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《紫色編》19話:それはどうやら外国産の若布だったらしい



――次の日――。


今日は土曜日なので学校は休みである。


思い返すと今週は大変な一週間だった。


月曜日は元担任である田中に「おまえ、次、遅刻したら留年な」なんて言われたり、お昼に財布を忘れたおちゃめな委員超の昼飯代を立て替えてあげたり――そういえば、まだ返してもらってないな……。


火曜日は理由はなんだったか忘れたが遅刻は免れ、首の皮一枚で留年を免れたり、委員超が俺の部屋に泊まりにきたり、お隣りさんの赤子と幼なじみになったりと、大変な一日だった。


水曜日は赤子と同じベットで目覚め(間違いはありませんでした)、泊まりに来ていたはずの委員超が忽然と姿を消し、そして、俺はやっぱり学校に遅刻して留年が確定。俺はそんなの嫌だからとコメディ的ご都合主義パワーで無理矢理に転校した。


そして、木曜日。俺は秋祝高校に転校、元から秋高の生徒だった赤子と同じクラスになった。そこで、初っ端、俺はクラスの男子どもを敵に回し、さらには赤子と仲が良いといった理由で秋高の在校生の三分の一を締める赤子信者も敵に回した。そんでもって、そいつらに逐われ裏通りの妖しい喫茶店アロマに逃げ込み、そこのオカマ店長シンディと知り合い……


――そして、俺はアロマの常連であり、秋高三大美少女の一人である『青夜ゆかり』と出会った――。


それで金曜日、つまり昨日は、一日中、赤子信者どもを撃退、疲れたら逃走を繰り返していた。帰宅してからは赤子と一悶着あったぐらいであった。


やたら滅多にイベント盛り沢山だった五月の初めの週だった。


それと、もう一つ。


あまり触れないようにしていたのだが…三日前の朝から、ある言葉が頭から離れなくなっている。


『紫の鏡』


赤子の話では都市伝説の一つでその言葉を二十歳まで覚えていると死んだり、不幸になったり、結婚が出来なくなったりするらしい。


所詮は都市伝説だと気にとめる必要もないと言えばそれまでだが…この世界は非常識こそ常識だ。ありえないことだからこそありえる世界。


実際にありえないことは既に興っている。俺がこの紫の鏡という言葉を知っている事がすでにありえないことだ。


俺はこの言葉を水曜日の朝に至まで一度たりとも聞いたことはなかった。一度たりともだ。実は昔に聞いたのだが忘れた、なんてこともない。それならばその言葉が思い浮かんだ時点でどこかに引っ掛かりを覚えるはずだ。いくら忘れてたといっても記憶の残骸は必ずある。


それなのにも関わらず俺はこの言葉を知っているのである。


ありえないことだ。


あるのかも知れないが今はありえないことにしておく。そうじゃなきゃ話が進まなくなる。


……ということで、俺はこの『紫の鏡』という言葉が気になって、気になって、仕方がないわけである。


そんなわけで今日は図書館に『紫の鏡』について調べに行くことに決定!


ちなみに言っておくが……決して俺は青夜とか赤子のことについて考えたりなんだりとするのが面倒臭いから、紫の鏡を調べる!なんて名目で現実逃避しようとしているのではないからな!





図書館での調べ物も一段落して、ふと時計に目をやると十四時を回っていた。


――お腹、空いたな……。


俺は調べ物を切り上げて最寄りのファミリーレストラン――所謂一つのファミレスに向かった。


「いらったいませー!」


舌足らずなウェイトレスに迎えられファミレスに入る。


ファミリーレストランなのに一人で入るとはこれいかに……赤子でも誘えば良かったかな、と考えすぐにその考えを取り消した。


赤子が出て来るとまた一悶着あるのは間違いない。調べ物で良い感じに現実逃避が出来ているのにわざわざ自分で現実に帰還する必要もない。触らぬ髪に祟り無し!


「おきゃくたまはおふたりでよろちぃでちょーか?」


聞き取りずらい……かわいらしくていいんですが、接客には向いてないんじゃないか?


「それではこちらに」


お、今度はちゃんと言えた。


若干関心しながら、舌足らずなウェイトレスに案内され店の奥のテーブル席に腰掛けた。


「それではごちゅーもんがおきまりになりまちたら、およびくだちゃい」


舌足らずなウェイトレスはそう言いメニューを二つ、おしぼりを二つ、お冷やを二つ残して引っ込んだ。


……あれ、なんで二つなんですか?


視線を目の前――テーブルを挟んだ向かい側の席に向けるとそこにはちょこんと、金色のウェーブのかかった長い髪、宝石のような蒼い瞳をした外国産の娘が一人座っていたのだった。


「私はディレシア、よろしく頼むぞ」


――ディレシアか、どこかで聞いたことがあるような……?


