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《灰色編》19話:コメディとシリアスの堺目ってなんだかわからなくなった今日この頃



「夜の闇には正義が足りないとは思いません?」



「イヤー!やめて!もう無理だって!出ない!出ないから!もうからっからです!だからほんとやめ――(残酷な描写)」


「ぐるあぁああ(残酷な描写)」


「アハハハハハハハハハ」


「うきゃぁあああああああああいああうあああああお(残酷な描写)」



「……出て来るタイミングを間違えてしまいました。誰も私に気付いてくれませんね」



「ぐるぅふぅあぁあ(残酷な描写)」


「も、だ……だ、め…………(残酷な描写)」


「アハハハハハハハハハ」



「さて、これにどうやって割り込みましょうか……」



「あれ?肱岡?こんなとこでなにしてんだ?」


「白々しいですね。本当は始めから気付いていたんではないんですかワカメ?」


「そんなことはない!」


「はぁ……まぁ、いいとします」


呆れたとばかりに肱岡は肩を竦めた。


「それでなんで肱岡がこんなとこにいるんだ?」


「はい。それはですね…そこの銀髪の女に用があってきました」


「………………?」


既に人の姿に戻っていた飛田先輩は頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


「飛田美空――貴女はここで始末します」


「……どうゆうつもりだ肱岡?」


委員超の雰囲気ががらりと変わる。今までのどこか間の抜けた雰囲気とは違い真剣で鋭い。


「それに若林恵、後藤千亜――貴方達もここで始末します」


肱岡はたんたんとそう告げる。そこに感情というものはまるでない。ただ、それが、それであるように。


「おいワカメこいつなんなんだ?」


千亜が声をあげた。


「………………」


続いて飛田先輩が無言で俺に答えを急かす。


「俺のクラスの委員超だ」


そう、今俺達の目の前にいるのは我らが委員超、肱岡鏡花。


「そんなことはどうだっていいじゃありませんか。化け物どもはここで消えてください」


感情の篭らない言葉をただ単純に吐き出す。


「……肱岡、それはどうゆう意味だ?いくらおまえでも千亜に手を出すなら覚悟してもらうぞ」


いつもとは別人。そこにいるのは俺の知ってる肱岡鏡花とはまったく違う人間だった。


「覚悟?一体なんの覚悟ですか?そこらに転がっているゴミどものようになる覚悟ですか?馬鹿も休み休みいってください」


「…………」


「そのゴミどもはまったく使えない奴らでしたね。ホワイトシルバーに手傷ぐらいはおわせてくれると思ったんですが…かすり傷すらおわせられないとは…やはりゴミはゴミ以上にはなりませんね」


「肱岡……」


「はぁ…これなら始めから自分で始末しておけばよかったわ。やっぱり手下なんて邪魔なだけですね」


今、目の前にいるのは誰だ?見た目も、口調も、ちょっとした仕草でさえ俺の知っている肱岡鏡花だ。でも、だからこそ、決定的に何かが、違う。


「………………」


飛田先輩が不意に千亜に目配せする。その瞳は無言で語る。


「美空?」


「………………」


「……わかった。おい、ワカメ!」


千亜は飛田先輩の意志を汲み取ったのか一つ頷くと俺を見る。


「あぁ?千亜?」


「逃げるぞ」


「はぁ?」


「いいから逃げるぞワカメ!」


言うが早いか千亜は俺の腕を掴むと回れ右をすると全力で走りだす。俺はそれに引っ張られる形で走り出す。


「ちょ、どうゆうつもりだ!?」


「美空の命令だ。あーだーこーだ言わずにとっと走れ!」





「なんのつもりですホワイトシルバー?」


走り去っていく、恵と千亜を眺めながら鏡花は美空に尋ねる。


「…………そちらこそ、なんのつもりですの?」


油断なく目の前の『敵』を見据えながら美空は答える。


「質問を質問で返さないでください」


「………………」


美空の瞳は警戒の色を強めつつも真っ直ぐ鏡花を見詰めている。


「沈黙は嫌いです。なにか話してください」


「………………あ」


「惚けた方ですね貴女は…」


はぁと鏡花一つため息をつくと張り詰めていた空気が少しだけ軽くなった。


「……目的はなんですの?」


それでも美空は警戒をときはしない。


「始めに言ったではありませんか。飛田美空――貴女を始末することです」


「………………」


「まさか『あの』一匹狼で有名なシルバーホワイトが高校生をやっているとは思いませんでしたよ。いい年して何をやっているんですか貴女は?目的はなんです?何故今更高校生なんてやっているんですか?」


