円とか、そんなに安くはないだろ!もっと自分の身体を大切にしてあげなさいバキャモン!」
「フフフ、そんなに慌てちゃって、顔真っ赤だけどどうしたんですかーワカメくーん」
「べ、別に慌ててなんていないんだからね!」
「そんなに無理してるからこんなことになるのよ」
「……おまえだって無理してるでしょ」
「どうかしらね」
そういってニッコリ微笑む肱岡は可愛かった。
しっかりやられた……。
肱岡は昼休みの事を大分、根に持っていたようだ。
俺は守りに入ると本当に弱くなるな、まったく……。
「借金の話は取り敢えず置いといて――それで、肱岡さん。話って何ですか?」
今のままで行けば傷口がどんどん広がりそうな気がするので話を逸らす。もとい本題に入る。
「ん、そのことなんだけどね。」
肱岡もいつ足を掬われて立場が入れ代わるともわからない、ハラハラドキドキ夢いっぱいの話をほじくり返すつもりはないようだ。
それともただ単に本題に入りたかっただけか?
まあ、どっちでもいいんですけどね。
「ワカメは確か一人暮らしだよね?」
「ええ、確かに一人暮らしですけど……それがどうかしたんですか?」
「それなら問題ないわね。そういうことでワカメ、今日から暫くワカメの家に泊まるから」
「宿泊代、食費諸々混みで一泊1000円で」
「それは身体で――」
「まてえい!!!そのくだりを掘り返すのはやめ!!!冗談だって冗談!金なんてとらないって!」
「それはそうと、ワカメあんたそもそもね話題の着眼点がおかしいんじゃないの!?いきなり宿泊代どうのこうのじゃなくて、なんで私がワカメの家に泊まるのかとかそういうのは聞かないの!?」
「それは肱岡さんが俺のこと――」
「黙れえぇぇぇえ!!!!!この糞ワカメがあぁぁぁあ!!!!!なんであんたは主人公のくせに鈍感じゃないのよ!!!いつ!?いつなの!?あんたはいつ私の気持ちに気付いたって言うの!?」
「はい?一体なんの事言ってるんですか?俺はただ肱岡さんが俺のこと留年させたくないから委員超として俺の生活態度を改めるために暫く泊まるって事じゃないんですか?」
「……………………あ」
「それに私の気持ちって――」
「バ、バカあぁぁあ!!!!!忘れろ!忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ!忘れろおぉぉぉお!!!!!私何にも言ってないからあ!!!」
ヒステリックを起こしてところ構わず暴れ狂う肱岡。
「ちょ、肱岡さん!落ち着いて!」
「……ハッ!?私としたことが――――スイマセン。軽くゲシュタルトが崩壊していたようです」
俺の声が届いたのか取り敢えず落ち着く肱岡。しかし、ゲシュタルト崩壊って……自分が誰だかわかんなくなってたのか?
……この話題に触れるのは止めておこう。ストーリーの進行上の問題としてもそのほうがいい気がするしな。
「それで、肱岡さんが俺の家に泊まる理由はさっきの通りでいいんですか?」
「はい、それであってます。しかしワカメはなかなか鋭いわね」
「まあ、委員超がなんの脈絡もなしにそんなこと言い出すとは思えませんし。理由なんて少し考えればわかりますよ」
「ん、流石ね。それで泊まっても大丈夫よね?」
「はい、俺としても留年は嫌ですし。かといって朝、一人で起きるのは不可能ですし。はっきりいって助かります」
「感謝しなさい」
「ありがとうございます」
「よろしい」
そういって二人笑いあった。「それじゃあ準備して……そうね……6時頃に行くわ」
「肱岡さん俺の家の場所わかるんですか?」
「昼休みに姫ちゃんに聞いたわ。大変だったわよ姫ちゃん意味もなく駄々こねるから昼休みまるまる使ってやっと聞き出したんだから」
姫ちゃん?ああ、田中か、そういえばみんなからそんな風に呼ばれてた気もする。あれで姫ちゃんか……存在に似合わずかわいらしいあだ名だな。あれをそんな呼び方で呼ぶのは俺は死んでも嫌だがな。
しかし、田中に聞かなくても直接、俺に聞けばよかったんじゃないか?とは思ったがどうでもよかったので口には出さなかった。
「それなら問題ないな。俺は先に帰って部屋の掃除でもすることにします」
「まあ、がんばりなさい」
ニヤリと笑う肱岡。
さて、こいつはどんな想像をしているのだろうか?ベットの下のピンクの雑誌とかか?
残念だが。俺にはそんな雑誌を買う勇気はないので悪しからず。
買う勇気がないだけだ。
買う勇気がね。
――――まあ、別にそんな見られて困るものなんてナインデスケド。いろいろ隠さなきゃならないものもあるのもまた事実だったりするわけで。
早く帰ろう!
「それじゃ!肱岡さんまた後で!」
「フフフ、狭い日本そんなに急いでどこに行く?」
相も代わらずニヤニヤな肱岡。俺はそんなニヤニヤな肱岡を無視してダッシュで帰路を駆け抜けるのだった。
取り敢えず急げ!!!
『ワカメと悪魔』というよりは『ワカメと委員超』とタイトルを改めた方がいいのかもしれないなんて考えましたが……そんなの関係ねぇ!まだしばらく悪魔が出てこないと思いますが……何とかなると信じ頑張っていきます!