「あ、えーと…俺はワカメだ。よろしく」


「ふむ、ワカメと申すか。なるほど、親近感がわく名前じゃな。私もヘアースタイル故か、よくワカメ女とからかわれたものじゃ」


確かに目の前のディレシアと名乗った少女の髪型は茹だっていた。


「同志よッ!」


「うむ、同志じゃ!」


がっちりと腕を組む俺とディレシア。ここに新たな友情が生まれたのだった。





「おまたちぇいたちまちた。ナポリタンのダブルサイズ、こなチーズおおめになりまちゅ」


「うむ、それは私だ」


ディレシアは舌足らずな店員から料理を受け取る。


……さて、なぜ、俺は見ず知らずの外人さんとごくごく普通にお昼ご飯をご一緒しているのだろうか?……まあ、細かいことは気にしない方向でいこう。


「うむ、やはりすぱげてぃはなぽりたんが一番じゃ。こなちーずが効いていて美味じゃのう」


ディレシアはナポリタンを器用にフォークで巻き取り口に運んでいく。一口ごとに感想を漏らしていた。


ちなみに俺が頼んだのはミラクルデラックスミスティックアクティブパフェで、このファミレスの名物であり迷物だ。


その量といったらディレシアが食べているナポリタンのダブルサイズ(どのスパゲティーでもプラス300円で普通のサイズの2倍になるサービス)の裕に3倍強。見た目ただのチョモランマのパフェだ。


とにかくでかい、そして無敵に美味い。その美味さといったら一口でも食べてみればわかる。天国が見えるのだ。比喩表現無しで本当に見えるのだ。


そしてなにより、数々のお客を病院送りにするほどの中毒性。一度食べれば、もう、後戻りは出来なくなる。もう、食べたくて、食べたくてしかたがなくなる。


みんな大好き、ミラクルデラックスミスティックアクティブパフェ。通称MDMAパフェである。


俺はそのMDMAパフェをスプーンでひと掬いして口に運ぶ。


「あぁ……えくすたしぃ……」


花畑が見えた。流石はMDMAパフェだ。


「ワカメ、おまえは先程は図書館で何を調べておったのだ?」


不意のディレシアの声で俺は現世に帰還した。


「んぅ……?ああ、それはな紫の鏡っていう都市伝説について調べてた」


「ふむ、紫の鏡か…それでどうだったのだ?」


「んー……まあ、ぼちぼちだな」


結局、図書館で調べてはみたもののこれといった成果はなかった。


紫の鏡の話しはあまり有名な話しではないらしく『日本民話集』とか『民話百撰』みたいな本にちらっと出て来るだけで詳しいことはあまり記載されてはいなかった。


それでも、だいたいの内容は分かった。地方によって差異はあるが『紫の鏡』『パープルミラー』などの言葉を二十歳まで覚えていると『不幸になる』『鏡の破片に全身を刺されて死ぬ』『結婚できない』といった不幸が降り懸かるという、なんとも物騒な内容だ。


話の導入部も差異はあれど有名なのは、少女がお気に入りの鏡に紫色の絵の具を塗ったら取れなくなる話と、もうすぐ成人式を迎えようとしていた少女が不慮の事故で死んでしまい、その少女の部屋から紫の鏡が見つかった――という話だ。


まあ、導入部にいたっては今回あまり関係ないだろう。


注視しなければならないのは、この言葉を二十歳まで覚えていると不幸が起こるという紫の鏡の意味だ。


何故、俺は今回、今まで一度足りとも聞いたことのなかった『紫の鏡』という言葉がひらめくように出て来たのか?


もし、ある日、家に帰るとそこに見知らぬ荷物があったとして、そこから考えられることは、俺ではない誰か他人がその荷物を置いていったと考えるのが普通だ。


今回もそれとしかり、家が俺の頭の中、荷物が記憶とすると、なるほど、納得がいく。自分では解らないことは他人のせいにするのが一番だ。つまりは俺の頭の中は誰かに弄られた可能性がある。


ありえないことではあるが、可能性は否めない。だいたい、この世界でありえないことが起こらないなんてありえない。


まあ、そんな訳で俺は誰かに頭の中を弄られて、『紫の鏡』という言葉を植え付けられたわけだ。


一体、何故、その誰かさんは俺にそんなことをしたのか?それは『紫の鏡』の意味を理解すると自ずと答えは出る。


ようは何らかの理由で俺に『紫の鏡』という言葉を知ってもらいたい、覚えてもらいたいわけで……それで、それを覚えていると俺はどうなるかと言えば――。


――不幸になる――。


つまり、どっかの誰かさんは結果的に俺を不幸にしたいのだろう。


――と、まあ、こんな感じのことを長ったらしくディレシアに聞かせてやった。気が付くとナポリタンの皿も、MDMAパフェの受け皿も空になっていた。


「――ふむ、人間にしては中々の見解じゃな……」


「あ?なんか言ったか?」


「ふふふ……たいしたことは言っておらぬ、気にするでない」


ニヤニヤと含んだ笑いをみせるディレシア。凄いなんて言ったのか気になった。


「いや、気になる!なんだ、何て言ったぁあ!?」


「何も言っておらぬ、気にするでないといっておるだろう」


この女、絶対はかせてやらぁ!


「ていっ!」


「なぬ!?」


俺は一瞬の隙をついて右手と左手の人差し指をディレシアの口の中に突っ込み、ぐいっと両側に引っ張る。


「ふは?!な、なにをふゅる!?」


「ほーら、ほら、とっとと吐いちまいなよー!」


「ひゃっ、ひゃへほー!お、おまへ!ほんなほほひてただばおわふからにゃ!」


「ヒャッーハッハー!なんて言ってるかまったくわかんねーよ!」


「おはへー!」


ディレシアは俺の指から逃れようとジタバタとするが、俺はそれを許さんとばかりにガッチリとホールドさせて決して開放しない。


「お客さーん!そろそろゲロッて楽になったほうがいいんじゃないっすかぁー!?」


「ふはほほはぁー!!!」


「アーヒャッヒャッヒャッーッ!」


俺は高笑いをあげた、その時だった。


「……おい、恵。君は一体何をしているんだ……?」


「……へ?」


不意にあらぬ方向から声をかけられて振り向くと、そこににいたのは忘れもしないめりっさ美人のあの人――。


「せ、青夜……?」


「ああ、君の彼女の青夜ゆかりだ」


次回は番外編をお送りします。

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