「………………」


「答える気はありませんか…まあ、それでもかまいません。おおよその予想はついていますから」


「………………」


「『若林恵』ですね?」


「………………」


「7年前から彼についていたかいが有ったということですね。また、性懲りもなく彼に近付いてくるとは…何故、それほどまでに彼に執着しているんです?」


「………………フフフ」


不意に美空は表情を緩めた。


「あ?急に笑い出してどうかしたんですか?気持ち悪いですよ」


鏡花はすっと目を細める。


「……撲殺ちゃんは何故、ワタクシを始末するんですの?」


『撲殺ちゃん』美空は鏡花のことをそのように呼んだ。人間の身でこれまで数多くの化け物を釘バット一つで黙らせてきた鏡花についた通り名は『撲殺女』。人間側、化け物側の両方からその通り名は恐れられていた。


釘だけなら注意しろ。

バットだけならすぐ逃げろ。

釘とバット――両方あったら死んだと思え。


それが肱岡鏡花である。


「私が化け物を始末する理由ですか?そんなことは簡単です。そこに化け物がいるからです」


「それだけですの?」


「……なにが言いたい?」


「撲殺ちゃんはめーちゃんのことが好きなのでしょ?」


「だから?」


「撲殺ちゃんは先程、ワタクシを含め、めーちゃんも殺ると言っていましたわよね?」


美空はニヤニヤと意地の悪い笑みを見せながら言葉を続ける。


「撲殺ちゃんに愛しのめーちゃんを殺れるんですの?」


「べらべらと……てめぇ、ちゃんと話せるじゃありませんか」


「当たり前ですわ。まあ、長く生きてますと声を出すことが面倒臭くなることなんてよくありますわよ。そんなことより、どうなんですの?撲殺ちゃんはめーちゃんのことを本当に殺るんですの?」


「黙れ、化け物。それをてめぇに話す必要はありません」


「フフフ、肯定も否定もなしですの?撲殺ちゃんは案外単純ですわね。それで十分ですわ。わかりました。撲殺ちゃんにめーちゃんを殺る気はないんですのね」


「…………」


「わざわざ、そんな嘘をつく理由はなんですの?」


「…………」


鏡花は静かに美空を見据えて思想する。


どうしたものかワカメのことを引き合いにだされて鏡花は些か頭にきていた。


――何も知らずにべらべらと……。


だが、激情にかられて美空に飛び掛かっては意味がない。今、鏡花がやるべきことは時間を稼ぐことだった。


鏡花は一つ大きく呼吸する。肺が新鮮な空気で満たされ頭に酸素がまわっていく。


――大丈夫だから落ち着け私。


「そうですね」


鏡花はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「確かに私は彼のことが好きです。おそらく、どんな状況になっても私は彼だけは殺さないし、殺せません。それならば何故、私は彼を殺すと嘘をついたのか――そんなことは簡単なことです。建前ですよ、建前。私の立場上そんな感じのことを言っておかなければ後々いろいろと問題になるんですよ」


「箜内出座和」


「?」


「あ、変換ミスですわ。正しくは『くだらないですわ』ですわ。まあ、長く生きてますと文字の変換ミスなんてよくありますわよ」


「……今のでいろいろ台なしになりました。てゆーか面白くないんですけど」


「そもそもワタクシはシリアスなの好きではないんですのよ。人生はらぶ&はっぴーですわ」


今までの張り詰めた空気は何処へいったのか、美空はそう言うとお気楽に笑って見せた。


「惚けた方ですね…」


それに鏡花も若干肩の力を抜くがそれでもまだ警戒は緩めようとはしなかった。


「ところで撲殺ちゃんは名前はなんとおっしゃりますの?」


「化け物に名乗る名は肱岡鏡花です」


「ひーちゃんですわね」


「できればきょーちゃんで」


「それなら合体して卑怯ちゃんですわね」


「だったら秘境ちゃんのほうがかっこよくありませんか?」


「それはともかく――きょーちゃん」


「なんですか?」


「ワタクシとお友達になりませんこと?」


なんてことを美空は飄々と言った。この発言にいわずもがな鏡花はいろんな意味で面食らったのだった。


20部でまだ二日たっていないことに気がつきました。びっくりです。

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