《灰色編》20話:さっきの敵は今日の友。これからよろしくお願いします
「貴女は一体なにを考えて、どの口がそんな阿呆なことを言ってるんですか?知ってますか?寝言は寝てる時に言うから寝言なんですよ」
「きょーちゃん」
「なんですか?」
「先程も聞きましたが、もう一度聞きますわ……きょーちゃんの目的はなんですの?」
美空はお気楽な笑顔を引っ込め改めて鏡花を見詰めると、矢継ぎ早に話を続ける。
「と、その前に――隠す必要もありませんし、折角なのでワタクシの目的を教えて差し上げますわ」
「隠す必要がないのにさっき聞いた時は教えてくれなかったじゃないですか」
「それはその場のノリと空気にしたがったまでですわ。それっぽくて良い感じでしたわよ」
「はあ……。……この際そんなことはどうでもいいですから早く話しを進めてください」
鏡花は肩を落として大きな溜め息をはいた。
「それで貴女の目的はなんなんですか?」
「ワタクシの目的は単純にめーちゃんと一緒にいること。そのために『灰星』をつぶすことですわ。実を言うとワタクシはあまり気が長いほうではないんですわよ。奴ら、ワタクシが手を出せないのをいいことに調子に乗りすぎましたわ。いい加減に我慢の限界なんですの。もう七年も我慢したのですから十分ですわ」
『灰星』それは鏡花にとって日常茶飯事よく聞く名称だった。
『灰星』はこの国の人外駆除を名目とする組織である。組織の構成は裏の世界の名家である早川家を始め、肱岡家、藤田家の三家を中心とし大小様々な集団が入り混じり一つの大きな組織として成り立っている。勢力はこの国最強にして最大。この国の有害な人外の駆除を一手に引き受け、その圧倒的な力で裏の世界の秩序を保っているのが『灰星』である。
「それで灰星を潰すために幹部である私を篭絡しようということですか?」
「それは、ちょっと違いますわ。ワタクシの手に掛かれば灰星程度の組織を潰すのに一晩かかりませんわよ。わざわざきょーちゃんの力を借りる必要はありませんわ」
美空の発言に流石の鏡花も面食らった。
――この国最強の灰星を一晩で、それもたった一人で潰すだなんて……。
いくらなんでも無茶苦茶だ。そんなこと出来るはずがない。
「一昔前ならいざ知らず。ここ最近の灰星はただのゴミ屑以下の存在に成り下がってます。それは幹部であるきょーちゃんのほうがよくわかりますわよね?いくらきょーちゃんのような手練れが数人いようと今の腐敗しきった灰星を潰すのは簡単ですわ。ワタクシの足元にも及びません。奴らはここらへんが潮時なんですわよ。ワタクシは今週中に灰星をこの舞台から退場させますわ。そのためにはきょーちゃん…貴女の協力が必要不可欠なんですの」
美空の表情、口調に嘘、偽り、はったりは見受けられない。
美空は本気だった。
「その発言はどう考えても灰星の幹部にいうことじゃないじゃないんですか……?仮にも灰星を一人で潰せるであろう貴女が私になんの協力を求めるって言うんですか?それと貴女は何故、今まで簡単に潰せる灰星を潰さずに七年も我慢していたんですか?だいたい貴女の言ってることは抽象的過ぎて肝心の灰星を潰す理由がよくわかりません。何故ワカメと一緒にいることと灰星を潰すことが関係してくるんですか?」
鏡花の口からは矢継ぎ早に美空へ質問が浴びせられる。
不明瞭な点はあげればきりがない。
「始めに言いましたが…きょーちゃん。ワタクシは貴女とお友達になりたいんですわ。灰星幹部のきょーちゃんではなく、一人の女の子としてのきょーちゃんとお友達になりたいんですわよ」
「一人の女の子として……?」
……どうゆうことだろうか?だんだん話しが見えなくなっていきた。
「きょーちゃんにはめーちゃんの『首輪』を外すための『鍵』を拝借してきてほしいんですの」
「ワカメに『首輪』?それに『鍵』って……。貴女はいったいなんのことを言ってるんですか?」
鏡花には美空がなんのことを言っているのかさっぱり検討がつかなかった。
『首輪』それに『鍵』。
そして、その二つの単語が関係するワカメ。
――こいつはワカメのことで私の知らない『なにか』を知っている……?
「そうですわねぇ……。それも含めて最初から順を追っ手説明しますわ」
「その前に、ここでは何かと都合が悪いですから、場所を移しましょう」
「フフフ。それはどういった風のふきまわしですの?」
美空はニヤリと意地悪気に笑う。
「どうもこうもありません。貴女の目的は今だによくわかりませんが、貴女の目的はおそらくワカメのためになるだろうと予想できました。それなら私にとって貴女はもう敵ではありません。少し前から私の優先順位は二位に兆単位の大差をつけてぶっちぎりでワカメが一番です。ワカメのためになるなら、この際、貴女がなんであろうとしったこっちゃないですね。たとえ、それが灰星を裏切ることになろうともね」
理由はなんであれ、目的はなんであれ。美空の行動の根本にあるのはおそらくワカメだ。鏡花はそれを理解した。
――それならば……。
鏡花は自分自身にした約束を思い出す。
それは誓いであり、呪いだ。
私は私が幸せになるために。
「ホワイトシルバー……――。いや、美空さんと呼んだほうがいいですか?」
「出来ればみっちゃんで」
「わかりました。それではみっちゃん」
「フフフ。なんですの?」
美空は相も変わらずニヤニヤと笑っている。
「一人の女の子としての私と友達になりませんか?」