《紫色編》11話:サイクロン掃除機なんて言葉はこの世に存在します
ピンポーン。
場の甘い雰囲気を断ち切るように、第三者の来訪を告げるチャイムの音が鳴り響いた。
「誰か来たみたいだな」
「えーっと…誰だと思う?」
「俺がわかるはずないだろ。俺の部屋ならともかく、ここはおまえの部屋だろ」
「うーん、そうなんだけど…私のコミュニティなんてあってないようなものじゃない。それにもう8持よ。こんな時間に人が来るなんてありえないわ」
ピンポーン。
早く出てこいと急かすように二度目のチャイムが鳴る。来訪者はどうやらせっかちな人のようだ。
ドン、ドン、ドン、ドン。
チャイムを鳴らして間髪入れずに今度はドアが激しく叩かれる。せっかちなうえに過激な性格の方のようだ。
「うっさいわね……恵、とっとと追い返してきて!」
「俺が出ていいのか?もし、おまえの彼氏とかだったら修羅場だぞ」
彼女の部屋のドアを開けたらそこには見知らぬ男、俺ならとりあえず殴る。それから尋問して殴る。次に事情聴取して殴る。そして最後に殴る。
「なに言ってんのよ馬鹿ッ!友達もいないのに彼氏なんているはずないじゃない!とりあえず、あんたが出なさいよ!私、これでも病人よ、あんたはそんなか弱い私にせっかちで過激な奴の相手をしろって言うの!?」
「わかったよ。か弱くて、可愛い、病人の赤子さんの変わりに俺が応対しますよ」
「可愛いは余計よ!」
「余計なはずがあるか!おまえが可愛いくなかったら世の中の女の子みんな、可愛くないわ!」
「……あ、ありがとう」
「やっぱり今の無し、流石に言い過ぎた」
「乙女の純粋なときめきをないがしろ!?詐欺よ、詐欺!よくも騙したわね!この怨み晴らさでおくべーかッ!あんたを殺して、私も死んでやる!」
「そうはさせるか!俺がおまえを殺して、自殺するんだ!」
「恵、これでずっと一緒だね!」
「あはははははははは」
「うふふふふふふふふ」
ドン、ドン、ドン、ドン。
ピンポピンポピンピンピンピンポーン。
「うるせえぞ馬鹿野郎!」
「おせえぇ!とっとと出てこいや馬鹿野郎!」
「む……!?声はすれども姿は見えず、これはどうしたものか」
いい加減、五月蝿かったので勢いよくドアを蹴り開けるが、そこには誰もいなかった。しかし、どこからともかく声が……。
「俺はネタにされるほど背は低くねーよ!てめぇ、ホントは見えてんだろ!」
「あっれー、千亜ちゃん、どうしてこんなとこにいるんだ?」
そこにいたのは紛れも無く、朝、出会って昼に一悶着あった、自称悪魔の超髪美少女、後藤千亜だった。
「名前で呼ぶんじゃねぇ!」
せっかちで過激な奴だ。
「そんでワカメ約束どおり来たぜ。つーわけでてめぇの魂貰っていくからな」
「却下!俺の魂は俺のものだ!そうやすやすと渡せるか!」
たまには、一般的な反応をしてみたがなんかむず痒かった。
「てめぇのものは俺のもの。俺のものは俺のもの」
「ジャイアニズムだと!?」
「つーことで、てめぇに拒否権はない!パコ、パコン!たましーすいとりきー!」
千亜はおもむろに自前の超髪に手を突っ込みガサゴソ。そして、取り出したのはなんの変哲もないサイクロン掃除機だった。
「ただのシャー〇のサイクロン掃除機じゃねぇか!」
「俺としてはヒ〇チのたつまきサイクロンがよかったんだけどな……じゃなくて!これはただのサイクロン掃除機じゃねぇ!青ダヌキのブリーフみたいなポケットの中から掠め取ってきたモノホンだ!」
「嘘つけ!中古の青ダヌキからあの〇ャープのサイクロン掃除機が出て来るはずねーだろ!あと、女の子がブリーフとか言うな!セクハラで訴えてやる!」
「てめぇ案外淡泊な奴だな」
「俺の構成成分の1%は乙女の恥じらいだからな。残りは勿論サイクロン掃除機だ」
「ふーん……それじゃ、魂は貰うな。スイッチオン!」
「なっ……!?」
千亜がサイクロン掃除機のスイッチを押す。だが、今までの掃除機のような騒音はしない。流石はサイクロン掃除機だ。恐れ入るぜ。
千亜は俺に向けて吸引口を翳す。すると、どうゆうことだろうか、身体から力が抜けていく。まるでサイクロン掃除機のその恐るべき吸引力で力を吸い取られるようだ。
「うぐ……な、なんだ……ち、ちか、らが……」
目眩がして立っていられるず膝をついた。
「あ、ぁ……うぐぅ……」
くっ……これが噂のツインストリームパワーサイクロン構造ってやつか……!駄目だ、まったく抗えない!
「ちょっ……!?恵、急にどうしたのよ!?」
赤子がなにか言ってるかわからない。世界が回る。自分が立ってるか横になっているのかもわからない。
「なに言ってんのよ……あんた、さっき自分で膝ついたって言ったじゃない」
「めーがーまーわーるー」
「ワカメ、てめぇ意外と平気そうだな」
「めーがーまーわーるー」
「棒読み乙」
「めーがーまーわーるー」
「おっ、もう少しで魂の吸い取り終わりだな」
「あっ、モウダメ…バタンキュー」